変形菌
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飢餓や乾燥、温度、光刺激などによって、変形体子実体形成を開始する[5][6][7][8]。子実体形成は不可逆的であり、形成途中から変形体に戻ることはない[6][7]。1個の変形体は、1個または多数の子実体を形成する[6]。変形体はふつう子実体形成時になって初めて人目に触れる場所に出現するが、大きな変形体として現れるもの(モジホコリ類など)や、変形体が分断化して現れるもの(アミホコリ類など)がいる[25]。子実体形成にかかる時間は短く、ふつう24時間以内に完了する[7][20](下図5a)。ススホコリ(モジホコリ目)の子実体形成5a1. 変形体5a2. 形成中の子実体5a3. 子実体(着合子嚢体)

子実体は、単独に生じるもの(孤生)や、複数がそれぞれかなり離れて形成されるもの(散生)、複数がまとまって生じるもの(群生)がある[26]。子実体が密生した小群に分かれて生じているものは、束生ともいう(ムラサキホコリ属など)[26](下図5b)。5b. サビムラサキホコリ(ムラサキホコリ目)の束生した子実体5c. トゲケホコリ(ケホコリ目)の子実体(無柄の単子嚢体)5d. ブレフェルトホコリ属(ムラサキホコリ目)の子実体(着合子嚢体)

変形菌の子実体 (fruiting body, fruit body, sporocarp) は、いずれも胞子胞子嚢(子嚢)の中に内生する。この特徴は、細胞性粘菌ツノホコリ類とは異なる。胞子を内生するため、変形菌の子実体は子嚢体 (myxogasterocarp) ともよばれる[7]。子実体はしばしば柄をもち、基質上に広がった変形体に由来する変形膜の上に形成される[6][7]。変形菌の子実体において、胞子以外(子嚢壁、柄、変形膜など)は基本的に非細胞性であり、細胞外物質でできている[3][5]。ふつう子実体は高さ 0.5?4 mm 程度であるが、高さ数 cm になるものもいる(ムラサキホコリ属など)。屈曲子嚢体や着合子嚢体(下記)はしばしば大型であり、幅 10 cm 以上になるものもいる[26]。一方、ハリホコリ属(ハリホコリ目)やニセハリホコリ属(ニセハリホコリ目)の中には、柄と数個の胞子のみからなる微小な子実体を形成する種も知られている[27][15]。このような種は、以前は原生粘菌に分類されていた。

変形菌の子実体(子嚢体)は、以下の4型に類別される[3][6][21]

単子嚢体(sporangiocarp, sporocarp, sporocyst)(上図5b, c, 下図5e)1個の胞子嚢(子嚢)からなる子実体。柄をもつもの(有柄)とこれを欠くもの(無柄)がある。変形菌の中で最も一般的な形であり、おそらく変形菌における祖先的状態である。複数の単子嚢体の柄が接着して共通の柄に複数の胞子嚢が付いているものもあり、このような構造は掌状子嚢体ともよばれる(下図5f)。

屈曲子嚢体(蟠曲子嚢体[11][26] plasmodiocarp)(下図5g)網状の変形体の太い脈が、そのまま胞子嚢になった細長く網状の子実体。一部が分かれて単子嚢体になることもある。柄はない。ヘビヌカホコリ(ケホコリ目)、クネリカタホコリ、ハイイロフクロホコリ(モジホコリ目)、ツナホコリ属(所属不明)などに見られる。

着合子嚢体(著合子嚢体[26]、塊状子嚢体[11] aethalium, pl. aethalia)(上図5a, d, 下図5h)変形体全体が分断せずにそのまま大きな塊状になった子実体。構成単位である胞子嚢が明瞭な場合から、全体が融合している場合まである。共通の皮層で覆われている。フンホコリ属(アミホコリ目)、ドロホコリ属(ドロホコリ目)、スミホコリ属(ムラサキホコリ目)、ススホコリ属(モジホコリ目)などに見られる。

