地域
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戦前のイギリスで重視された概念である[12]

個別地域(こべつちいき、英語: specific region)は、世界にただ1つしか存在しない地域であり、具体的な地名をもって呼ばれる空間である。一方、類型地域(るいけいちいき、英語: generic region)は世界に同様の性格を有する空間がいくつか存在する。例えば、「日本で人口密度が高い地域はどこか」という問いに対し、「東京大阪名古屋周辺」と答えることも「平野が広がるところ」と答えることも可能である。この際、前者が個別地域、後者が類型地域となる。
実質地域と形式地域

日本で発達した概念であり、適切な訳語がない[注釈 3]。木内信蔵が「地域は本来,地的内容をもつ実質的な存在であり,地域は内容にしたがって合理的に規定される」と主張したものが定義の基となっている。すなわち、内容をもつものが実質地域、もたざるものが形式地域である。例を挙げれば、小学校の通学区が実質地域、経線緯線で区切られた空間が形式地域である。

ただし、実質と形式の区別は大変曖昧であり、先の例でも通学区は小学校への通学以外には無意味な地域区分であるから形式地域、経線・緯線が国境として機能しているところでは実質地域、と解釈することもできる。 このため、現状ではこの分類に大きな意義はないとされる[13]

なお、実質地域を既存の物理的・客観的な単位としてみるときの地域概念(後述の等質地域や機能地域・結節地域のような分類を含む概念)と捉え、後述の認知地域や活動地域に対する概念として用いられることもある[14]
等質地域と機能地域

地域概念の中で最も重要な類型である[12]

等質地域英語: uniform region又はformal region)地形(平野、台地、丘陵など)や土地利用(水田、畑作、工業など)などによって特徴づけられる空間的なまとまりを等質地域という[14]。ある空間が周囲とは異なる性格によって切り取られる場合、その空間を等質地域と言う。例えば、とある畑作地においてジャガイモの生産が卓越する区画とニンジンの生産が卓越する区画があったとする。この時、前者をジャガイモの等質地域、後者をニンジンの等質地域と考えることができる。このほか、有名な等質地域の例としては柳田國男が『蝸牛考』の中で示したカタツムリ方言分布(→方言周圏論を参照)が知られる。

機能地域英語: functional region)性格の異なる空間同士が一つないし複数の中心点(=結節点、ノード、node)を核として機能的に結び付くことで形成される。身近な例では生活圏や通勤圏が挙げられる。機能地域は結節点を有することから結節地域(nodal region)とも称する。厳密には機能地域は単に機能的結合がみられる場合、結節地域は中心地があり一般的に階層的な関係がみられる場合をいうとされる[14]

認知地域

実質地域を既存の物理的・客観的な単位として定義した場合に、これに対して自宅や職場など個人や社会集団の主観的で構造的なまとまりを認知地域という[15]。認知地域には地域アイデンティティや地域観などがみられる[15]
活動地域

実質地域を既存の物理的・客観的な単位として定義した場合に、これに対して既存の構造ではなく新たな都市計画や市場開拓の際の対象として捉えられる地域を活動地域という[16]。活動地域は一定範囲の社会や集団を組織化する側面がある[16]
全域と基域

木内信蔵が地域の属性として挙げた第5番目の「より大なる地域の部分である」の「より大なる地域」が全域(ぜんいき)、「部分」が基域(きいき)に当たる。つまり、基域の集合体が全域である。

例えば、四国は日本全体から見れば一部分であるから、日本は全域、四国は基域である。また見方を変えて、四国を全域と考えれば、香川県は基域である。更に香川県を全域とすると、高松市は基域である。
政治学・経済学における定義

政治学経済学においても「地域」の語は用いられるが、地理学ほど地域そのものについて議論されることは少なく、政治学や経済学の辞典では、地域から始まる用語は掲載されていても、「地域」という項目がないものも多い[注釈 4]
政治学における定義

政治学及び地域研究においては、ジュリアン・スチュワードの「世界地域」の説明が「地域」の定義として受容、定着している[17]。スチュワード自身は、以下の5つをすべて「地域」として捉えた[17]
世界地域(world area)…世界的な重要性を持った区域。例えば、ロシア極東東ヨーロッパなど。

文化地域(culture area)…共通の文化を持つと考えられる区域。例えば、ラテンアメリカ近東マヤなど。

国家(nation)

植民地

特定地方(specific region)

これに対する批判としては、「世界地域」の概念によって地域研究が政策科学の性格を帯びるようになったこと、きわめて恣意的なくくり方をした人為的区画をもって「地域」と称することができる面があること、が挙げられる[18]

また、スチュワードが主張した「特定地方」に相当する、国民国家の内部の部分領域を「地域社会」とする用法もある[19]
経済学における定義

経済学で用いられる「地域」の語は、理論的文脈では往々にして不明瞭に扱われ、実証的分析では定義が厳密ではない[20]。このため、取り扱うテーマやデータの利用可能性に合わせて意味合いの変化する概念である[20]。『マグローヒル現代経済学辞典』では、地域(Region)について以下のような説明がなされている[21]

都市地域の一部分から,大陸の一地方にいたるまで,さまざまの広さに用いられる用語。たとえば,合衆国では,地域あるいは,地方の資料は,都市地域,地区,,おもな地域の州群,たとえば,ニューイングランドやミドルアトランテック州のような形で得られる。」

(後略)

経済学における地域は、一般に資本労働の移動の制約が小さく、移動可能性の高いものとして捉えられる[20][22]。ゆえに、現代は移動可能性が高まっていることから『マグローヒル現代経済学辞典』の定義を超えて、宇宙地球も地域であると考えられる[22]。また、人類歴史をたどれば、地域は都市と農村という2つの定住形態からなり、国家が消滅しても存続する概念である[23]

上記のように、国家の枠を超越した大規模な空間を地域として捉える一方で国家の内部の狭い空間を地域として捉えることもある[23]。よって、地域経済学に関する文献では、地域がさまざまな範囲を指す言葉であることを示した上で、国家の内部の狭い空間を対象とする旨を述べたものもある[24]
言語学における「地域」

言語学において、地理的に近接した言語同士は、しばしば一群の音韻的・文法的特徴を共有していることが知られており、そのような地域特徴により規定される言語群は「言語連合 (: Sprachbund)」ないし「言語領域」(: linguistic area) と呼ばれる[25]。言語連合の範囲は、行政上の地方区分や、自然的・歴史的・文化的な観点から行われた地域区分と一致するとは限らない。例えば、バルカン言語連合の分布地域は、歴史的・文化的な「バルカン」と概ね一致している一方、大陸部東南アジア言語連合は、通常東南アジアの一部とは見做されない地域の言語、すなわち北方官話を始めとする中国語諸方言が含まれる[26]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ a b 木内『地域概論』83ページでの表現
^ 中村ほか『地域と景観』109ページでの表現


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