地下水
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会津盆地自噴井深度30m13年
千葉県市原市養老川流域1520m以浅0-30年
瀬戸内海の小島花崗岩の基盤0-30年
黒部川扇状地芦崎砂丘0.14年
那須岳周辺低水時の河川水2-3年以上
[3]
地下水ポテンシャル

地下水ポテンシャル(流体ポテンシャル、水理ポテンシャルともいう)とは、ある地中点における地下水の存在状態のことである。水理学では、ポテンシャル概念を水頭と呼ぶ。

地下水ポテンシャルは、速度密度高度圧力の4つの物理量を変数スカラー)とするが、現実的に、速度は無視できるほど非常に遅いので除外出来る。また、観測対象地域の各観測点の密度の違いも無視できるほどであるため、地下水ポテンシャルは高度(位置エネルギー)と圧力のポテンシャルの和、すなわち次の数式で近似できる。

地下水ポテンシャル(水理水頭)= 重力ポテンシャル(位置水頭)+圧力ポテンシャル(圧力水頭)

ある地下水が、地下水ポテンシャルの高い観測点Aから低い観測点Bに移動した場合、AB間の地下水ポテンシャルの差は、運動エネルギー、および、両地点間にある地層による摩擦を受けて熱エネルギーとなる。エネルギー保存の法則から、観測点Bの地下水ポテンシャル、運動エネルギー、および、発生した熱エネルギーの和は、観測点Aの地下水ポテンシャルと等しい。すなわち、地下水の運動エネルギーは地下水ポテンシャルの差によって生じ、地下水は、地下水ポテンシャルの高い方から低い方へ流れるといえる。これを慣例的にポテンシャル流れという[5]

地下水ポテンシャルは、井戸を掘ることで測定することができる。ある任意の基準面から井戸の中の水位までの高さが、地下水ポテンシャルの高さを表す。このとき、井戸の中の水位を地下水位ということもある。地下水ポテンシャル = 地下水位は、同一地点であっても深度方向によって異なる。例えば、低標高平野部では、浅い地層よりも深い地層の方が地下水ポテンシャル = 地下水位が高い場合が多く、深い井戸を掘ると地下水位が地表面より高くなることさえある。こうした自噴する井戸を自噴井という。

地下水位と地下水面は、よく似た用語であるが厳密には異なる。地下水位は、地下水ポテンシャルの大きさを表す用語であるのに対し、地下水面は、地下水帯水層の上部境界を示す用語である。短期的に見れば、地下水面の位置は一定だが、地下水位は深度によって異なる。なお、地下水面は、地下水ポテンシャル = 重力ポテンシャルとなる点の連続面と定義することもでき、地下水面上では、地下水面と地下水位が等しくなる。
流出

透水層が地上面に露出していたり[注釈 3]、井戸などの設備で人工的に汲み上げたりすることで地下水の流出が生じる。また、特に深い地下にあって難透水層に挟まれた透水層内の水は、かなり高い圧力を受けることがあり、この透水層が地表面近くになるとわずかな深さの井戸でも地表へ水が噴き上がる「自噴井」(じふんせい)となる。不圧地下水(自由地下水)の存在する地下まで掘られた比較的浅い井戸は「浅井戸」、被圧地下水の存在する地下まで掘られた比較的深い井戸は「深井戸」と呼ばれることがある[3]
分類

地下水は、特徴や水の対比等を目的として、いくつかの視点から分類されている。なお地下水の賦存状態の区分については、帯水層を参照のこと。ここでは水質区分について記述する。
主要成分の濃度

塩類濃度により、以下の3つに分けることは最も多く行われている。

淡水

汽水

塩水

主要成分の当量比

塩水(海水や化石塩水(化石海水ともいう))との交換、塩基置換、などの水質変化・進行現象を解釈する際に、以下のような当量比で区分する。

N a / C l {\displaystyle Na/Cl}

M g / C l {\displaystyle Mg/Cl}

S O 4 / C l {\displaystyle SO_{4}/Cl}

これらにより、塩基置換・炭酸の変化・有機物の分解・酸化還元などを、地下水と地層の接触時間や、滞留時間等の解析として用いられる。
主要塩類

溶存成分により、仮想的な結合を考え、その塩類によって区分を行う。これは温泉の区分で行われている方法であるのかもしれない
人間活動日本における地下水の利用状況

鉱工業の発展に伴い地下水が汚染される例が多く地域でみられる。日本においては、汚染水を地下に浸透させることを禁止してからあまり年月が経っていない。例えば、大阪の鉱山保安法適用事業所 (OAP) において地下55m付近もの深部において汚染が確認されており、人間の経済活動が清浄な地下水を利用し、汚染してきた歴史の悪例である。さらに、健全な水循環は人間活動を行う上で必須の条件であり、都市部と言えども緊急時においては清浄な地下水の確保が生命線となるので、都市における地下水環境保全が求められている。

