国際法
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第二に、「共通だが差異のある責任」(common but differentiated responsibility; 「リオ宣言」第7原則)は、精神的な結びつき[73]である「国際共同体」概念がその基礎にあると考えられる[74]。すなわち、十分な対応能力を有する先進国と比べて、技術力や資金力を有しない発展途上国を別に扱うことである。たとえ違反が行われてもその事実のみを指摘して制裁を科さない「不遵守手続き」(Non-Compliance Procedure; NCP)や先進国から途上国への技術移転、資金援助などを規定する国際条約が、今日では非常によくみられる。

第三に、私的アクター、すなわちNGO(非政府組織)が様々な条約作成や履行委員会などの国際会議に出席して発言したり、ロビー活動を通じて国家の意思決定に積極的に関わるという現象が見られる。

また法源としては、事態に敏速に対応するために、まず「枠組条約」(framework-convention; une convention-cadre)を設定した後、締約国会議(COP; Conference Of the Parties)を継続させ、その中で「議定書」(Protocol)、「附属書」(Annex)、「決定」(Decision)を追加していく、という方式がよく採られる(気候変動枠組条約のCOP3(1997年)で成立した「京都議定書」ほか)。また、ソフトロー的な法的拘束力のない文書を先行させて、後のハードローである条約や慣習法の成立を誘発させる、という形もとられている。
紛争解決

「紛争解決」については、紛争の平和的解決の義務が国際法上、確立している。国連憲章2条3項は、「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない」と定める。これは、憲章2条4項の武力による威嚇または行使の禁止原則からも導かれ、武力によって紛争を解決してはならないことに帰着する。また、憲章33条1条は、「いかなる紛争でも…その当事者は、まず第一に、交渉、審査、仲介調停、仲裁裁判、司法的解決、地域的機関又は地域的取決の利用その他当事者が選ぶ平和的手段による解決を求めなければならない」と規定する。すなわち、平和的解決の手段の当事者の自由選択性である。この33条で定められた原則は、慣習国際法になっているとされる(「ニカラグアにおける及びニカラグアに対する軍事的、準軍事的活動事件」国際司法裁判所判決、I.C.J.Reports 1986, p.145, para.290)。「国際紛争の平和的解決に関するマニラ宣言」(国連総会決議37/10)は、「国家は誠実にかつ協力の精神で、国際紛争の一つの迅速かつ衡平な解決を探求しなければならない」(附属書5項)とする[75]

「交渉」(negociation; la negociation)とは、当事者が直接の話し合いによって解決のための共通の合意に達することをいう[76]。最も基本的な平和的解決の手段である。それは「誠実な交渉」(negociation in good faith)であると考えられる。これは、単なる形式的な話し合いではなく、合意に到達する目的を持って、どちらかが自分の立場の変更を考えないでそれに固執する場合ではない、有意義な交渉であるとされる(「北海大陸棚事件」国際司法裁判所判決、I.C.J.Reports 1969, p.47, para.85、皆川『国際法判例集』394頁)。前記「マニラ宣言」も、「直接交渉は当事者の紛争の平和的解決の柔軟で実効的な手段である」(10項)とする。

「審査」(enquiry; l'enquete)とは、紛争の解決の枠組みにおいて、争われている事実の公平な解明を目的とする手続きである[77]。1907年の「国際紛争平和的処理条約」9条では、「締約国ハ、単ニ事実上ノ見解ノ異ナルヨリ生シタル国際紛争ニ関シ…之ヲシテ公平誠実ナル審理ニ依リテ事実問題ヲ明ニシ、右紛争ノ解決ヲ容易ニスルノ任ニ当タラシムル」とされる。

「仲介」(mediation; la mediation)とは、紛争両当事者の合意によって求められる一又は複数の第三者(国家、機関、私人)が両当事者の間に入って話し合いを促進させるために両者の主張を融和させることをいう[78](cf.「国際紛争平和的処理条約」4条)。

