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墨の原料である膠は動物性たんぱく質で腐敗しやすいため、伝統的な墨は暑い時期には製造できない[1]
採煙
植物油等を入れた素焼きの器の灯心に点火して蓋についた煤を採取する[1]
混和・混練
湯煎などで膠を溶かして煤と合わせて混和機などで混和・混練し、さらに香料を加えて職人が手練りを行う[1][2]
型入れ
伝統的な製法では手練りの工程で十分に墨玉を練り、これを4つのパーツからなる木型に入れて数十分放置することで膠が冷えて成型時の形状が保持される[1][2]
乾燥
木型から取り出し、1日目は水分が多めの木灰、2日目は水分が少なめの木灰の中で乾燥させ、さらに木灰から取り出して1?2か月乾燥させる[1]
彩色・包装
乾燥後に水洗いし表面を磨いてから金粉や銀粉などで彩色する[1]
古墨

固形墨の場合は「墨は成長する」という言葉があり、特に20年から50年経ったものは「古墨」と呼ばれ珍重される[1]
工芸品としての墨

墨を練る技術以外に、高級品では墨の形も美術工芸的に重要となる。墨型彫刻師が木型を製作し、多様な形態が珍重される。日本で墨型彫刻を専業で行なう工房は、2014年時点で奈良の中村雅峯(「型集」7代目)ただ一人[19][20][21]
液体墨

日本では明治中期に即座に使えるような墨汁の製造が行われるようになった[3]。膠を使った墨汁は低温でゲル化するのを防ぐため、塩化カルシウムなどを添加しているが、その吸湿性のため乾燥が遅い[3]。また、金属腐食性があるため筆ではない製図用のペンなどに用いるには不適当とされる[3]

1957年(昭和32年)にはポリビニルアルコール(PVA)を利用した墨汁が初めて特許申請された[2]。膠の代わりにポリビニルアルコールといった合成樹脂を用いたものは、腐敗しにくく、低温で凝固しにくく、乾きが早いといった特徴がある[18]。ただし、これらの液体墨も5年くらいで使い切ったほうが良いとされている[1]
墨書の特質

墨の吸い込みが良い画宣紙に淡墨で墨書すると濃淡が現れ、書道では濃い線の部分を基線、基線の周囲の淡い色の部分を滲みと呼んでいる[2]。これは墨の大きな粒子は紙の表面に押し付けられて留まり基線となり、墨の細かな粒子は磨墨液(中の水)の拡散で基線の周囲に運ばれて滲みとなっている[2]。また、基線の部分にはカーボンの粗粒子が多く、滲みの部分は細かな粒子が多くなるためこのように見えると考えられている[2]

自分で摺る固形墨の場合は濃淡をつけやすく、液体墨よりも粒子が細かい[1]。液体墨は濃度が均一で、見た目がやや平板になるが、粒子は粗いため力強い線となる[1]。このような特徴の違いがあるため書家によっては固形墨と液体墨を使い分けている[1]。また、大きい作品の場合は大量の墨が必要となるため液体墨が使われることが多いが、固形墨が使われる場合もあり、固形墨を摺るための墨磨機という専用の機械を用いることもある[1]
儀式

日本に人の顔などに墨を付ける伝統儀式がある(「墨つけとんど」「墨付け正月」)[22][23]
脚注[脚注の使い方]^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t “教えて!墨のこと”. 光村図書出版. 2021年1月7日閲覧。
^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 野田盛弘「奈良の墨」『化学と教育』第64巻第10号、日本化学会、2016年、514-517頁、doi:10.20665/kakyoshi.64.10_514。 
^ a b c d 浅岡博、矢沢重嗣「彩料研究」『地図』第1巻第4号、日本地図学会、1963年、39-43頁、doi:10.11212/jjca1963.1.4_39。 
^ “硯”. 日本大百科全書(ニッポニカ). 小学館. 2020年6月13日閲覧。
^ 末次信行「甲骨版上の毛筆書写文字」『千里金蘭大学紀要』第16巻、千里金蘭大学、2019年、133-146頁、.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}NAID 120006821873。 
^ a b 綿谷 2014.
^ Young Jung Ok (2013). ⇒“2.2 The Development of Printing Materials”. In The Center for International Affairs(韓国学中央研究院韓国文化交流センター). Early Printings in Korea. Understanding Korea Series No.2. The Academy of Korean Studies Press. ⇒http://cefia.aks.ac.kr:84/index.php?title=Early_Printing_in_Korea_-_2.2_The_Development_of_Printing_Materials 
^ 朴鐘鳴, 権仁燮 (2010年12月6日). “ ⇒〈渡来文化 その美と造形 36〉墨・筆”. 朝鮮新報. 朝鮮新報社. 2020年10月26日閲覧。
^ Chung Ah-young (2018年1月29日). “Meok - Artisan committed to inkstick making tradition”. The Korea Times. The Korea Times Co.. 2020年10月26日閲覧。
^ 吉村武彦「墨書土器研究の現在 -データベース化された墨書土器-」『駿台史学』第117巻、駿台史学会、2003年、101-130頁、hdl:10291/1547。 
^ 石黒雅史 (2020年10月10日). “国内最古級のすずり? 下稗田遺跡で3点出土 福岡・行橋市”. 西日本新聞. 2020年10月19日閲覧。
^ 大森顕浩 (2019年2月26日). “大学倶楽部・国学院大: 福岡・佐賀で出土の硯 紀元前の国産か 柳田客員教授が調査”. 毎日新聞. 2020年10月19日閲覧。
^ 「9.墨」『化学の目でみる日本の伝統工芸』日本化学工業協会〈月次活動報告書『アクティビティーノート』連載シリーズ10〉、2011年、10頁。https://www.nikkakyo.org/upload/plcenter/563_597.pdf。 
^ “パインケミカルの基礎知識: 松やに(ロジン)を訪ねて: 03.紀州松煙墨”. ハリマ化成グループ (1998年). 2020年6月13日閲覧。
^ South, Helen. “ ⇒India Ink - What is India Ink?”. Drawing Glossary. About.com. 2016年11月13日閲覧。


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