地域
[Wikipedia|▼Menu]
日本においては、上記のドイツのLandschaft論と英米のRegion論の双方が受容され、学者によって見解が異なるが、同じ「地域」という語を用いている。以下に主要な主張を示す。
水津一朗の説

Landschaft論に近い学者として、京都大学文学部教授奈良大学学長などを務めた水津一朗がいる。水津は著書『地域の構造?行動空間の表層と深層?』においてドイツのヴィンクラー(E. Winkler)の地理学的方法論に関する15の命題を以下の3つに整理した上で、数学的に説明した[7]
個々の現象(e)…分布相互作用・人間と自然との関係など[8]

地表の部分(Rm)…空間・場所・海洋景観環境など[8]。これが「地域」に相当する。

地表(E)…地表全体を指し、地表の部分(Rm)の総和である。カロルが「地球の被覆」(Erdhulle)と名付けたものに相当する。[8]

水津はこれらの3つの関係を「Eの部分集合がRmであり、Rmの(要素)がeである」とした。つまり、数学的に記述すると

E ⊃ R m , R m ∋ e {\displaystyle E\supset Rm,Rm\ni e}

となる。
木内信蔵の説

一方region論に近い学者として、東京大学教養学部教授の木内信蔵が挙げられる。木内は『地域概論?その理論と応用?』において、region(リジォン[注釈 1])の説明とともに、地域の属性[注釈 2](形式的な性格[注釈 1])を次のように示している[9]
地表面の一部分である。

固有な場所的関係をもつ。

空間的な拡がり(spatial extent)をもつ。

隣接の空間から区別される。

より大なる地域の部分である。

この中で重要なのは2番目と4番目であり、言い換えれば「何らかの意味で一体性をもつ(まとまりがある)」[10]ということになる。これは、一般用語の地域と区別して「地理的地域」とも表現する[10]

木内は『地域概論』の中でLandschaftにも触れているが、そこではLandschaftを「景観」と訳している[11]
地域の類型

地域の概念には、いくつかの分類方法が知られている。先に挙げたホイットルセーの地域分類もその一つである。以下に地域の概念の代表的な例を示す。
個別地域と類型地域

戦前のイギリスで重視された概念である[12]

個別地域(こべつちいき、英語: specific region)は、世界にただ1つしか存在しない地域であり、具体的な地名をもって呼ばれる空間である。一方、類型地域(るいけいちいき、英語: generic region)は世界に同様の性格を有する空間がいくつか存在する。例えば、「日本で人口密度が高い地域はどこか」という問いに対し、「東京大阪名古屋周辺」と答えることも「平野が広がるところ」と答えることも可能である。この際、前者が個別地域、後者が類型地域となる。
実質地域と形式地域

日本で発達した概念であり、適切な訳語がない[注釈 3]。木内信蔵が「地域は本来,地的内容をもつ実質的な存在であり,地域は内容にしたがって合理的に規定される」と主張したものが定義の基となっている。すなわち、内容をもつものが実質地域、もたざるものが形式地域である。例を挙げれば、小学校の通学区が実質地域、経線緯線で区切られた空間が形式地域である。

ただし、実質と形式の区別は大変曖昧であり、先の例でも通学区は小学校への通学以外には無意味な地域区分であるから形式地域、経線・緯線が国境として機能しているところでは実質地域、と解釈することもできる。 このため、現状ではこの分類に大きな意義はないとされる[13]

なお、実質地域を既存の物理的・客観的な単位としてみるときの地域概念(後述の等質地域や機能地域・結節地域のような分類を含む概念)と捉え、後述の認知地域や活動地域に対する概念として用いられることもある[14]
等質地域と機能地域

地域概念の中で最も重要な類型である[12]

等質地域英語: uniform region又はformal region)地形(平野、台地、丘陵など)や土地利用(水田、畑作、工業など)などによって特徴づけられる空間的なまとまりを等質地域という[14]。ある空間が周囲とは異なる性格によって切り取られる場合、その空間を等質地域と言う。例えば、とある畑作地においてジャガイモの生産が卓越する区画とニンジンの生産が卓越する区画があったとする。この時、前者をジャガイモの等質地域、後者をニンジンの等質地域と考えることができる。このほか、有名な等質地域の例としては柳田國男が『蝸牛考』の中で示したカタツムリ方言分布(→方言周圏論を参照)が知られる。

機能地域英語: functional region)性格の異なる空間同士が一つないし複数の中心点(=結節点、ノード、node)を核として機能的に結び付くことで形成される。身近な例では生活圏や通勤圏が挙げられる。機能地域は結節点を有することから結節地域(nodal region)とも称する。厳密には機能地域は単に機能的結合がみられる場合、結節地域は中心地があり一般的に階層的な関係がみられる場合をいうとされる[14]

認知地域

実質地域を既存の物理的・客観的な単位として定義した場合に、これに対して自宅や職場など個人や社会集団の主観的で構造的なまとまりを認知地域という[15]。認知地域には地域アイデンティティや地域観などがみられる[15]
活動地域

実質地域を既存の物理的・客観的な単位として定義した場合に、これに対して既存の構造ではなく新たな都市計画や市場開拓の際の対象として捉えられる地域を活動地域という[16]。活動地域は一定範囲の社会や集団を組織化する側面がある[16]
全域と基域

木内信蔵が地域の属性として挙げた第5番目の「より大なる地域の部分である」の「より大なる地域」が全域(ぜんいき)、「部分」が基域(きいき)に当たる。つまり、基域の集合体が全域である。

例えば、四国は日本全体から見れば一部分であるから、日本は全域、四国は基域である。また見方を変えて、四国を全域と考えれば、香川県は基域である。更に香川県を全域とすると、高松市は基域である。
政治学・経済学における定義

政治学経済学においても「地域」の語は用いられるが、地理学ほど地域そのものについて議論されることは少なく、政治学や経済学の辞典では、地域から始まる用語は掲載されていても、「地域」という項目がないものも多い[注釈 4]
政治学における定義

政治学及び地域研究においては、ジュリアン・スチュワードの「世界地域」の説明が「地域」の定義として受容、定着している[17]。スチュワード自身は、以下の5つをすべて「地域」として捉えた[17]
世界地域(world area)…世界的な重要性を持った区域。例えば、ロシア極東東ヨーロッパなど。

文化地域(culture area)…共通の文化を持つと考えられる区域。例えば、ラテンアメリカ近東マヤなど。

国家(nation)

植民地

特定地方(specific region)

これに対する批判としては、「世界地域」の概念によって地域研究が政策科学の性格を帯びるようになったこと、きわめて恣意的なくくり方をした人為的区画をもって「地域」と称することができる面があること、が挙げられる[18]

また、スチュワードが主張した「特定地方」に相当する、国民国家の内部の部分領域を「地域社会」とする用法もある[19]
経済学における定義


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:48 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef