国際法
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社会権規約(ICESCR)については、これが漸進的性格を有するゆえに、原則として直接適用性は認められず、1984年12月19日最高裁判決(「塩見事件」)でもICESCR第9条の直接適用性が否認されたが、社会権規約委員会(the Committee on Economic, Social and Cultural Rights)の一般注釈第3番(General Comment No.3)ではICESCR第2条の差別の禁止等、特定の条項は自動執行力があるとされている[67]
国際経済法

国際経済法」(International Economic Law)とは、国家間の経済活動を規律する国際法の一分野であり、第二次大戦後に急速に発展した分野の一つである。1947年の「関税と貿易に関する一般協定」(GATT; General Agreement on Tariffs and Trades)により、経済的価値が国際法に導入された。GATTの目的は、自由貿易の促進にある。そのために、「自由」(貿易制限措置の関税化及び関税率の削減; 関税譲許(2条))、「無差別」(最恵国待遇(1条)および内国民待遇(3条))、「多角」(=ラウンド、交渉)の三原則が存在する。

そして、多角的貿易交渉・ウルグアイ・ラウンドの成果として、1994年に「マラケッシュ協定」が成立し、翌年、「世界貿易機関」(WTO; World Trade Organization)が設立に至り、単なる条約にすぎなかったGATT制度は、国際組織となった。そして、ウルグアイ・ラウンドで結ばれた数々の協定により、その対象領域は急速に拡大した。例えば、「サービスに関する一般協定」(GATS; General Agreement on Trade in Services)、「衛生植物検疫措置の適用に関する協定」(SPS協定; Agreement on the Application of Sanitary and Phytosanitary Measures)、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPs協定; Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)、「紛争解決に係わる規則及び手続きに関する了解」(Understanding on Rules and Procedures Governing the Settlement of Disputes)などである。

WTOによって設立された紛争解決機関(DSB; Dispute Settlement Body)は、その後のGATT/WTO法の実効性に大きく寄与することとなった。特に、米国によりたびたび適用されてきた「スーパー301条」による一方的措置がこれによって禁じられ、全ての紛争は、「小委員会」(Panel)及びその上訴機関の「上級委員会」(AB; Appellate Body)の「報告」(Report)に服することになった。GATT/WTO法は、自己完結的制度(self-contained regime; un regime se suffisant a lui-meme)といえるだけの性格を保有するに至ったといわれることもある[68]

また近年、GATT/WTO法による環境保護が急速に発展している。GATT20条(b)は、「人、動物又は植物の生命又は健康の保護のために必要な措置」を、同条(g)は、「有限天然資源の保存に関する措置」を、締約国に認めている。ただし、20条前文は、「ただし、それらの措置を、…濫用的に(arbitrary)もしくは正当と認められない差別的待遇の手段となる方法で…適用しないことを条件とする」としている。WTOが出来る前の1991年の「第一マグロ・イルカ事件」(メキシコ対米国; Tuna/Dolphine Case I)において、パネルは、20条(b)または(g)によって域外管轄権の行使を認めると、GATTで保障されている他の締約国の権利を害することになってしまう、として、米国の海洋哺乳動物保護法(MMPA; Marine Mammal Protection Act)による措置は正当化できないとした(Report of the Panel, paras.5.27, 5.32, 30 I.L.M. 1594(1991))1994年の「第二マグロ・イルカ事件」(Tuna/Dolphine Case II)においても、本質的に同様の理由により、米国のMMPAに基づく措置は正当化できないとした(33 I.L.M. 839(1994))。しかし、1998年の「小エビ事件」において、上級委員会は、GATT20条(g)にある「有限天然資源」の文言について、他の環境条約も考慮した「発展的解釈」により、「生物天然資源及び非生物天然資源」も含むと解釈した(WT/DS58/AB/R, paras.129-130)。これにより、各国の天然資源保護を目的とした一方的措置の可能性が開けたといえる。

TRIPs協定については、2001年の「ドーハ宣言」によって、抗HIV薬の特許に関するモラトリアムを最貧国(LDCs)に対しては2012年まで延期する旨、決定されたことが注目される。その後、インドや南アフリカにおいて、ヨーロッパの製薬会社が、抗HIV薬の違法コピーを訴える事件が起こったが、南アフリカでは製薬会社が訴訟を取り下げ(Le Monde interactif, 19 avril 2001[69])、インドでは製薬会社の訴えを退ける判決が下されている(「Novatis vs.Union of India他事件」マドラス高等裁判所判決、2007年8月6日、W.P.Nos.24759 and 24760 of 2006)。

農業分野では、日本・EUと米国の対立が解けず、シアトル・ラウンドは不成功に終わった。現在も、農業分野の協議が続行されているが、日本は農業生産物の輸入関税の大幅な引き下げを余儀なくされることが危惧されている。

また、最近では、各国間で「自由貿易協定」(FTA; Free Trade Agreement)や「経済連携協定」(EPA; Economic Partnership Agreement)が活発に結ばれている。これは、GATT24条の、貿易の自由の拡大のための関税同盟(例えば、EC)または自由貿易協定を締結することを認める、という規定に基づく。日本は、2002年にシンガポールと初のFTA(日本・シンガポール新時代経済連携協定)を締結した。その後も、メキシコとFTAを締結、ASEAN諸国を中心にその他の国ともEPAを活発に結び、また結ぼうとしている。

日本は、環太平洋パートナーシップ協定を結び、これは2018年12月30日に発効した(TPP11)。
国際環境法

国際環境法とは、国際的な環境問題に対処するための国際法の一分野である。その特徴は、「持続可能な発展」(Sustainable Development; SD)概念として現れている。すなわち、従来の国際法が、現在の世代の利益のみを考慮していたのに対して、近年の国際環境法、特に地球環境保護を目的としたものは、現在のみならず将来世代の利益の保護を目指したものであり、過去、現在、未来世代という、時間を超越した「人類」(l'humanite)概念[70]に結びついている。

確かに、20世紀半ばまでは、国際環境法も他分野と同じく、主権国家間の紛争の平和的解決の手段にすぎなかった。すなわち、当時は、「領域使用の管理責任」概念や「相当の注意義務」(due diligence)概念を適用する「共存の国際法」であった(1941年「トレイル溶鉱所事件」(米国/カナダ)仲裁裁判所判決、A.J.I.L., Vol.35, 1941, p.716)。

しかし、1972年の「ストックホルム人間環境宣言」を契機に、地球環境保護が、「人間の福利および基本的人権ひいては生存権そのものの享有にとって不可欠である」(前文)と認められるに至った。このころの国際環境法は、海洋汚染対策(1973年の「航行による汚染に関するロンドン条約」)、特定の動植物の保護(1979年の「野生動物相に属する移動性の種の保護に関する条約」)、UNEPの下で採択された各種地域海洋に関する条約など、まだ「部門別アプローチ」の方式をとっていた(「第一世代の国際環境法」)。

その後、1980年代後半からは、国際共同体全体の利益を管理することを中心問題とした「第二世代の国際環境法」を設定する条約が次々と生まれるようになった。オゾン層の保護、地球温暖化への対処、生物多様性の保護、砂漠化への対処などである。1992年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された環境と開発に関する国際連合会議から生まれた、「気候変動枠組条約」、「生物多様性条約」、そして法的拘束力はないが「森林原則宣言」は、その典型的なものである[71]


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