世界的にみれば、20億人以上が飲用水やかんがい用水を地下水に依存するなど、地下水源へのかん養量を上回る水利用が行われており、「環境の時限爆弾」とも呼ばれている。今後100年以内に完全に補充される地下水は、供給量全体の半分にとどまるという研究結果も提示されている[6]
資源
探査法

地下水を専門とする学問分野として「地下水学」があり[注釈 4]、地下水学での地下水に関する資源探査の方法は次の3つに大別できる。
文献資料
文献資料によって河川や湖沼、湧水といったものの過去の状況を知ることができる。
現地での地勢確認
地上に現れている土地の凹凸や河川、湖沼などの流水の現況を知ることで地下の状況を推察する手がかりとする。
地下の調査
実際にボーリングを行って土壌や水を採取する物理的な方法や、地面の抵抗値を測ったり[注釈 5]、地下に向けた電磁波から生じる電流や二次的な電磁波を測定する電気・磁気的方法[注釈 6]、割れ目から漏れるガスを測定する化学的な方法、地球の引力の僅かな差から岩石の種類を推定する重力を用いた方法、などが用いられる[3]
特徴

地下水を長期にわたって最大の利益を得るように利用するために、地下水を保全する視点を持つ必要がある。特に地下水は、地下水の特徴からくる制約事項がある。
地下水は貯留量が大きいが、地下に賦存しているが故、それを直接目視することができない。また貯留量が大きいが故、利用する(
揚水)に際して、その反応が現れるまでに時間を要する。したがって、地下水を管理する場合は、長期的視点に立つ必要がある。

地下水への涵養(かんよう)量は貯留量に比べてわずかであり、揚水量が涵養量よりも上廻っている場合、貯留の減少が起き安定的に利用できなくなることに加え、地盤沈下が発生する。

地下水資源量の考え方

利用できる地下水の量は、必ずしも涵養量と等しくない。地下水の揚水により様々の障害が発生しない量が、利用量すなわち資源量となる。例えば南関東地域や濃尾平野でみられる広域地盤沈下は、涵養されにくい粘土層中の間隙水を揚水により絞り出すことで発生した。水循環における涵養量を超えなくとも、地盤沈下は発生する。この場合の資源量は、地盤沈下を発生させない地下水位低下量(揚水量)が地下水資源量となる。また個別の井戸の揚水量ではなく、地域の揚水量となることにも注意が必要である。
日本における公水論と私水論

昭和40年代ごろより、地下水は、公共財的性格が強い(地下水は流動し私有地に滞留しているものではない(水循環の一翼を担う)、周辺も含めた土地の環境機能の根幹をなす)とする立場の「公水論」と、土地所有者が井戸などを設置して個人的に利用できるものであることから私的財産に含まれるとする「私水論」が議論されている。昭和30年代頃より激しくなった地盤沈下の原因が、地下水の揚水によるものと結論づけられた昭和40年代頃より始まった議論である。

法的には土地の所有権について「法令の制限内に於いて其の土地の上下に及ぶ」(民法207条)としていることから、地下水は私有財産とされているが、公水とする判例もでている。現在まで国の各省庁による議論が行われてきたが、定まった・統一された地下水に関する考え方はない。

同様の議論は土壌、特に土壌汚染対策において土壌環境機能を将来にわたり制限してしまうことについて、土壌環境機能の公共性と、土地そのものを構成する物質としての私有財産の議論がある。土壌は地下水のように移動せず、また土地を構成する主体であることから、公共性については概念のみ提案されている。

1990年代の中頃より地下水汚染が各地で表面化し、それまでの地盤沈下防止対策、そして世論の環境意識の向上により、地下水を公水として考える社会的背景が形成されてきている。一方、土地所有権を地盤を所有する権利という視点に立てば、地下水は地盤を構成する三要素(1.岩石・土粒子等の固体、2.地下水等の液体、3.空気等の気体)のうちの一つと考えられることから、地下水は土地所有権に付随するものという概念は、今なお残されていることに留意が必要である。なお地下水は、自由に流動する液体であることから、私有財産に相当しないとする考え方もある。

参考文献

「諸外国及び我が国における地下水法制度等調査(平成3年度地下水利用評価調査報告書)」国土庁長官官房水資源部(平成4年3月)p.314

環境問題
地盤の沈下と地下水位の回復

日本では、戦前(第二次世界大戦前)より工業用水として安価な地下水が利用されてきた。工業化の進む1960年代ごろより、関東・濃尾等の地域で広域な地盤沈下[注釈 7]が確認され、海面よりも低い地域(海抜ゼロメートル地帯)が出現した。地下水が大規模公害問題として注目された最初の例である。地盤沈下では多くで不等沈下が起き、相対的に浮き上がる埋設物もある[注釈 8][3]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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