国際法
[Wikipedia|▼Menu]
第二に、「実質的法源」(les sources materielles)を指す場合がある。これは、上記、「形式的法源」(特に、条約と慣習法)が成立するに至った原因である、歴史的、政治的、道徳的要素や事実を指す。このように、「実質的法源」は、法的拘束力を有する法そのものではなく、国際法成立の要因であり、特に、法社会学の対象分野であるといえる。国家による一方的行為/一方的措置は、慣習国際法を形成する要因として、実質的法源になりうる。
条約詳細は「条約」を参照

条約とは、一定の国際法主体(国家、国際組織等)がその同意をもとに形成する、加盟当事者間において拘束力を有する規範をいう。二国間条約と多数国間条約があり、ともに当事者の合意によって成立するが、後者はその成立に批准手続が取られることが多く、また特に多数の国が参加する場合には条約を管理する機関が置かれる場合がある。条約そのものの規律を対象とする国際法については1969年に国連国際法委員会によって法典化された条約法に関するウィーン条約がある。(条約法の項を参照。)
慣習国際法詳細は「慣習国際法」を参照

慣習国際法は、不文ではあるが、条約と同等の効力を有する法源である。もっとも、不文であるため、それぞれの慣習国際法がいつ成立したのかを一般的にいうことは難しいが、もはや慣習国際法として成立したとされれば、国際法として国家を拘束する。

その成立には、「法的確信: opinio juris)」を伴う「一般慣行」が必要である。「一般慣行」が必要とされるため、長い年月をかけて多くの国が実践するようになったことによって成立したものがある一方、「大陸棚への国家の権利」のように発表からわずか20年足らずで成立したとされるものなど、その成立は様々である。国際司法裁判所は1969年の「北海大陸棚事件判決において、ある条約の規則が一般法になっているための必要な要素について、「たとえ相当な期間の経過がなくとも」(even without the passage of any considerable period of time)、「非常に広範で代表的な参加」(a very widespread and representative participation)があれば十分であるとし、また、「たとえ短くとも、当該期間内において、特別の影響を受ける利害関係をもつ国々を含む、国家の慣行(State practice)が、広範でかつ実質上一様で(both extensive and virtually uniform)あったこと」を挙げた(I.C.J.Reports 1969, pp.42-43, paras.73-74; 皆川洸『国際法判例集』391頁)。

「一貫した反対国」(persistent objector) 、すなわち、ある慣習法が生成過程にあるときに常にそれに反対していた国家、への当該慣習法の拘束力については、学説上、議論がある。国際司法裁判所は、1951年の「漁業事件」(イギリス対ノルウェー)判決において、領海10マイル規則に対して、ノルウェーがその沿岸においてその規則を適用するあらゆる試みに反対の表明を常に行っていた([la Norvege] s'etant toujours elevee contre toute tentative de l'appliquer)ので、10マイル規則はノルウェーに対抗できない (inopposable) と判示した (C.J.I.Recueil 1951, p.131) 。

慣習法のみが一般国際法 (general international law) を形成する、という従来の理論に関して、小森光夫は疑問を提示し、慣習法の一般国際法化の際のその形成と適用について、それぞれ問題点を示している。すなわち、形成に関しては、慣習の一般化において、全ての国家の参加が必要とされずに、欧米諸国など影響力のある限られた数の国家の事実上の慣行のみでそれが認定されてきた点を挙げる。また、適用に関して、すでに一般化したとされる慣習法に、新独立国が自動的に拘束されるとする理論について、それが一貫した反対国と比べて差別的である点を挙げる。そうして、一般国際法の存在を慣習法に集約させて論じることを止め、別個に一般法秩序の条件の理論化を確立すべきだと主張する[13]
法の一般原則

