基本再生産数
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疫学における区画モデルの代表例としてSIRモデルがある。SIRモデルは感受性 (Susceptible)、感染した (Infected)、隔離された(Removed: 回復または死亡)人の個体数の経時的な疾患動態を説明する。なお、SIRモデルの R(0)と基本再生産数の R0 を混同しないように注意。前者は t = 0 での隔離者数を表わす。
感染症の基本再生産数値

介入前の有名な感染症のR0の値と集団免疫のしきい値感染症伝染R0集団免疫のしきい値[注釈 2]
麻疹(はしか)エアロゾル12?18[16][17]92?94%
水痘(水ぼうそう)エアロゾル10?12[18]90?92%
流行性耳下腺炎(おたふく風邪)呼吸器飛沫(英語版)10?12[19]90?92%
COVID-19デルタ株)呼吸器飛沫とエアロゾル(5-9.5)[20]80?89%
風疹呼吸器飛沫6?7[注釈 3]83?86%
ポリオ糞口経路5?7[注釈 3]80?86%
百日咳呼吸器飛沫5.5[25]82%
天然痘呼吸器飛沫3.5?6.0[26]71?83%
COVID-19アルファ株)呼吸器飛沫とエアロゾル4?5[27]75?80%
HIV/AIDS体液2?5[28]50?80%
COVID-19野生型)呼吸器飛沫とエアロゾル[29]2.9 (2.4?3.4)[30]65% (58?70%)
SARS呼吸器飛沫2?4[31]50?75%
ジフテリア唾液2.6 (1.7?4.3)[32]62% (41?77%)
インフルエンザスペインかぜ)呼吸器飛沫2?3[33]50?67%
風邪呼吸器飛沫2?3[34]50?67%
エボラ2014年のエボラ出血熱の流行)体液1.8 (1.4?1.8)[35]44% (31?44%)
インフルエンザ(2009年のパンデミック株)呼吸器飛沫1.6 (1.3?2.0)[4]37% (25?51%)
インフルエンザ (季節株)呼吸器飛沫1.3 (1.2?1.4)[36]23% (17?29%)
ニパウイルス体液0.48[37]0%[注釈 4]
MERS呼吸器飛沫0.47 (0.29?0.80)[38]0%[注釈 4]

限界

数理モデル、特に微分方程式から計算をするとき、R0 であると言われる数の多くは、実際には単なる閾値であって、2次感染者数の平均ではない。そのような閾値を数理モデルから導出する多くの手法があるが、常に R0 の真値を与えるものはほとんどない。これはマラリアのように宿主間に媒介動物がいる場合は特に問題が多い[39]

これらの閾値は疾病が絶滅(R0 < 1)するか流行(R0 > 1)するかを決定するが、一般にそれらを異なる疾病で比較することはできない。したがって、上の表にある値は慎重に用いる必要がある。(特に数理モデルから計算された場合。)

手法には生存関数ヤコビ行列の最大固有値の再配置・next-generation method[40]内的自然増加率からの計算[41]エンデミック定常状態の感受性人口からの計算・平均感染年齢からの計算[42]・最終規模方程式からの計算などがある。多くの手法は、たとえ同じ微分方程式から出発したとしても、互いに一致しない[要出典]。実際に2次感染者の平均を計算しているものはさらに少ない。基本再生産数 R0 が実地で観測されることは滅多になく、通常は数理モデルから計算され、これにより有用性は著しく制限される[43]
実効再生産数

基本再生産数を、実効再生産数(effective reproduction number)R と混同してはならない。実効再生産数とは、感染個体がすでに存在するかもしれない現在の集団内で、一感染個体により直接生み出される感染個体数の平均である。

広東省疾病予防コントロールセンターによれば、「伝染性を表現するために実効再生産数 (R) がより一般的に使用される。実効再生産数は感染症例ごとによって発生する二次症例数の平均として定義される。管理措置がない場合、R = R0 χ (χは感受人口の割合) となる。」[44][要非一次資料]。例えば2019-nCoVの実効再生産数は2.9で、SARSの実効再生産数は1.7となる[44]
人口学「マルサスモデル」も参照

人口学において、基本再生産数 R0 は、1人の女性が生まれてから a 歳まで生き延びる確率(生残率)l(a) と、年齢ごとの年齢別女児出生率 β(a) の積を総和した数字 R 0 = ∫ 0 ∞ β ( a ) l ( a ) d a {\displaystyle {\mathcal {R}}_{0}=\int _{0}^{\infty }\beta (a)l(a)\,da}

である。約2.08倍すると男女込みの平均出生児数または、少子化の資料に頻出する合計特殊出生率(TFR)となる[6][45]。「純再生産率」も参照

基本再生産数は、母親世代とその娘世代の総数比を指し、R0 が1より大きければ人口は拡大再生産されるが、1より小さければ縮小再生産される[6]。長期的にみれば、R0 > 1であれば人口は増加し、R0 < 1 であれば人口減少がおきる[6]

日本人口の2005年の R0 は0.61で、これは母親世代の人口の6割程の数の娘しか生まれてこないことを意味する[6]
学説史

人口のレベルで感染症がどのように広がっていくのか、また制御するための介入についての数理モデルを使った研究は、18世紀のスイスの数学者ダニエル・ベルヌーイ天然痘死亡率が人間の寿命に与える影響研究に遡り、これは区画モデルの端緒だった[5]


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