国際法
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最も基礎的な原理として、「人道[28]の初等的考慮」(elementary considerations of humanity; les considerations elementaires d'humanite)が法の欠缺を埋めるために援用されるときがある(1949年「コルフ海峡事件(本案)」国際司法裁判所判決、C.I.J.Recueil 1949, p.22; 2000年1月14日「クプレスキッチ他事件」旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所第一審判決、IT-95-16-T, para.524ほか)[29]。この原則は、人間という存在のための根源的な自然の欲求あるいは欠乏から生じる必要(les besoins fondamentaux)(例えば、生命、身体、心の安寧)の保護を目指した諸評価要素の総体をいう[30](1966年「南西アフリカ事件(第二段階)」国際司法裁判所判決では、単なる「人道的考慮」(humanitarian considerations)は直ちには法的利益性を持ちえないとされた。I.C.J.Reports 1966, p.34, paras.50-51)。

例えば、1907年ハーグ陸戦規則第三款(42?56条、例えば43条の占領地の法律の尊重)は、人道の原理(the principle of humanity)に基づいているがゆえに、交戦状態においてのみならず、全般的休戦(general armistice)から平和条約の締結までの間においても適用されると解される[31]

これとは別に、国際法の一般原則(les principes generaux du droit international; general principles of international law)がある。これは、条約や慣習法の諸規則を通じて実定国際法に浸透した[32]一般国際法上の原則である。

友好関係原則宣言」(Declaration of Principles of International Law concerning Friendly Relations and Cooperation among States with the Charter of the United Nations)(国連総会決議2625 (XXV) 、1970年10月24日)に従えば、以下の原則が国際法の一般原則として確立しているといえる。(1)国際関係における武力の威嚇と行使の禁止の原則(第一原則)(2)国際紛争の平和的解決の義務の原則(第二原則)(3)国内管轄事項への不干渉義務の原則(第三原則)(4)国々が相互に協力する義務(第四原則)(5)人民自決の原則(第五原則)(6)国の主権平等の原則(第六原則)(7)国連憲章の義務の誠実な履行の原則(第七原則)
条約法

条約法は、国連国際法委員会 (ILC; International Law Commission) によって慣習法を漸進的発展とともに法典化した、1969年の「条約法に関するウィーン条約」(Vienna Convention on the Law of Treaties; VCLT)が主として機能する。しかし、同条約の批准国は100あまりにすぎず、米国やフランスなど有力な国も批准していないことから、ときおり、特定の条項について、その一般的効力が争われる。

条約法条約は、条約の締結 (conclusion) 、解釈 (interpretation) 、適用 (application) について定める。

同条約は、「国の間において文書の形式により締結され、国際法によって規律される国際的な合意」を対象としている(2条)。しかし、一般国際法上、文書によらない国家間の合意も拘束力があり、そのことを同条約は害しないとする(3条)。

条約の締結は、国家間の交渉(全権委任状、7条)、条約文の採択(9条)、国の同意の表明(署名 (signiture) 、批准 (ratification) 、加入 (admission) 、11条)により成る。最後の国家の同意については、単なる技術的、事務的な行政取極の場合は、署名だけで効力を発するが、通常の条約は、国内での承認(approbation、日本では国会の承認)を経ての認証である批准が必要とされる。

条約の締結について、今日、最も議論があるのが、留保である。留保とは、国家が、条約に署名、批准、加盟する際に、特定の条項の全部又は一部の適用を除外する旨の一方的宣言をいう。留保は、当該条約が禁止していない限り許される(19条)。当該条約で特別な定めがある場合はそれに従うが、特に規定されていない場合には、留保は、それに対して異議を表明しない国家に対して効力を有するが、留保の表明から12か月以内に異議を表明した国家に対しては、それを主張できない(20条)。なお、留保は、その条約の趣旨、目的に反しない限りにおいて、有効である(1951年「ジェノサイド条約に対する留保」国際司法裁判所勧告的意見、C.I.J.Recueil 1951, p.24)。これに従って、現在、特に人権条約において留保が許されるかという問題が議論されている。ILCは、留保に関する慣習法の法典化作業を進めている(特別報告者、Alain Pellet)。2007年の第59会期ではガイドライン案3.1.5から3.1.13が採択され、3.1.12によれば、人権条約に対する留保の条約の趣旨目的との合致性は、条約で定められた権利の「不可分性」(indivisibility) 、「相互依存性」(interdependence) 、「相互関連性」(interrelatedness) を考慮に入れなければならないとされた(A/62/10)。

