基本再生産数 R0 は、環境因子や感染集団の行動による影響も受けるため、病原体に対する生物学的な定数ではない。さらに、基本再生産数 R0 の値は通常、数理モデルから推定されるので、推定値は使用されたモデルや他のパラメータの値に依存する。したがって、文献における値は特定の文脈においてのみ意味があり、古い値を使用したり、異なるモデルに基づく値を比較したりするべきではない[13]。また基本再生産数 R0 自体は集団内における感染症の蔓延する速度を推定するものではない。 基本再生産数 R0 の最も重要な用途は新興感染症が集団内に蔓延するかどうかを決定することと、感染症を撲滅するためには集団のどのくらいの割合にワクチン接種をして免疫化すべきなのかを決定することである。一般に使用される感染症モデル
感染症モデル
を超えなくてはならない[14];一方でエンデミックな定常状態における感受性個体数の割合は 1/R0 である。
基本再生産数は、感染個体の感染力の持続時間・微生物の感染性・感染個体が接触している集団における感受性個体数を含むいくつもの要因による影響を受ける。
疫学上、感染症流行を予測・抑制することは公衆衛生上で重要な課題であり、その問題に対して、個体群生態学で使用された数理モデルの安定性分析などが感染症疫学でも流用できたことから、この研究分野が発展する事となった[15]。
感染個体が単位時間あたり平均 β の感染を生み出す接触をし、感染性期間が平均 τ であると仮定する。このとき基本再生産数はR0 = βτ
で与えられる。この単純な式は R0 を減らし、最終的には感染の伝播を減らすいくつかの方法を示唆する。単位時間あたりの接触を減らす(たとえば、伝播が他者との接触を必要とする場合には、家に留まる)、または(防護具などによって)感染を生み出す接触の割合を減らすことで、単位時間あたりの感染を生み出す接触の平均 β を減らすことができる。また感染個体をできるだけ早く発見し、隔離/治療/殺処分(動物の場合によくある)することで、感染性期間の平均 τ を減らすことができる。
区画モデル「疫学における区画モデル」を参照
疫学における区画モデルの代表例としてSIRモデルがある。SIRモデルは感受性 (Susceptible)、感染した (Infected)、隔離された(Removed: 回復または死亡)人の個体数の経時的な疾患動態を説明する。なお、SIRモデルの R(0)と基本再生産数の R0 を混同しないように注意。前者は t = 0 での隔離者数を表わす。 介入前の有名な感染症のR0の値と集団免疫のしきい値感染症伝染R0集団免疫のしきい値[注釈 2]
感染症の基本再生産数値
麻疹(はしか)エアロゾル12?18[16][17]92?94%
水痘(水ぼうそう)エアロゾル10?12[18]90?92%
流行性耳下腺炎(おたふく風邪)呼吸器飛沫
COVID-19(デルタ株)呼吸器飛沫とエアロゾル(5-9.5)[20]80?89%
風疹呼吸器飛沫6?7[注釈 3]83?86%
ポリオ糞口経路5?7[注釈 3]80?86%
百日咳呼吸器飛沫5.5[25]82%
天然痘呼吸器飛沫3.5?6.0[26]71?83%
COVID-19(アルファ株)呼吸器飛沫とエアロゾル4?5[27]75?80%
HIV/AIDS体液2?5[28]50?80%
COVID-19(野生型)呼吸器飛沫とエアロゾル[29]2.9 (2.4?3.4)[30]65% (58?70%)
SARS呼吸器飛沫2?4[31]50?75%
ジフテリア唾液2.6 (1.7?4.3)[32]62% (41?77%)
インフルエンザ(スペインかぜ)呼吸器飛沫2?3[33]50?67%