国際法
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このように、国家機関は、第一に国内法秩序における機関として存在するが、同時に、国際機関として、国際法の実施や履行確保を行う側面を有するのであり、これを学説は、国家の「二重機能」(le dedoublement fonctionnel)[36]として説明することがある。しかし、この理論は、大国の一方的行為/一方的措置を安易に正当化してしまう、という理由で、反対する学者も少なくない[37]
国家管轄権

「国家管轄権」(les competences de l'Etat; State jurisdiction) とは、国家が自然人、法人、物、活動に対して行使することができる、国際法によって与えられあるいは認められている権限をいう[38]。これについては、国家管轄権が、国際法の存在以前からあるものなのか、あるいは国際法によって付与されたものなのか、という問題がある。いいかえれば、「ロチュス原則」すなわち、国際法で禁じられていない限り国家は自由に行動できる(「ロチュス号事件」常設司法裁判所判決; C.P.J.I., serie A, n°10, 1927, p.19)という命題が今日でも妥当するのか、という問題である。学説上、いまだに見解は一致していないが、今日の「協力の国際法」(International Law of Co-operation)[39]の分野においてはもはや同原則は認められない、とする見解も有力である(cf.「2000年4月11日の逮捕状に関する事件」国際司法裁判所判決ギヨーム裁判長個別意見、C.I.J. Recueil 2002, p.43, par.15)。

国家管轄権は、「属地主義」、「属人主義」、「保護主義」、「普遍主義」に分類される。

属地主義 (territorial principle; la competence territoriale) とは、国家はその領域内(及び国際法によってそのようにみなされる場所。例えば、自国籍の船舶・航空機)にある人、物、活動に対して排他的に行使できる権限をいう[40]。領域は、領土領海領空で構成される。ただし「領域使用の管理責任」といった国際法に服する。国家は、その領域内で私人により行われる違法行為から、他国、外国人、他国の領域を保護しなければならない(例えば、環境保護について、「トレイル溶鉱所事件」(米国/カナダ)仲裁裁判所判決)。

属人主義 (nationality principle; la competence personnelle) とは、その領域外においてなされた行為(特に犯罪)に関して、その行為者の国籍国という連結により(「能動的属人主義」; la competence personnelle active)またはその被害者の国籍国という連結により(「受動的属人主義」; la competence personnelle passive)、その行為を自国の法秩序に置きあるいは処罰する権限をいう[41]。日本の刑法では、能動的属人主義として刑法3条が、日本国民の国外犯に対して日本の刑法が適用される犯罪を列挙している。また、受動的属人主義としては、刑法4条の二が、条約により日本国外において犯された犯罪でも罰すべきとするものについて、日本の刑法を適用する旨、規定している(「人質にとる行為に関する条約」5条ほか)。

保護主義 (protective principle; la competence reelle) とは、外国で行われた犯罪行為で、特に自国の重大な国家法益を侵害するものを自国の法秩序の下に置く権限である[42]。日本の刑法では、2条が保護主義を規定しており、内乱、外患誘致、通貨偽造等に日本の刑法が適用される旨、規定する。

普遍主義 (universality principle; la competence universelle) あるいは世界主義(Weltrechtsprinzip)は、国際共同体全体の法益を害する犯罪について、それが行われた場所、犯罪の容疑者の国籍、被害者の国籍にかかわらず、いかなる国もこれを処罰する権限をいう。古くからは、海賊は「人類全体の敵」(hostis humani generis)としていかなる国も処罰できるとされてきた。近年は、多数国間条約によって、普遍主義に基づく処罰を義務づける場合が増えてきている(「航空機の不法な奪取の防止に関するハーグ条約」4条、「民間航空機の安全に対する不法な行為の防止に関するモントリオール条約」5条、「アパルトヘイト罪の撤廃と処罰に関する条約」4条ほか)。

今日、この分野で最も議論が行われているのが、「国際法上の犯罪」(les crimes du droit des gens) である、「ジェノサイド罪」(集団殺害罪)(crime of genocide; le crime de genocide) 、「人道に対する罪」(crimes against humanity, les crimes contre l'humanite)」、「戦争犯罪」(war crimes; les crimes de guerre)(ジュネーブ諸条約の「重大な違反行為」)に対する普遍主義の行使である。このうち、1949年のジュネーブ諸条約の「重大な違反行為」については、同条約が普遍主義に基づく国内法の整備を締約国に義務づけている(それぞれ、49条/50条/129条/146条)。ジェノサイド罪については、1948年の「集団殺害罪の防止および処罰に関する条約」(「ジェノサイド条約」)6条が、犯罪行為地国と国際刑事裁判所のみに裁判権を付与しているが、その起草過程から、その他の場合の裁判権の行使も禁止しないと解されている(1961年「アイヒマン事件」イェルサレム地方裁判所判決、I.L.R., Vol.36, p.39; 「ピノチェト事件」スペイン全国管区裁判所(Audiencia nacional)判決、I.L.R., Vol.119, pp.335-336)。人道に対する罪については、国連総会決議3074(XXVIII)(「戦争犯罪及び人道に対する罪の容疑者の抑留、逮捕、引き渡し及び処罰における国際協力の原則」)に従えば、普遍主義の行使は認められる。ただし、普遍主義の行使は、予審と引き渡し要求の場合を除いて、容疑者が自国領域内にいることを条件とする(2005年万国国際法学会決議)。
国家領域

