増幅回路
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安定した動作のためには、ベース電流(=コレクタ電流÷hFE)の数倍以上の電流がR1とR2を流れるようにする。

級「アンプ (音響機器)#級」も参照

ここでは増幅回路の、特に素子の動作を指しての級について述べる。アンプ装置全体としての級、特にオーディオ用のそれについてはアンプ (音響機器)#級を参照のこと。
バイアス量

真空管トランジスタなどの増幅素子は、入力信号がある一定の直流値(電圧or電流)範囲にあるときにのみリニアな増幅結果が得られるという特性をもち、その範囲を外れて使用すると出力信号は歪む。そこで、入力信号に対して一定の直流値(電圧、電流)(これをバイアス値という)を加えて素子の適切な動作範囲に収まるようにする必要がある。アナログ増幅回路はバイアスの量によりA級、B級、C級に分類される(厳密に区別できるものではない)。デジタルアンプのことをD級、その他近年E級?H級までデジタル技術を応用したアンプが呼ばれているが、どれも方式を示す便宜的なもので、特にグレードを示したりするようなものではない。
A級

A級増幅回路とは、増幅素子の入力と出力の関係が直線的(比例関係)になるよう、入力信号の全瞬時値にわたり出力が直線的に対応するバイアス電圧・電流を与え、入力と相似の出力が得られる方式である。B級やC級と比べて最も歪みの少ない出力が得られるが、一定のバイアス電流が常時流れているので消費電力が大きく、入力信号が無い時でも増幅素子には直流電流が流れるため電力を消費する。電力増幅回路を構成した場合、供給電力に対する効率は最大50%である[4]
B級

B級増幅回路とは、交流の入力信号のうち片側の極性のみが増幅されるように増幅素子にバイアスを与えた方式である。バイポーラトランジスタを増幅に用いる場合、電流制御素子なのでベース-エミッタ間にバイアス電流を与えるとPN接合のオン電圧である約0.2V?0.7V前後の電圧となる。B級PP増幅と歪

入力電圧が負の場合には、トランジスタに入力される電圧はオン電圧より低くなるため、コレクタ電流はゼロとなり、出力されない。入力電圧が正の場合にのみ、入力電圧の振幅に比例した出力電圧が得られる。

音声信号増幅の場合には、2個の増幅素子を正負対称に接続した回路(プッシュプル回路)により、入力信号と同じ波形が出力されるようにする。SSB送信機の出力ブースター(リニア・アンプ)では半周期増幅のままLC共振回路(通称タンク回路)で目的出力を得ている。

出力の効率が正弦波増幅の場合で素子など回路損失が無い場合、最大 π/4 (≒78.5%)[5]とA級増幅回路の最高効率50%に比べ高効率で、特に小信号時の動作電流が非常に少なくできる(定損失が少ない)ため、(大信号も小信号も扱うオーディオアンプなどの)出力段に用いられる。

また、小信号時での歪み率が重要問題となるオーディオアンプなどでは、プッシュプル回路で上下のトランジスタが切り替わるあたりでの歪み(クロスオーバー歪み、およびノッチング歪み:図参照)を減らすため、バイアスを多めにかけて小信号時はA級動作させるものがありそれをAB級という[6]

 また、さらにバイアス値を選んで、プッシュとプルの両方を常にA級動作させることもあり、これは純A級などと称した。

 PN接合を利用するバイポーラトランジスタの電流がゼロとなる瞬間に生じて音質を劣化させる「ノッチング歪み」の回避のために入力に応じてバイアスを増やして電流ゼロの瞬間を作らない製品も存在した。少数キャリア消滅ノイズは超高周波成分まで含まれて発生すると消せないので、高音質を追求するオーディオアンプではバイポーラ・トランシスタを避けて多数キャリアで動作する大出力電界効果トランシスタ(FET)を用いて少数キャリア消滅ノイズを避けるようになった。

 B2級、AB2級というのは、真空管アンプで、グリッド電圧が正領域まで利用する方式を言い、それに対して通常の負電圧の範囲に留めるものをB1級、AB1級と呼んだ。
C級