解釈に関しては、条約法条約31条が定めている。まず、「条約は、文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする。」そして、「文脈」とは、前文、付属書に加えて、当事国の後に生じた慣行や当時国間に適用される国際法の規則までも含む(31条3項)。近年、この規定に基づき、条約締結時の当事国の意思を離れて、現存する関係国際法規を考慮する「発展的解釈」(l'interpretation evolutive)が、特に環境法の分野において、さかんに行われている(例えば、1997年「ガブチコヴォ・ナジュマロシュ計画事件」国際司法裁判所判決、I.C.J.Reports 1997, pp.77-78, para.140)。

適用に関しては、特に、条約の第三国に対する効力が問題となる。条約法条約は、条約が第三国に権利または義務を設定する場合には、その第三国の同意が必要であるとし(34条)、義務を課す場合は、明示の同意が必要(35条)、権利を付与する場合は同意が推定される(36条)と規定する。しかし、これらの規定の例外として、「客観的制度」(objective regime) の理論が学説上、主張されることがある。その例として、南極条約体制は、人類全体の利益に資するとして、締約国以外の第三国にも対抗できる(特に、南極における海洋資源保護)と主張される場合がある(国際化領域の項目も参照)。また、「相前後する条約の効力」として、条約法条約は、「後法は前法を廃す」の原則を置いているが(30条)、例えば、1989年の「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」よりも後にできた、1994年の世界貿易機関 (WTO) を創設する「マラケッシュ協定」が定める自由貿易制度が優越するのか、といった疑問が提示されうる。

最後に、条約法条約は、強行法規ユス・コーゲンス; jus cogens)に反する条約を無効とする(53条)。これまで、古典的学説の立場から、ユス・コーゲンスの存在に対して懐疑的な立場も根強く見られたが[33]、2006年の「コンゴ領における武力行動事件(2002年新提訴)」(管轄権)(コンゴ民主共和国対ルワンダ)で国際司法裁判所としては初めて明示的にユス・コーゲンスの存在を認定し(arret, par.64)、この問題に決着がついたといえる(2007年の「ジェノサイド条約の適用に関する事件」(ボスニア・ヘルツェゴビナ対セルビア及びモンテネグロ)判決でもユス・コーゲンスの存在を認定、Judgment, para.185)。
国家機関

一般的に、国家機関は、立法機関、行政機関、司法機関に分類される。

立法機関、すなわち日本でいうところの国会は、自国の国内法秩序において、法を制定する機能を有する。国際法上の観点から見れば、立法機関は、国際法規範の国内的実施のために、法律を制定する役割を有する。特に、人権の分野においては、今日では、国際、国内の両秩序の透明性、浸透性の現象が見られ、国際法によって確立された人権を国内で実施したり、あるいは逆に、国内法で定められた人権規範が国際法に影響を与える、といった面が見られる[34]。また、ときおり、立法機関による、域外適用を目指した国内法が制定されることがある。これは、人権、環境、経済の分野で顕著である。立法管轄権も、他の管轄権と同様に、他国の主権を害さない範囲で行われなければならない。米国が従来、主張していた「効果主義」(effect doctrine) に基づく域外管轄権の行使は、ECの対抗立法などに遭い、批判されている。