「調停」(conciliation; la conciliation)とは、「固有の政治的権限のない機関が、係争にある当事者の信頼を享受し、係争の全ての面を検討し当事者に拘束的でない一つの解決を提案する任務で、国際紛争に介入することと定義されうる」[79]

「仲裁裁判」(arbitration; l'arbitrage)とは、広義には、当事者によって委ねられた第三者によってなされる法的拘束力のある決定によって紛争を解決する方法である[80](cf.「ローザンヌ条約第3条2項の解釈」常設国際司法裁判所勧告的意見、C.P.J.I., serie B, n°12, 1925, p.26)。仲裁裁判判決に対しては、(1)裁判所の「権限踰越」、(2)裁判官の買収、(3)判決の理由の欠如または手続きの根本規則の重大な逸脱、(4)仲裁の合意または付託合意(コンプロミー)の無効を根拠に判決の無効を訴えることができるとされる(国連国際法委員会「仲裁手続きに関する規則モデル」35条)。1960年の国際司法裁判所における「1906年12月23日にスペイン王が下した仲裁判決に関する事件」はその例である。また、「エリトリア・エチオピア紛争」では、両国の合意で常設仲裁裁判所の下での「境界委員会」の設置が決まり、それは「最終的で拘束的」(final and binding)とされた。同委員会は、2002年4月13日に境界画定の決定を下したが、エチオピアはこの決定に対して、「解釈、修正、協議ための」請求を提示した。「境界委員会」は上訴は認められないとし、これを退けたが、両国の緊張は再び高まり、国連安保理が介入するに至り、2005年12月19日に両国の合意に基づいて設置された「賠償委員会」の決定が下され、2006年11月27日には、「境界委員会」は両国欠席のまま、緊急に境界画定に関する報告を発している(R.G.D.I.P., t.110, 2006/1, pp.195-202.)。

「司法的解決」(judicial settlement; le reglement judiciaire)とは、当事者の外部にある、法に基づいて法的拘束力のある決定を下すことのできる権限を有する機関(裁判所)によって紛争を解決することである[81]。その典型例が、国際司法裁判所の判決による紛争の解決である。国際司法裁判所で裁判を開始するためには、両当事国による裁判付託の同意が必要である。ただし、国は裁判管轄権が義務的であるといつでも宣言することができ(選択条項受諾宣言; Optional Clause)、この宣言を行った国の間においてはその宣言が定める事項的、時間的範囲内で国際司法裁判所は管轄権を有する(国際司法裁判所規程36条2項)。特定の条約において、その条約の適用、解釈の問題が起こった場合には国際司法裁判所に付託することを締約国に義務づけている場合もある(「集団殺害罪の防止および処罰に関する条約」9条、「義務的紛争解決についての領事関係に関するウィーン条約第一選択議定書」1条ほか)。国際司法裁判所の判決は、「当時国間において且つその特定の事件に関してのみ拘束力を有する」(国際司法裁判所規程59条)。また、「判決は、終結とし、上訴を許さない」(同60条)。

1966年「南西アフリカ事件(第二段階)」(エチオピア対南アフリカ、リベリア対南アフリカ)において、田中耕太郎判事は、裁判所は法体系、法制度、法規範から独立して法を創造することは許されていないが、それら法体系らの存在理由(raison d'etre)から導き出したもので法の欠缺を埋めることは可能であるとした。そして、社会秩序及び個人の必要性(necessity)が法の発展の指導要素の一つであることは認めなければならないとし、必要性が当事国や関係国の意思から独立して法を創造しても、(国際組織の承継に関する)当事国の「合理的に仮定される(引き受けられる)意図」(reasonably assumed intention)[82]による説明が意思主義と妥協しうると説いて、被告南アフリカは国際連盟規約22条及び委任状の国際義務を保持し続けている、と結論した(Dissenting Opinion of Judge Tanaka, I.C.J.Reports 1966, pp.277-278.)。