C級増幅回路とは、バイアスを遮断値よりも素子がOffになる側にかけて、入力信号の電圧が十分に高い場合にのみ出力電圧が得られる、スイッチング動作に似通ったものである。真空管の場合はバイアスを深く、トランジスタの場合はバイアスをゼロ乃至わずかしか掛けない。

入力信号により直流電源をスイッチングする形となり、そのパルス電流でLC共振回路を駆動して、目的の周波数の電力を取り出す(この目的でのLC共振回路を通称タンク回路と呼ぶ。SSBリニアアンプの非対称B級ブースター回路でも同じ)、狭帯域高周波増幅回路である。
直流供給電圧に音声信号を重畳することで振幅変調器となる。

出力周波数が入力の整数倍のものを周波数逓倍器(w:Frequency multiplier)という。

無駄に流れる電流がないため消費電力の効率は最も良い。
その他の級
D級「アンプ (音響機器)#デジタルアンプ」も参照

D級は、増幅素子の動作点(バイアス)による区分ではなく、デジタルアンプによる方式を指す。

デジタルアンプは、パルス幅変調パルス密度変調を応用し、スイッチング回路で電力増幅を行うことで高効率増幅(最大で90%以上)を実現する。

A-C級という分類が増幅素子の直線動作範囲に対する動作中心位置(バイアス電圧、電流)の相違なのに対し、スイッチング動作の平均値を出力とするものであり、増幅の動作原理そのものが質的に異なる。

スイッチング回路は矩形波しか出力が出来ないが、入力電圧をパルス幅変調やパルス密度変調して電力増幅した場合エネルギー効率が高い。このスイッチング回路から出力されるのは矩形波であるが、ローパスフィルタを通す事で原信号を取り出すことが出来る。これによって、任意の信号を高いエネルギー効率で増幅することが出来る。

「1ビットアンプ」などともされる。携帯オーディオ機器では、その高い効率によってバッテリーの電力消費を抑えて動作時間を延ばすことが出来る。
E級

E級増幅器は、共振回路にタイミングを合わせてスイッチング回路で駆動することにより電力増幅を行う方式である。そのため、D級増幅器に比べて効率が高くなっている。名称についてD級と同様に、増幅素子の動作点(バイアス)は関係ない。前出D級増幅器と異なりデューティ比は一定である。PWMは不可能であり、共振する関係上、狭帯域増幅器であり、なおかつ出力振幅は一定である。その為、単体では振幅変調に対応することができない。D級増幅器が増幅素子を最低2個要するのに比べ、最低限増幅素子を1個で構成できるためデッドタイムの生成などが不要である。それにより回路はD級増幅器よりもシンプルにすることが出来る。
代表的な構成方式
シングル

1個の増幅素子で信号を増幅する回路で、もっとも基本的な増幅回路である。プッシュプルに対して使われるレトロニムである。正負対称の増幅を行うためにはA級増幅回路とする必要がある。
プッシュプル

(en:Push?pull output)2個の増幅素子を正負対称に接続して、それぞれ一方の極性の信号のみを増幅する方式がプッシュプルである。基本的にはバイアスはB級とするがA級動作させる場合もあり詳細はアンプ (音響機器)#級を参照。

回路図上で各極のトランジスタが縦に重ねて記されるところからトーテムポールとも呼ばれる。デジタル回路CMOSも一種のプッシュプルである。

ここで示す回路図は、原理の説明のための簡略化したものである。熱暴走対策などがなされていないものもあるので、実際の回路を組む場合は注意を要する。
DEPPDEPP

Double-Ended Push-Pull - 出力端が2個であることから後述SEPP方式に対してこの名ができた(レトロニム)。それまでは単に「プッシュプル:PP」と呼んだ。
図に示したような出力を相互に逆極性としてトランスで出力を得る基本的な構成で、通常B級動作を基本とする。
入力側は相互に逆極性に励振する。逆極性励振を行うためには図示の入力トランス方式のほか、位相反転増幅器方式がある。
入力トランスの2次側の中点タップからバイアス電流を供給し(シリコントランジスタなら約0.6V前後の電圧となる。構造やロットにより微妙に異なる)トランスの両端から正相側と逆相側を取り出す。
トランジスタはエミッタを共通にしたエミッタ接地になっており、それぞれのコレクタが出力になっている。
入力信号が正側の場合と負側の場合で、それぞれ片側のトランジスタと回路が働き、出力トランスの1次側の中点タップから、トランスのどちらかの側に向けて電流が流れる。