偽着合子嚢体(擬着合子嚢体 pseudoaethalium, pl. pseudoaethalia)(下図5i)着合子嚢体に似ているが、多数の単子嚢体が密着して出来ており、個々の胞子嚢が外観から識別可能である子実体。クダホコリ属(ドロホコリ目)、ハシラホコリ属(ケホコリ目)、カタクミホコリ属(ムラサキホコリ目)、ミナカタホコリ属(所属不明)などに見られる。
5e. カタホコリ属(モジホコリ目)の柄をもつ単子嚢体5f. ブドウフウセンホコリ(モジホコリ目)の掌状子嚢体5g. ヘビヌカホコリ(ケホコリ目)の屈曲子嚢体5h. マンジュウドロホコリ(ドロホコリ目)の着合子嚢体5i. エツキクダホコリ(ドロホコリ目)の偽着合子嚢体

変形体から子実体が形成された際には、各子実体または複数の子実体の下に変形体の一部が残り、薄い膜状の構造となる。この構造は変形膜 (hypothallus, pl. hypothalli) とよばれる[3][6][21]。変形膜はふつうフィルム状であるが、海綿質、石灰質であるものもいる。

子実体形成(特に柄形成)と変形膜との関係には、以下のような多様性がある[11][21][27]

変形膜下性(サブヒポタリック、subhypothallic development; myxogastroid)変形体表面の粘液鞘が変形膜になり、盛り上がって胞子嚢(子嚢)になる部分の基部が細くなって柄となる。そのため変形膜と柄は連続している。柄の内部にさまざまな残留物が含まれている。

変形膜上性(エピヒポタリック、epihypothallic development; stemonitoid)変形体下面が変形膜を形成し、その上の変形体が盛り上がり胞子嚢(子嚢)になるとともに柄を内生的に形成する。柄の内部には、残留物はない。これに類似するが、柄の内部に残留物が多いものは特に primary development とよばれる。

変形菌の子実体は、柄 (stalk, stipe, sporangiophore) をもつもの(有柄 stalked)と、これを欠くもの(無柄 sessile)がある。柄は中空または中実であり、中実の場合は胞子状細胞、残留物、繊維質、粒状物、石灰などを含む[6][21]

子実体において、胞子を含む構造は胞子嚢 (sporangium, pl. sporangia; sporotheca, pl. sporothecae; 子嚢 capitulum, pl. capitula) とよばれる[21]。胞子嚢の形には、球形、楕円形、円柱状などがある。胞子嚢(子嚢)を構成する表皮構造は、子嚢壁(外皮[11]; peridium, pl. peridia) とよばれる[6][21]。子嚢壁は1層、2層、または3層からなり、膜質、軟骨質、石灰質、殻質など質感は多様である[21]。ルリホコリ属(モジホコリ目)などの子嚢壁は薄い複数層からなり、干渉光によって金属光沢の構造色を示す[3](下図5j, 8e)。子嚢壁表面には結晶性(星形、ツノ形、鱗形、多角形など)または非結晶性の石灰炭酸カルシウムなど)が沈着していることがある(特にモジホコリ目)[8][21][28](上図5e)。子実体形成過程で、石灰が融けて再結晶化することもある[21]。このような石灰が白色以外に黄色や青色などに着色していることもあるが、これにはマンガンやバリウム、亜鉛などの無機イオンが関わっていることが示唆されている[28][29]。また子嚢壁表面にシュウ酸カルシウムを含むものもいる[21]5j. キンルリホコリ(モジホコリ目)の子実体は金属光沢を示す5k. シロサカズキホコリ(モジホコリ目)の子実体(蓋状に裂開)5l. クモノスホコリ(アミホコリ目)の肋状に残った子嚢壁5m. ホネホコリ属(モジホコリ目)の子実体: 裂開した胞子嚢中に半球状の軸柱が見える。


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