変形菌
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例外的に、変形体・子実体形成を行わない単細胞性鞭毛アメーバである "Hyperamoeba" は(上記参照)、淡水や海からも見つかり、またウニの体腔内からも報告されている[4][17][33]。"Hyperamoeba" に限らず、変形菌は、水中では子実体形成を行わない。

変形菌の子実体は、倒木や落葉、土壌などふつう種によってほぼ決まった基質上に出現する[3]。倒木など枯死した樹木に子実体を形成する変形菌は死木変形菌 (lignicolous myxomycetes) とよばれ、比較的大型の種が多く、最もよく知られている[3][25](下図8b?d)。マメホコリ属(ドロホコリ目)、ウツボホコリ属、ケホコリ属(ケホコリ目)、ムラサキホコリ属(ムラサキホコリ目)の多くの種は、死木変形菌である[3]。枯死木であれば特に明瞭な特異性を示さないこともあるが、針葉樹または広葉樹を特に好む種、よりも樹皮を好む種、さらに特定の分解程度の腐朽木を好む種などもいる[3][25]。例えばアミホコリ属(アミホコリ目)の子実体の多くは針葉樹の腐木にみられ、スミホコリ属(ムラサキホコリ目)の子実体はふつう針葉樹の切り株の樹皮に形成する[25]。樹木から落下した落葉や枝に子実体を形成する変形菌はリター変形菌(落葉変形菌 foliicolous myxomycetes)とよばれ、針葉樹の落葉よりも広葉樹の落葉に多い[25](下図8e, f)。シシガシラホコリ(モジホコリ目)は常緑広葉樹の落葉を好み、またシラタマウツボホコリ(ケホコリ目)は特にクリの落葉やいがを好む[25]。落下また植物体に付いた状態で枯れた花に変形菌の子実体が生じることもあり、エナガウツボホコリ(ケホコリ目)やタマゴホソホコリ(ムラサキホコリ目)の子実体は、クリなどブナ科の落下した雄花序に発生する[3][25]。生木の樹皮に子実体を形成する変形菌も多く知られており、生木変形菌 (corticolous myxomycetes) とよばれる[3][25][34]。生木変形菌としてはキヘビコホコリ(コホコリ目)、ハリホコリ(ハリホコリ目)、キノウエホネホコリ(モジホコリ目)、ミナカタホコリ(所属不明)などがあり、樹種によってやや異なる種の子実体が発生する[25]。枯れた草本(立ち枯れ、刈り取り、敷きわらなどを含む)、ときに生きた草本上に変形菌の子実体が形成されることがある[25](下図8g?i)。リター変形菌と共通する種もあるが、特異的な種もおり、イモムシヒモホコリ(ケホコリ目)、ナバホネホコリ、ハイイロフクロホコリ(図10a)(モジホコリ目)などが見られる[25]。またコケ植物群落上に変形菌の子実体が発生していることもあり、このような変形菌はコケ変形菌 (bryophilous myxomycetes) ともよばれるが[3][25](図5d, 8j)、実際に強い相関があると考えられている例は少ない[35]。特殊なものとして、砂漠などで腐植した多肉植物に子実体を形成する変形菌(多肉植物変形菌 succulenticolous myxomycetes)が知られている[3][25]。このような変形菌は酵母を捕食し、胞子はハエによって散布される[3]。また植食動物の糞に子実体を形成する変形菌(糞変形菌 coprophilous myxomycetes)もおり、多くは偶発的であるが、少数の種は特異的な関係があると考えられている[25]。このような変形菌は厚い細胞壁をもつ胞子を形成し、動物の消化に耐えるためであると考えられている[3][25]8b. 倒木上のススホコリ(モジホコリ目)の変形体8c. 倒木を覆うフタナワケホコリ(ケホコリ目)の子実体8d. 倒木上のムラサキホコリ(ムラサキホコリ目)の子実体8e. 枯れ葉上のジクホコリ(所属不明)の子実体 (金属光沢を示す)8f. 枯れ葉上のコシアカモジホコリ(モジホコリ目)の子実体8g. 茎上のヤニホコリ(モジホコリ目)の子実体8h. 茎上のシロジクキモジホコリ(モジホコリ目)の子実体8i. 草上のウリホコリ(モジホコリ目)の子実体8j. コケ植物上のマメホコリ属(ドロホコリ目)の子実体8k. 空き缶上のススホコリ属(モジホコリ目)の子実体

ただし野外で変形菌の存在を肉眼で確認できるのは子実体またはその直前の変形体の状態であり、本来の生育場所(アメーバ細胞や変形体が生育している場所)とは離れていることもある[6][7]。変形体は基本的に負の走光性を示し、倒木中や腐植層などに生育しているが、光や飢餓などが刺激となって子実体形成期になると、明るい場所や乾燥した場所、高い場所(胞子散布に適した場所)へ移動し、そこで子実体形成・胞子散布を行う[7]。そのため、人工物の表面で子実体を形成することもある(上図8k)。

温帯域では、変形菌の子実体はおおよそ決まった季節に出現する[25]。日本では、春に発生するものもあるが、多くは梅雨の中休みや梅雨明けから見られるようになり、夏期に最も種数が多い[25][35][36][37]。ただし特に山地帯では、メイランアミホコリ(アミホコリ目)、オオクダホコリ(ドロホコリ目)、エツキケホコリ、ヌカホコリ(ケホコリ目)、ルリホコリ、メダマホコリ(モジホコリ目)など秋に発生する種も多い[25][38]。また1年の中で、早春と秋、初夏と秋のように2回子実体が発生する種もいる[25]。冬期には、変形菌は変形体や菌核として倒木の中や落葉層下で過ごしている[39]。特殊なものとして、1年のうち数ヶ月雪に覆われる地域において、春から夏の融雪時にその下の植物遺体や生植物上から変形菌の子実体が生じることがある[7][25]。このような変形菌は好雪性変形菌(好雪性粘菌, nivicolous myxomycetes, cryophilous myxomycetes)とよばれ、ヤマケホコリ(ケホコリ目)、クロミルリホコリ、アイルリホコリ(クロミルリホコリ目)、カレスチアルリホコリ、ザウタールリホコリ、ハイカタホコリ、ハイキララホコリ、ツブキララホコリ(モジホコリ目)などがある[7][25][40][41]
生態的機能

変形菌の栄養体(通常時の体)は単核のアメーバ細胞・鞭毛細胞、または多核体である変形体である。アメーバ細胞・鞭毛細胞は細菌を捕食または可溶性有機物を吸収するが、さらに変形体は酵母菌糸胞子、他の原生生物、生きていない有機物片なども食作用によって取り込み、細胞内消化する[3][6][7][11][16]。また少なくとも一部の変形菌は、消化酵素を分泌してキノコなどを細胞外消化し、可溶性有機物を吸収することができる[3][6]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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