坊門清忠
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しかも、『太平記』古態本(より原本に近いとされる写本)の一つである西源院本では、この逸話に坊門清忠の名は一切登場しない[11]。正成と清忠の確執は原本にはなく、誰かが後で勝手に清忠の名を付け加えた可能性もある。
評価
文学作品による誤解

軍記物太平記』流布本の内容があたかも史実であるかのように人口に膾炙したため、近世、楠木正成(楠公)崇拝の気風が高まる中では、清忠は「忠臣」(という創作がしばしば行われた)楠公を死地に追いやった佞臣として筆誅が加えられることとなった。

安積澹泊の『大日本史』論賛は、清忠について、「一言斃二良将一、国事不レ可レ為。孔子悪三利口之覆二邦家一、正為二此輩一也」(讒言によって名将が死ぬ、これでは国政がうまくいかないのも当たり前だろう。孔子は「口先だけの人物が国家を破滅させてしまうのが憎い」と言ったが、まさにそのような輩だ)と厳しく非難している。

小説家の司馬遼太郎は「この逸話は昭和前期の統帥権干犯問題統帥権も参照)において、軍部が独立すべき理由の先例として用いられたのではないだろうか」と、史料による検証なく推測した[12]
史料による再評価

21世紀現在の研究では、坊門清忠ら建武政権・南朝の蔵人(秘書官)は、不安定な南朝を文書行政の実務面で支えて安定させた裏方として、一定の高評価を受けている[13]

かつては後醍醐天皇が理想論を追求した急進的に過ぎる人物だという誤解があったが、史料によって前後の時代との人材・政策を比較した結果、21世紀現在は、むしろ多くの面で後醍醐天皇は実務・安定志向だったという説が主流になっている[14]。文書実務に当たる蔵人についても、2002年から2010年にかけて出版された、東京大学史料編纂所編『花押かがみ』南北朝時代(吉川弘文館)によって、綸旨(天皇の命令書)の奉者(文書発行者)の花押=サインを照合することで、後醍醐天皇の文書行政に関わった官吏の出身を明らかにした結果、坊門家を含めほとんどが父の後宇多天皇の人材を引き継いでおり、これによって人材プールの安定化を図っていたことが判明した[14]

東京大学史料編纂所の杉山巖は、新政権を形作るには、歴史の表で華々しく戦う武将だけではなく、地道に実務作業を行う事務方の役人も必要不可欠だったのであると、吉田光任をはじめ清忠ら南朝の文書行政官たちを賞賛している[13]
略譜

※ 日付=旧暦

和暦西暦月日事柄
弘安6年?1283年?生誕。
正中元年1324年10月29日右中弁に任官。時に正四位下(『弁官補任』)。
正中2年1325年12月18日左中弁に転任(『弁官補任』)。
正中3年1326年2月19日右大弁に転任(『公卿補任』[3])。
嘉暦2年1327年1月5日正四位上に昇叙(『公卿補任』[3])。
7月16日従三位に昇叙(『公卿補任』[3])。
閏9月20日造興福寺長官に補任(『公卿補任』[3])。
嘉暦3年1328年3月16日参議に補任(『公卿補任』[3])。
9月23日左京大夫を兼任(『公卿補任』[3])。
元徳元年1329年1月13日周防権守を兼任(『公卿補任』[3])。
2月12日周防権守・右大弁を辞職、正三位に昇叙(『公卿補任』[3])。
元徳2年1330年11月7日還任(『公卿補任』[3])。
元弘元年/元徳3年1331年1月13日再び辞職(『公卿補任』[3])。
元弘3年/正慶2年1333年6月12日再び還任し、右大弁を兼任(『公卿補任』[3])。
9月23日造興福寺長官に補任(『公卿補任』[3])。
建武元年1334年1月13日信濃権守を兼任(『公卿補任』[3])。
9月4日大蔵卿を兼任(『公卿補任』[3])。
9月28日従二位に昇叙(『公卿補任』[3])。
12月17日大蔵卿を停任(『公卿補任』[3])。
延元2年/建武4年1337年1月7日左大弁に転ず(北朝)(『公卿補任』[3])。
3月29日辞職(『公卿補任』[3])。南朝(吉野朝廷)へ参候したか。
延元3年/暦応元年1338年3月21日吉野行宮薨去(『公卿補任』[3]) 享年56?[注釈 1]

系譜

父:坊門俊輔

母:不詳

妻:不詳

男子:重隆

男子:
坊門親忠

女子?


脚注[脚注の使い方]
注釈^ a b 『新葉集作者部類』に「補任云暦応元年南朝用延元三三月廿一日於吉野離宮卒五十六歳云々」[15]とあるが、現行の『公卿補任』には年齢の記載はない。

出典^増鏡』巻11「さしぐし」
^ a b 『続千載和歌集』羇旅歌
^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y 『大日本史料』6編4冊769頁.


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