行政機関、すなわち政府/行政府は、条約の作成・締結の主体として重要である。また、国際平面において、国際法を履行する直接の主体である。行政機関の行動が、明らかにその国の憲法に反する場合を除いて、その国家の行動とみなされる。とくに、国家元首政府の長外務大臣の行動は、その国家を代表しての行動と見なされ、ときとして、国家自体を拘束する(「東部グリーンランドの地位事件」常設国際司法裁判所判決; P.C.I.J., Ser.A/B, 1933, No.53, pp.68-69)。

国家元首、政府の長、外務大臣に加えて、外交官は、他国と円滑な交流をすることを「外交関係法」によって保障されている。外交関係法は、1961年の「外交関係に関するウィーン条約」および1963年の「領事関係に関するウィーン条約」で構成される。これらの者は、他国との円滑な交流という共通利益を基礎として、「特権免除」を有する。公館の不可侵(「外交関係条約」22条)、身体の不可侵(同29条)、租税の免除(同34条)、そして「裁判権の免除」(31条)である。最後の裁判権の免除については、「2000年4月11日の逮捕状事件」において、国際司法裁判所は、たとえ外務大臣が国際法上の犯罪を犯したとしても、国家実行により、外務大臣はその職にある間は免除(immunity ratione personae; 「人的免除」の意味)を享受する、と判示した (C.I.J.Recueil 2002, pp.24-30, pars.58-71) 。ただし、外務大臣がその職を解かれた場合で、国家の公の行為ではない行為については、免除は認められなくなる(「事項的免除」immunity ratione materiaeの機能的性質、1999年4月24日「ピノチェト事件」英貴族院 (House of Lords) 判決、38 I.L.M.581 (1999) )。なお、免除は「免責」を意味しない。また、免除は外国の国内裁判所において認められるものであり、国際裁判所では通常、免除の適用が除外されている(旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所規程7条2項、ルワンダ国際刑事裁判所規程6条2項、国際刑事裁判所規程27条)。

近年、領事関係条約36条1項が焦点となっている。同条(b)は、「接受国の権限ある当局は…派遣国の国民が逮捕された場合、留置された場合、裁判に付されるため拘留された場合…において、当該国民の要請があるときは、その旨を遅滞なく当該領事機関に通報する。…当該当局は、その者がこの(b)の規定に基づき有する権利について遅滞なくその者に告げる」と規定する。米国政府は、以前より、外国人を逮捕したときにこの「権利」を容疑者に告げないように通達していた。そして、そのことで、外国人の容疑者が、逮捕された後、領事館に通達されることなく裁判に付され、死刑判決を受けたことについて、1998年の「領事関係条約に関する事件」(「ブレアール事件」)(パラグアイ対米国)、1999-2001年の「ラグラン事件」(ドイツ対米国)、2003年から継続中の「アベナとその他のメキシコ人事件」(メキシコ対米国)に発展した。「ブレアール事件」と「ラグラン事件」では、それぞれ1998年、1999年に国際司法裁判所から、死刑執行を止めるように米国に仮保全措置命令が下されたが、米国はそれを破って死刑執行を行った。特に「ラグラン事件」(本案)判決においては、初めて国際司法裁判所の仮保全措置の法的拘束力が認められ、米国の義務違反と再発防止措置を命じる判決が下された。「アベナ事件」は、2004年に本案判決が出されたが、2008年6月にメキシコから緊急に同判決の解釈に関する新たな訴訟がなされ、予断を許さない状況となっている。2008年3月に、米最高裁判所は「メデジン事件」(Medellin v. Texas) において、ICJの「アベナ事件」判決が米国内において自動執行力(self-executing)がないという判決を下している(A.J.I.L., Vol.102, 2008, pp.635-638)。ICJは、2009年1月19日の判決で、アベナ判決は米国に判決の義務の履行手段を委ねており、ゆえにメキシコの請求はICJ規程60条にいう「判決の意義又は範囲」には当たらないとし、メキシコの解釈請求を退けた(Judgment, paras.43-46)。

司法機関、すなわち裁判所は、一般に国内法の履行を確保する機関であるが、同時に、国内法秩序に直接適用される国際法規範の履行確保としても、重要である。


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