数理モデル、特に微分方程式から計算をするとき、R0 であると言われる数の多くは、実際には単なる閾値であって、2次感染者数の平均ではない。そのような閾値を数理モデルから導出する多くの手法があるが、常に R0 の真値を与えるものはほとんどない。これはマラリアのように宿主間に媒介動物がいる場合は特に問題が多い[39]。
これらの閾値は疾病が絶滅(R0 < 1)するか流行(R0 > 1)するかを決定するが、一般にそれらを異なる疾病で比較することはできない。したがって、上の表にある値は慎重に用いる必要がある。(特に数理モデルから計算された場合。)
手法には生存関数・ヤコビ行列の最大固有値の再配置・next-generation method[40]・内的自然増加率からの計算[41]・エンデミックな定常状態の感受性人口からの計算・平均感染年齢からの計算[42]・最終規模方程式からの計算などがある。多くの手法は、たとえ同じ微分方程式から出発したとしても、互いに一致しない[要出典]。実際に2次感染者の平均を計算しているものはさらに少ない。基本再生産数 R0 が実地で観測されることは滅多になく、通常は数理モデルから計算され、これにより有用性は著しく制限される[43]。 基本再生産数を、実効再生産数(effective reproduction number)R と混同してはならない。実効再生産数とは、感染個体がすでに存在するかもしれない現在の集団内で、一感染個体により直接生み出される感染個体数の平均である。 広東省疾病予防コントロールセンターによれば、「伝染性を表現するために実効再生産数 (R) がより一般的に使用される。実効再生産数は感染症例ごとによって発生する二次症例数の平均として定義される。管理措置がない場合、R = R0 χ (χは感受人口の割合) となる。」[44][要非一次資料]。例えば2019-nCoVの実効再生産数は2.9で、SARSの実効再生産数は1.7となる[44]。 人口学において、基本再生産数 R0 は、1人の女性が生まれてから a 歳まで生き延びる確率(生残率)l(a) と、年齢ごとの年齢別女児出生率 β(a) の積を総和した数字 R 0 = ∫ 0 ∞ β ( a ) l ( a ) d a {\displaystyle {\mathcal {R}}_{0}=\int _{0}^{\infty }\beta (a)l(a)\,da} である。約2.08倍すると男女込みの平均出生児数または、少子化の資料に頻出する合計特殊出生率(TFR)となる[6][45]。「純再生産率」も参照 基本再生産数は、母親世代とその娘世代の総数比を指し、R0 が1より大きければ人口は拡大再生産されるが、1より小さければ縮小再生産される[6]。長期的にみれば、R0 > 1であれば人口は増加し、R0 < 1 であれば人口減少がおきる[6]。 日本人口の2005年の R0 は0.61で、これは母親世代の人口の6割程の数の娘しか生まれてこないことを意味する[6]。 人口のレベルで感染症がどのように広がっていくのか、また制御するための介入についての数理モデルを使った研究は、18世紀のスイスの数学者ダニエル・ベルヌーイの天然痘死亡率が人間の寿命に与える影響研究に遡り、これは区画モデルの端緒だった[5]。天然痘による死亡リスクというものがなくなった場合に寿命はどう延びるか、つまり、いくつかの競合する死因がある場合に、そのうちの一つが取り除かれたら寿命がどの程度延びるか、という競合リスクモデルの研究の端緒となった[5]。 ダニエル・ベルヌーイは1766年にフランス王立科学アカデミーで天然痘罹患率と死亡率データ分析「小虫を死因とした死亡例の新解析[疑問点 – ノート](Essai d’une nouvelle analyse de la mortalite causee par la petite verole)」を発表した[46]。これは予防接種の効果計測や、観察の打ち切り(センサリング censoring)[47][48][49] などの知見を含めた最初期の統計学上の解析となった。
実効再生産数
人口学「マルサスモデル」も参照
学説史