境界層
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このため、壁面近傍の流体へ運動量が供給され続けるので層流境界層よりも剥離しにくい。この性質に注目し、失速を嫌う飛行機の翼には意図的に乱流を作り出すための突起であるヴォルテックスジェネレータがしばしば設けられる。また速度の平均化が起こるため、壁面付近で急激に減少する速度分布を持ち、従って摩擦抗力が大きい。
境界層剥離「Flow separation(英語版)」も参照

境界層剥離とは、境界層が物体表面から離れた位置に形成されることを指す。

下流に行くほど流域が広くなるような流れ場では、下流に行くほど圧力が高くなる圧力勾配が形成される[注 2]。このような圧力の勾配を逆圧力勾配と呼ぶ。勾配はまた、ベルヌーイの定理から、下流側に行くほど流速が減少することも意味している。このため、強い逆圧力勾配をもつ流れでは、境界層内の比較的流速の小さい領域で流速が負の値となって逆流が発生する。このとき、境界層が逆流領域の上に形成されるため、境界層が物体から剥がれたように見えることから、この現象を境界層剥離と呼ぶ。

境界層剥離は失速の原因となるため、航空機の設計において非常に重要な現象である。
境界層制御詳細は「境界層制御」を参照

航空機の主翼の境界層を制御する複数の手法を意味する。層流境界層維持が目的時には、層流制御 (Laminar flow control, LFC) とも呼ばれる。高揚力装置として短距離離着陸機等で使用される。
境界層方程式

境界層について連続の式ナビエ-ストークス方程式の各項のオーダーを検討すると、次の、流れの方向に対する運動方程式を得ることが出来る[3]。この式を境界層方程式(boundary layer equations)という。 u ∂ u ∂ x + v ∂ u ∂ y = U ∂ U ∂ x + ν ∂ 2 u ∂ y 2 {\displaystyle u{\frac {\partial u}{\partial x}}+v{\frac {\partial u}{\partial y}}=U{\frac {\partial U}{\partial x}}+\nu {\frac {\partial ^{2}u}{\partial y^{2}}}}

ただしU は主流速度、ν は動粘性係数である。この方程式の境界条件は、壁面 (y = 0) での粘着条件と境界層外部 (y = δ) での主流速度との一致: u = v = 0 ( y = 0 ) , u = U ( y = δ ) {\displaystyle {\begin{aligned}&u=v=0\quad (y=0),\\&u=U\quad (y=\delta )\end{aligned}}}

である。境界層内の速度分布が相似であると仮定すれば、無次元速度u /U はy /δ のみの関数として表すことができる。

また、圧力P に関しては ∂ P ∂ y = 0 {\displaystyle {\frac {\partial P}{\partial y}}=0}

すなわち、境界層内の圧力は、外側の圧力に等しいことが導かれる。
壁法則混合距離モデルにより計算される壁付近の流速分布(壁法則)

壁面近傍では平均速度についてかなり普遍的な法則が成り立つことが知られている[4]。乱流の壁面付近での速度分布は、壁に沿う流れの平均速度U を無次元化した U+ = U / Uτ の分布が壁面からの距離 y を無次元化した y+ = y / δν の関数として与えられることが実験的に確かめられている。この関係を壁法則(wall law)[5]または速度分布が対数関数を用いて表されることから対数速度則[4]という。ここで U τ := τ w ρ {\displaystyle U_{\tau }:={\sqrt {\frac {\tau _{\mathrm {w} }}{\rho }}}}

摩擦速度、 δ ν := ν U τ {\displaystyle \delta _{\nu }:={\frac {\nu }{U_{\tau }}}}

は粘性長さで、これらは壁近くの粘性領域を代表するスケールである(τw は壁面せん断応力、ρ は流体密度、ν は流体の動粘性率)。

壁近傍では速度勾配が大きいことから、CFDでは普通、この領域の格子間隔を密に配置しなければならない。しかし、実際の計算ではさまざまな制約により格子点数を減らすことが要求される。壁法則の利用はこのような要求に応えるものであり、実務的な計算に多用されている。[5]

壁法則は次の無次元方程式 d U + d y + = 1 y + Φ I ( y + ) , y a ≪ 1 {\displaystyle {\frac {dU^{+}}{dy^{+}}}={\frac {1}{y^{+}}}\Phi _{\mathrm {I} }(y^{+}),\quad {\frac {y}{a}}\ll 1}


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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