地下水
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同位体を用いた水文調査の結果によると、洪水時でさえも、地表水は地下水から供給されていることが判明している。すなわち、地中に浸透できなかった降水によって洪水が発生するのではなく、多量の降水が地中に浸透し、それまでの地下水が追い出されて洪水が発生するのである。
流速

帯水層[注釈 1]の中の地下水はゆっくりと流れ、概ね1日に数cmから数百メートル、平均では1メートル/日ほどである。一般に不圧地下水(後述)は被圧地下水に比べて早く流れ、特に河川に沿って流れる地下水は地上の流れに似た動きで比較的早く流れる。反対に被圧地下水の流れは遅く、ほとんど停滞しているものもある[3]

地下水の流速を求めるには、1856年にフランス人技術者、アンリ・ダルシー(1803-1858)が発見したダルシーの法則が用いられる。地下水の流速 = 透水係数 × 動水勾配

透水係数:地層が水を通す度合い

動水勾配:2点間の水頭差を距離で割ることで、傾きとして表したもの

透水係数と動水勾配はその地層の地質構造に左右されるが、地質構造を明らかとするには実際に現地で調査を行うほかない。そのため、地下水の実態把握には、現地調査が重要である。

その調査方法としては、井戸ボーリング孔を掘って地中を調べる方法、地中に電流を通して電気伝導率を調べる方法、pH、水温、弾性波で調べる方法などがあるが、最も効果を上げているのが、地下水に含まれる水素の同位体であるトリチウムを測定して調査する方法である[3]。この同位体測定法により、実際の地下水の流速や流動方向などが、地域によってはかなり詳細に判明することもある。
地下水面詳細は「地下水面」を参照

地中を観察すると、の粒子の間隙に水が浸透している。このとき、水が完全に満たされていない状態(不飽和状態)であれば「土壌水」と呼ばれ、粒子の間隙に水が完全に満たされた状態(飽和状態)であれば「地層水」や「間隙水」、「地下水」と呼ばれる。土壌水と地下水との境界は地下水面と呼ばれる。地下水面には、井戸または掘削孔中に現れる水面としての定義もある [4]

地下水面を境として、上部(土壌水の存在する部分)を不飽和帯、下部(地下水の存在するところ)を飽和帯または帯水層と呼ぶこともある。さらに不飽和帯を二分し、その下部を毛管水帯、その上部を懸垂水帯と呼ぶこともある。帯水層の厚みや状態、水自身の流動によって地下水面の高さには凹凸が生じる[3]

地下水面より上の不飽和帯内と地下水面にある水は、不飽和帯内の土壌の間隙を経て地上と通じているために大気圧とほぼ同じ圧力状態にあり、「不圧地下水」や「自由地下水」と呼ばれる。地下水面より下にある飽和帯内の水は、周囲の土壌や水自身の重みによって圧力を受けるために大気圧より高い圧力状態となっており、「被圧地下水」と呼ばれる[3]

地下水面より下の地下水は、面的あるいは空間的に存在している。「地下水脈」という概念があるが、地下水を線的なものとして捉えるのは正確ではない。ただし、カルストなどの岩盤中の地下水は線的な賦存状況を示す場合もある。

平野部には数十メートルを超える井戸が多数存在し、揚水を行っている。また、地下水は地層構造により第一帯水層・第二帯水層等の幾層にも分かれて重なっている。地下水流向は同一平面位置であっても各帯水層によって異なる場合が多く、全く逆方向の流向も珍しくない。
貯留量

一定地域内に存在する地下水の量は、涵養や他から地下を経由しての流入によって増加し、地表への流出や地下を経由しての流出によって減少する。このような地下水の量は、地上でのダムなどと同様に貯留量で表現される。地下深くに溜まっている大量の地下水の中には、流入量が少ないものがあり、井戸などによって人工的に大量の水を汲み出すと貯留量は急速に減少し、場合によっては枯渇する[3]
滞留時間

地下水が地下に留まっている平均時間は「滞留時間」と呼ばれ、想定される貯留量と流動量から計算される。オーストラリア大鑽井盆地では110万年以上、黒部川扇状地の砂丘では0.14年と推定されている[注釈 2]

滞留時間の例地域帯水層滞留時間
オーストラリア大鑽井盆地1,100,000年(最大)
エジプトサハラ砂漠北東部45,000年(最大)
シナイ半島西端の泉と死海近くの井戸約30,000年
中央ヨーロッパ深度100-800m10,000-10,500年
ベネズエラマラカイボ市4,000-35,000年
南アフリカカラハリ砂漠430-33,700年
旧チェコスロバキア山河小流域からの地下水2.5年
ニュージーランドワイコロププ泉0-20年
米国テキサス州カリゾ砂岩27,000年(最大)
米国ハワイ州オアフ島100年
米国インディアナ州氷河堆積物25年
韓国済州島2-9年
東京湾岸深度200-2,000m2,840-36,750年
岩手火山山麓湧水17-38年
八ヶ岳山麓湧水1-100年
会津盆地自噴井深度30m13年
千葉県市原市養老川流域1520m以浅0-30年
瀬戸内海の小島花崗岩の基盤0-30年
黒部川扇状地芦崎砂丘0.14年
那須岳周辺低水時の河川水2-3年以上
[3]
地下水ポテンシャル

地下水ポテンシャル(流体ポテンシャル、水理ポテンシャルともいう)とは、ある地中点における地下水の存在状態のことである。


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