培養に基づく調査からは、土壌中の原生動物群集において変形菌が大きな割合を占めていることが示唆されており、いくつかの畑の土壌では全アメーバの50%以上を変形菌が占めていると報告されている[16]。またメタトランスクリプトーム解析(環境中のRNAに基づく解析)からも、ドイツの土壌において、原生動物の中で変形菌が最も多いことが示唆されている[42]。
このようにおそらく土壌中での変形菌の生物量は大きく、微生物捕食を通じて、微生物群集のサイズや種組成に大きく影響していると考えられている[16]。さらに変形菌は微生物を捕食・分解することにより、おそらく物質循環にも重要な役割を演じる。例えばアメーバ類は細菌を捕食して土壌中にアンモニアを放出し、植物の成長に寄与することが示唆されている[16]。
他生物との関係9a. 変形菌食性のマルヒメキノコムシ属(ヒメキノコムシ科)9b. ケホコリ(ケホコリ目)の子実体上に寄生した Byssostilbe(子嚢菌門フンタマカビ綱)
上記のように、変形菌は微生物(細菌、菌類、他の原生生物)の捕食者であるが、変形菌を食物とする生物も存在する。変形菌の子実体には、カタツムリやダニ、トビムシ、双翅目(幼虫)、甲虫などの動物が集まっていることがある[43][44]。特に甲虫が多く知られており、変形菌食性の種が含まれる科としてタマキノコムシ科、デオキノコムシ科、タマキノコムシモドキ科、マルハナノミダマシ科、テントウダマシ科、ヒメマキムシ科、ツツキノコムシ科、ヒメキノコムシ科がある[43][45]。変形菌の属によって、集まる甲虫の種構成が異なることが報告されている[45]。このような甲虫の中で、ヒメキノコムシ科(図9a)が最も普遍的であり、変形菌子実体でのみ見つかり、幼虫も成虫も変形菌子実体を食物としている。ヒメキノコムシ科の成虫はしばしば変形菌の胞子を多数付着させており、また大顎に胞子の運搬に関わると考えられている窪みが存在する[43][44][46]。この甲虫は、おそらく変形菌の胞子散布に寄与していると考えられている。一方でセスジムシ科やベニボタル科の甲虫は、変形菌の変形体捕食者であると考えられている[47]。
変形菌の子実体上には菌類が寄生していることがあり[44]、Nectriopsis やByssostilbe、Melanospora(子嚢菌門フンタマカビ綱)、Acrodontium(子嚢菌門クロイボタケ綱)などが報告されている[25](図9b)。 変形菌は、人間との直接的な関わりをほとんどもたない。ただし、下記のようないくつかの接点がある。 変形菌は微生物の捕食者であり、直接には動物や植物の病原体となる事はない。しかし、敷わらを施したりビニールハウスなどで湿度が高くなると、ときに変形菌が発生し、作物の幼い苗に這い上がってこれを窒息死させたり、イチゴやメロン、モロヘイヤ、レザーファーン(鑑賞用シダ)を汚損して害を与えることがある[5][7][48][49][50]。またハイイロフクロホコリ(Physarum cinereum
人間との関わり
農業被害など10a. 芝を覆ったハイイロフクロホコリの子実体10b. ススホコリの変形体
ブドウフウセンホコリ(キノコナカセホコリ、Badhamia utricularis)やイタモジホコリ(Physarum rigidum)、マンジュウドロホコリ(Enteridium lycoperdon)などの変形体は、ナメコやマイタケなどの栽培キノコを食害(細胞外消化)することがある[5][7][52][53]。
1973年、米国のダラスでは湿度が高かったため、芝生や電柱にススホコリ(モジホコリ目)の黄色い変形体(図10b)が多数発生し、エイリアンの襲撃と思われて大騒ぎとなったことがある[5][6][7][46][54]。また近年、趣味としてのクワガタムシの飼育が広く行われているが、粉砕したシイタケ廃ほだ木(朽ち木マット)で満たしたプラスチック性飼育容器の中に、変形菌の変形体が突然出現し、飼育者を驚かせることがある[55]。
食用(英語版)の変形体やマンジュウドロホコリ(英語版)の若い子実体を「月の糞」(caca de luna) と呼び、揚げて食用とすることがある[5][6][56][57]。
中国では、土中からまれに「太歳」とよばれる肉質の塊が見つかることがある。「肉霊芝」ともよばれ、始皇帝の時代より不老不死の妙薬として記されている。2008年、中国陝西省で見つかった「太歳」は、当初は白く球状の塊であったものが2日後には茶色く扁平になったとされる(重さ17キログラム)。このような「太歳」は変形菌であるとされることもあるが、変形菌の変形体や子実体の特徴とは合致しない点もある[58]。
生物学の材料として11a. セイヨウカノコソウの根へ伸びるモジホコリの変形体[59]
変形菌は、生活環の中で巨大多核細胞である変形体を含むさまざまな状態に変化するため、細胞サイクルや分化、原形質流動、細胞骨格、運動、有性生殖などさまざまな研究の材料として用いられている[6]。