SEPP

Single-Ended Push-Pull - 出力端が1個であることからこの名がある。 SEPPの起源は、オーディオ・アンプの特性悪化要因であるトランスを排してスピーカーを駆動するOTL(Output Transformer Less)アンプであり、TV水平偏向出力管などスイッチング真空管を複数並列接続して最適負荷インピーダンスを下げると共に、インピーダンスが100Ω?300Ωと高いスピーカーを負荷に繋いで使ったものであるが、スピーカー可動部の質量が大きくなることから、主に低音専用スピーカー(ウーファー)となった。そのOTLアンプの派生として、非コンプリメンタリー回路図の上下段をA級動作として下段の出力に抵抗を挿入、この抵抗の電圧降下で上段のバイアスと励振を行うSRPP(en:Shunt regulated push-pull amplifier)が作られた。
 OTLアンプ回路はそれまでのトランスを使ったプッシュプル回路(前出DEPP)とは大きく違うことから、負荷接続の特徴を取ってSEPPと呼ぶようになった。 それらはトランジスターが普及する以前の1950年代のことであり、当時の日本では他に追随を許さない先端電子技術書であった「
ラジオ技術」誌上で様々な試行結果が報告されていた。
コンプリメンタリSEPP (コンプリメンタリ)

信号の正側では、ベースから電流を吸い込むNPNトランジスタで出力から電流を吐き出す向きに駆動し、信号の負側では、ベースから電流を吐き出すPNPトランジスタで出力から電流を吸い込む向きに駆動する。エミッタが共通になっており、どちらのトランジスタもエミッタ・フォロワになっている。トランジスタにより可能になった回路で、入出力のトランスやコンデンサをなくすことも可能になった。

ただし、完全に対称な特性を持つコンプリメンタリー素子は原理的に存在しないため、出力波形には非対称性歪が含まれる。

コンプリメンタリー素子を用いないSEPPアンプとしては、金田明彦による「完全対称アンプ」が自作派の間で有名である。これは、クロス・シャント・プッシュプルのフローティング電源を接地してSEPPに変形した回路であるが、上側トランジスタと下側トランジスタの動作点が異なるため、動作の非対称性は払拭されない。


SEPPで大出力を必要とする場合は、コンプリメンタリーのトランシスターそれぞれをダーリントン接続のドライバーとする「ダーリントン・コンプリメンタリー接続」とする。現在はこの方式が主流である。
非コンプリメンタリSEPP (非コンプリメンタリ)

同じ極性の素子でSEPPを構成しようとするとこのようになる。

 大電力トランシスターが開発されると、真空管に比べて低圧大電流なのでSEPP方式でインピーダンスが数Ωの一般のダイナミックスピーカーを直接駆動可能なので、高音質を追求するオーディオ・アンプの標準方式となって、一時は右図のような入力トランス駆動の製品も一部見られたが、主流は先出コンプリメンタリーのトランシスター対にそれぞれ大出力トランシスターをダーリントン接続することで等価的に大出力コンプリメンタリー接続とするのが圧倒的な主流となった。大出力トランシスターからみれば非コンプリメンタリーで、その駆動部がコンプリメンタリーとなっている。 そのためSRPP方式は真空管アンプに限られた。車載拡声器では逆に一般車両の12V電源でトランシスターのSEPPでは最適負荷インピーダンスが低すぎることと、様々な負荷に対応させる要求から出力トランス方式としてインピーダンス整合に対応している。
その他クロス・シャント プッシュプルの一例。初出の文献より

その他のプッシュプルの方式に、クロス・シャント プッシュプル[7](似た回路が、ほぼ同時期に日本国外でも複数、おそらく独立して考案されており、トランスレスの「Circlotron」(w:Circlotron、商標)などがある)、McIntoshのUnity Coupled circuit、半導体アンプではヤマハのフローティング&バランスなどがある。


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