単に粘菌とよばれることもあるが、細胞性粘菌や原生粘菌と区別する意味で真正粘菌または真性粘菌(しんせいねんきん、true slime molds)ともよばれる[1][5][6]。また細胞性粘菌とは異なり、多細胞体ではない変形体を形成するため、変形体形成粘菌[2] (plasmodial slime molds) や 非細胞性粘菌[2] (acellular slime molds) ともよばれる[3]。 変形菌は、その生活環の中に、単細胞のアメーバ細胞または鞭毛細胞である時期、変形体である時期、胞子を形成・散布する子実体である時期をもつ[3][4][5][6][7][8](下図2)。胞子から発芽したアメーバ細胞や鞭毛細胞は単相(染色体を1セットのみもつ)の核を1個だけもち、細菌などを捕食し、分裂・増殖する。このような細胞は配偶子として合体し、複相(染色体を2セットもつ)の接合子となり、これが成長して多核の原形質塊である変形体になる。変形体も運動し細菌などを捕食して成長するが、飢餓刺激などによって子実体を形成する。子実体は、減数分裂によって胞子を形成、散布する(よって胞子は単相)。2. 変形菌の生活環:胞子 (右上) は単相 (1n) であり、発芽して鞭毛細胞またはアメーバ細胞を形成し変換可能である。アメーバ細胞は二分裂で増殖する。これらの細胞は配偶子となり、細胞質融合 (P!)、核融合 (K!) して複相 (2n) の細胞になる (下)。この細胞は核分裂を繰り返し (左下)、多核の変形体 (左) になり、細菌などを捕食して成長する。変形体は子実体 (左上) を形成し、減数分裂 (M!) を通して胞子を形成する。 このように、変形菌における生活環は、ふつう有性生殖と連動している。しかし、このような生活環が有性生殖と連動せずに無性的に起こることもある。この場合、子実体が減数分裂ではなく体細胞分裂によって胞子を形成(単相または複相)、この胞子から発芽した細胞が配偶子合体を経ずにそのまま変形体に成長し、子実体を形成する[4][6][9]。単一の胞子に由来する株が変形体・子実体形成をする場合、ホモタリック(同一株内での配偶子合体が起こる)であると考えられていたが、実際にはこのような例の多くが上記のような無配生殖
特徴
アメーバ細胞・鞭毛細胞3. カタクミホコリ属(ムラサキホコリ目)の胞子と発芽した細胞
胞子が発芽すると、1個の核をもつアメーバ細胞(粘菌アメーバ[10]、粘液アメーバ[11] myxamoeba)または鞭毛細胞 (myxoflagellate, flagellate cell[12], swarm cell[6]) が生じる[6][7][11](図3)。アメーバ細胞は糸状の副仮足をもつ[8][13]。一方、鞭毛細胞はふつう2本鞭毛性であり、細胞頂端から前方へ伸びる長鞭毛と、後方へ伸びる短鞭毛をもつ[6]。長短鞭毛とも小毛を付随しない(むち型)[11]。発芽後のアメーバ細胞と鞭毛細胞の間は、水分条件などによって変換することがある[注 3](水分が多いと鞭毛細胞になる)[3][5][6][7][8][11]。ただし鞭毛細胞を欠く例も知られている[14]。
アメーバ細胞や鞭毛細胞は、細菌などの有機物粒子を捕食、または可溶性有機物を吸収する[3][6][8][11]。アメーバ細胞は、二分裂によって増殖する[3][6][8][11]。この二分裂において、核分裂は開放型(核膜が消失する)であり、極には中心体が存在する[6]。染色体は小さく、確認が難しい[3]。核ゲノム塩基配列はモジホコリ(モジホコリ目)の無菌株においておおよそ解読されているが、繰り返し配列が多く、解析を困難にしている[3]。リボソームRNA遺伝子は染色体上には存在せず、プラスミド上に多コピーが存在する[3]。生活環を通じて、変形菌のミトコンドリアは管状クリステをもつ[15]。
不適な環境下では、アメーバ細胞はガラクトサミンを含む細胞壁を形成し、ミクロシスト (microcyst) とよばれる耐久細胞になる[6][16]。好適な環境になると、ミクロシストは発芽してアメーバ細胞または鞭毛細胞を生じる[6]。
変形菌の中には、単核のアメーバ鞭毛細胞である時期のみをもち、少なくとも培養下では変形体や子実体を形成しないものも知られている。このような生物は、Hyperamoeba に分類されていた[4][17]。分子系統学的研究からは、Hyperamoeba とされる生物が多系統群であり、モジホコリ属やカタホコリ属、ムラサキホコリ属などさまざまな系統の変形菌を含んでいることが示されている(2020年現在では Hyperamoeba は、モジホコリ属のシノニムとされている)[18]。