国際司法裁判所以外にも、常設仲裁裁判所(PCA)などがある。常設仲裁裁判所は、国際司法裁判所と違って、個人または団体も当事者となることができるのが最大の特徴である。また、特定の条約制度(レジーム)内において、紛争解決のための独自の司法制度を整えているものもある。例えば、国連海洋法条約における司法制度(287条)及び同附属書VIによる国際海洋法裁判所(ITLOS)、世界貿易機関(WTO)における紛争処理機構(DSB)(パネル(Panel)、上級委員会(AB)の報告及びその履行)である。企業と外国国家間の投資に関する紛争を解決するための「投資紛争解決国際センター」(ICSID)も設置され、現在、大変活発に活動している(「国際投資法」)。

このように、今日では、常設の司法機関が次々と創設され、「国際裁判所の増加」(la multiplication des juridictions internationales)の現象が起きている。このため、異なる裁判所間で、同一の事項につき異なる判断がなされる結果としての「国際法の断片化」(fragmentation)が議論されている。

上記のような紛争の平和的解決を経て、ある国の国際義務違反が確認、認定された場合には、その違法行為によって生じた損害を賠償(reparation)する義務が生じる。これは、「国家責任法」という、また別の大きな国際法の一分野である。国家責任法とは、「国家の国際違法行為から生じうる国際法上の新たな関係」(ILC条約草案1条コメンタリー; YbILC, 1973, Vol.II, Pt.2, p.176)を規律する法規則の総体をいう。2001年には、実に約50年をかけて、国連国際法委員会(ILC)による同法の慣習法の法典化として、「国際違法行為に対する国の責任」(Responsibility of States for Internationally Wrongful Acts)条約草案(「国家責任条約草案」、特別報告者James Crawford)が国連総会で採択された(2001年12月12日、国連総会決議56/83)。その第1条では、「国のすべての国際違法行為は、当該国の国際責任を伴う」とされている。これに従い、責任を負う国は、賠償として、「原状回復」(35条)を原則に、それでは十分に回復されないときには「金銭賠償」(36条)、「精神的満足」(satisfaction)(37条)を損害を被った国に対して行う義務がある。同条約草案は、一般国際法の強行規範(jus cogens)に基づく義務の重大な違反の法的帰結を定めており、諸国の合法的な手段によるその違反の終結のための協力義務とその違反によってもたらされた状態の不承認義務が規定されたことが特に注目される(41条)。
武力紛争法

武力紛争法」(Laws of War; Droit des conflits armes)とは、戦時に適用される国際法(戦争における法 jus in bello)の総称であり、武力行使の発動に関する法(戦争のための法 jus ad bellum)と対比をなすものである。その本質は、戦時における人間の保護にある。従来より「戦時国際法」とも呼ばれていたが、現代的には「国際人道法」(International Humanitarian Law; Droit international humanitaire)と称されることもある。しかし、武力紛争法の一部である「中立法」は、国際人道法から除かれる。また、国際人道法は、今日、その適用範囲を拡大し、戦時における非交戦の個人の保護のみならず、平時における非人道的行為から個人を保護することまでも含み、「国際人権法」の領域と重なるようになっている(「国際刑事裁判所規程」参照)。「国際刑事法」(International Criminal Law; Droit international penal)は、重大な国際人道法の違反行為を処罰する法として存在するが、さらにハイジャックや海賊、テロ行為の処罰までも射程に入れており、その適用範囲は広い。

武力紛争法には、二つの法があるとされる。「ハーグ法」(Hague Law; Droit de La Haye)及び「ジュネーブ法」(Geneva Law; Droit de Geneve)である(1996年「核兵器の威嚇または使用の合法性」国際司法裁判所勧告的意見、I.C.J.Reports 1996(I), p.256, para.75)。

「ハーグ法」とは、主として、1868年の「サンクトペテルブルク宣言」や、1899年から1907年にオランダのハーグにおいて慣習を法典化した国際条約、すなわち、「開戦に関する条約」、「陸戦の法規慣例に関する条約」(これに付属する「陸戦の法規慣例に関する規則」)、「陸戦の場合に於ける中立国及び中立人の権利義務に関する条約」、「海戦の場合に於ける中立国及び中立人の権利義務に関する条約」など一連のものを指す。


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