変形菌に見られる変形体は、以下の3型に類別される[3][4][6][11][21]。ただし、中間的なものも見られる[6][7][21]。可視変形体以外は、野外で確認するのは難しい[3]。
原変形体(プロトプラスモディウム[22]; protoplasmodium, pl. protoplasmodia)成長しても微小であり、核の数も少ない。網状構造や規則的な原形質流動は見られない。ふつう1個の子実体を形成する。コホコリ属(コホコリ目)、ハリホコリ属(ハリホコリ目)、クビナガホコリ属(クビナガホコリ目)などに見られる[23]。
透明変形体(アファノプラスモディウム[22]; aphanoplasmodium, pl. aphanoplasmodia)成長すると、細い原形質糸からなる粗い網状構造となる。原形質は均質で規則的で速い原形質流動を示す。薄く、色は透明、子実体形成直前に着色する。粘液鞘を欠く。ふつう分割して子実体になる。ムラサキホコリ属やカミノケホコリ属(ムラサキホコリ目)などに見られる[24]。
可視変形体(ファネロプラスモディウム[22]; phaneroplasmodium, pl. phaneroplasmodia)(図4a-c)成長すると、網状で縁辺が扇形の構造となる。大型であり、幅が 1 m 以上になるものもいる。原形質は顆粒状で規則的で速い原形質流動を示し、秒速 1 mm 以上に達することがある[3]。色はふつう白色から黄色、ときにオレンジ色、褐色、赤色、灰色、緑色、青色など。色は環境条件で変わることもある[20]。厚い粘液鞘で覆われる。ふつう分割して子実体になる。
変形体は基質上を匍匐し(時速数cmに達することもある[7][20])、負の走光性やグルコースなどに対する正の走化性を示す[6](下図4c)。変形体の通った跡には、粘液質が残されることがある[6][7]。若い変形体は、同じ遺伝型の他の変形体と融合して成長することがある[6][7][11][20]。また変形体を分断しても、それぞれ独立した変形体となる[7][20]。変形体は、細菌や酵母、微細藻、胞子、生きていない有機物片、さらに変形菌のアメーバ細胞や鞭毛細胞などを食作用によって取り込み、細胞内消化する[3][6][7][11]。また少なくとも一部の変形菌は、消化酵素を分泌してキノコなどを細胞外消化し、可溶性有機物を吸収することができる[3][6]。モジホコリなどの変形体はオートミールを用いて培養できるが、この際に変形体はオートミールを細胞外消化していると考えられている[20]。4c. モジホコリ(モジホコリ目)の変形体の運動4d. イタモジホコリ(モジホコリ目)の菌核
乾燥や高温、低温など不適条件になると、変形体は菌核 (sclerotium, pl. sclerotia) とよばれる構造に転換する[6][7][8][11][20](上図4d)。菌核は、厚い壁で囲まれた小さな(直径 10?25 μm)多核細胞 (spherule, macrocyst[注 5]) の集合体である[6][7]。菌核は耐久構造であり、長期間休眠することができる(ただし一般的に胞子ほど長期間ではない)[11]。環境が好転すると、菌核は発芽して融合し、再び変形体になる[6]。 飢餓や乾燥、温度、光刺激などによって、変形体は子実体形成を開始する[5][6][7][8]。子実体形成は不可逆的であり、形成途中から変形体に戻ることはない[6][7]。1個の変形体は、1個または多数の子実体を形成する[6]。変形体はふつう子実体形成時になって初めて人目に触れる場所に出現するが、大きな変形体として現れるもの(モジホコリ類など)や、変形体が分断化して現れるもの(アミホコリ類など)がいる[25]。子実体形成にかかる時間は短く、ふつう24時間以内に完了する[7][20](下図5a)。ススホコリ(モジホコリ目)の子実体形成5a1. 変形体5a2. 形成中の子実体5a3. 子実体(着合子嚢体)
子実体