国家領域」(le territoire national)は、領土領海領空に分けられる。特に領土は、「人民」、「外交を行う能力」とともに国家を構成する基本的要素である。国家領域では、国家はその管轄権を排他的に行使ししうる。ただし、他国の主権も尊重しなければならない。

領土とは、一般にその自国民が住んでいる地理的領域をいい、地面および地下が含まれる。人が住んでいない領域(無人島など)もこれに含まれうる[43]。領土の取得及び喪失については、「無主地」(terra nullius)に対する「先占」は国際法上、認められている領土取得の方式である。「パルマス島事件」仲裁判決で、マックス・フーバー裁判官は「継続的で平和的な領域主権の表示は権原の一つとして適切である」と判示した(U.N.R.I.A.A., Vol.II, p.839)。「西サハラ」に関しては、国際司法裁判所はその勧告的意見で、スペインの植民地であった西サハラには社会的にかつ政治的に組織された人々が民族としてそれを代表する長の権力の下に住んでいたのであり、無主地とはみなされない、と判示した(C.I.J.Recueil 1975, p.39, par.81)。今日では、無主地は存在しないとされる(南極大陸については、国際化領域の項を参照)。また、現在では、武力行使による領土取得は禁じられている。これに関して、イスラエルによるパレスチナの占領について、国連安保理決議242は、イスラエル軍の占領地からの(英:from occupied territories(無冠詞), 仏:des[de+les] territoires occupes(定冠詞))撤退の原則を確認し(affirms)、決議338では、決議242の履行を求める(calls upon)となっており、英語テキストに従う限りにおいて、必ずしもイスラエル軍が第三次中東戦争で占領した全ての領土からの撤退を義務づけていないと解する余地がある[44]。この問題は、宗教的、政治的性質が濃い。

領海とは、今日では国連海洋法条約により、領土の基線より12海里を超えない範囲で沿岸国が決めることができる(海洋法の項目も参照)。領海には、沿岸国の主権が及ぶが他国の船舶の「無害通航権」(le droit de passage inoffensif)を認めなければならない。無害通航とは、「沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない」ものをいう(19条)。違反する船舶に対しては、警察権を行使しうる(27条5項)。ただし、他国の軍艦および非商業目的で航行する政府船舶には「免除」が与えられる(32条)。

領空とは、領土及び領海の上空に接している大気圏の領域をいう。空域を規律する国際法は、「空法」(Droit aerien)と呼ばれる。空法は、1944年の「国際民間航空条約」(シカゴ条約)を基本とする。シカゴ条約は、1条で「各国がその領域上の空間において完全かつ排他的な主権を有する」としている。どの高さまで領空と認められるかは、条約上、明らかではない。また、領海における「無害通行権」と類似して、「五つの自由」が認められており、1919年のパリ条約では、(1)無着陸の通過の自由、(2)運輸以外の目的での着陸の自由が認められ、さらに「国際航空協定」1条では、これらに加えて、(3)自国領域内で積み込んだ貨客を他の締約国でおろす自由、(4)他の締約国で自国向けの貨客を積み込む自由、(5)第三国向けあるいは第三国からの運送の自由が認められている。ただし、これらの自由は、慣習法ではなく、厳格に条約的である[45]。(今日の状況は、制限的な二国間協定の下に保護される航空企業間の「オープンスカイ協定」が空を網の目のように張りめぐらされている。)また、シカゴ条約に基づき、「国際民間航空機関」(ICAO)が設立されている。これは、総会や理事会、航空委員会などの固有の機関を有し、空の安全と発展を目的として活動している。2007年12月にEU理事会は、温暖化ガスの排出権取引を国際民間航空にまで拡張することを決定しており、米国はこれに反対している。2007年9月のモントリオールでのICAO総会では、当事国の合意がない限り排出権取引制度は適用されない旨、決議がなされているが、EUはこれに拘束されないとしている(A.J.I.L., Vol.102, 2008, pp.171-173)。
国際機構法

「国際機構法」あるいは「国際組織法」とは、国際組織(政府間国際組織)(international organizations)に関する国際法の一分野である。国際組織とは、条約によって設立され、共通の目的を有し、それを達成するための常設の機関を持ち、加盟国と独立した法人格を有する国家の集まりをいう(1975年「国家代表に関するウィーン条約」1条)。国際組織法の最大の特徴は、国際組織が生きた組織として変わりゆく国際情勢に対応するために、設立当初の創設者の意思から離れてでも、動態的な目的論的解釈がとられる点にある[46](「黙示的権能」implied powers)(「武力紛争中の国家による核兵器の使用の合法性」国際司法裁判所勧告的意見、C.I.J.Recueil 1996(I), p.79, par.25)。

国際組織法は、内部法と外部法に分けられる。内部法とは、その国際組織の内部運営(表決制度や予算の決定など)を規律する法の総体をいい、外部法とは、その国際組織の対外的活動を規律する法の総体をいう。本項では、現代の主要な国際組織である国際連合を中心に述べる。

内部法として、まず、表決制度がある。決議成立の方式としては、一般に、全会一致、多数決、コンセンサスなどがある。国際連合総会の決議は、重要問題を除いて(出席し投票する加盟国の三分の二の多数)、出席し投票する加盟国の過半数で成立する(国際連合憲章18条)。国際連合安全保障理事会の決議は、「常任理事国の同意投票を含む九理事国の賛成投票」で成立する(27条)。慣例により、常任理事国の「棄権」は決議の成立を妨げないとされている。


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