法の一般原則とは、国際司法裁判所規程第38条第1項(c)にあるように「文明国が認めた法の一般原則」であり、主要法系に属する世界の国々の国内法に共通して認められる原則の中で、国際法秩序にも適用可能と判断できるものを指す[14]。19世紀には国際法の法源は条約と慣習国際法であるとされてきたが、これらに加えて1921年の常設国際司法裁判所規程は法の一般原則を裁判基準として認め、国際司法裁判所規程も上記国際司法裁判所規程38条1項(c)のようにこの立場を踏襲した[15][16]。さらに現代では二国間の仲裁裁判条約や、多数国間条約に定められた裁判条項においても裁判基準として挙げられていることから、法の一般原則は国際司法裁判所の裁判基準であることを超えて「法の一般原則」も国際法秩序における独立した法源であるとする考えが、今日では広く認められている[15][2]
基本原理

国際法秩序は、その根底に、一般原則(general principles; les principes generaux)を有する。これら一般原則を基盤として、またその内容を具現するために、各種条約及び慣習法規が存在しているといえる。一般諸原則の一部は、国際司法裁判所規程38条(c)の「文明国が認めた法の一般原則」(les principes generaux de droit reconnus par les nations civilisees; general principles of law recognized by civilized nations)として発現していると考えることができる。「法の一般原則」は、各国の国内法に共通に見られる法原則のうち国際関係に適用可能なもの、あるいは、あらゆる法体系に固有の法原則として、一般的にとらえられている[17]

国際裁判において適用された「法の一般原則」の例としては、信義誠実の原則(1974年「核実験事件(本案)」(オーストラリア対フランス、ニュージーランド対フランス)国際司法裁判所判決、I.C.J.Reports 1974, p.268, para.46)、衡平原則(1986年「国境紛争事件」(ブルキナファソ/マリ)国際司法裁判所判決、C.I.J.Recueil 1986, p.567, par.27; 1984年「メイン湾における海洋境界画定事件」(カナダ/米国)国際司法裁判所・小法廷判決、C.I.J.Recueil 1984, p.292, par.89; 前記「北海大陸棚事件」国際司法裁判所判決、I.C.J.Reports 1969, p.46, para.83ほか)、義務違反は責任を伴うの原則(1928年「ホルジョウ工場事件(本案)」常設国際司法裁判所判決)、「既判力」の法理(1954年「賠償を与える国連行政裁判所の判決の効力」国際司法裁判所勧告的意見、C.I.J.Recueil 1954, p.53)などが挙げられ、禁反言の法理(estoppel)のような英米法の概念も適用されるとされた場合もある(前記「北海大陸棚事件」国際司法裁判所判決、I.C.J.Reports 1969, p.26, para.30)。ただ、裁判所が、明示的に「法の一般原則」として援用することはまれである(一方が他方の義務履行を妨げた場合に、その義務違反を主張することはできないということを、「国際仲裁判例によって、また国内諸裁判所によって、一般的に認められる原則」とした例として、「ホルジョウ工場事件(管轄権)」常設国際司法裁判所判決、C.P.J.I., serie A, 1927, n°9, p.31)。「国際法上の犯罪」(les crimes du droit des gens) において、第二次大戦中当時、「平和に対する罪」が必ずしも明確に犯罪行為として定まっていなかった[18]にもかかわらず、「極東国際軍事裁判所」(極東国際軍事裁判)において、それが適用され処罰された事例があり、これが法の不遡及の原則に反するという批判がある。しかし、法の不遡及(non-retroactivite; non-retroactivity)原則が、国際法、国内法共通の原則となり、特に刑事法の分野で確立されたのは、東京裁判が終了した1948年11月以降(1948年12月の「世界人権宣言」11条2項、1950年11月の欧州人権条約7条1項ほか、1966年12月の市民的及び政治的権利に関する国際規約15条1項)の事であった。加えて、1948年の世界人権宣言は単なる宣言に過ぎず法的拘束力のある「条約」ではなかったし、1950年の欧州人権条約では7条2項において、1966年の市民的及び政治的権利に関する国際規約でも15条2項において、それぞれ法の不遡及の原則の例外を認めている[19]

これらのうち、「信義誠実原則(原理)」(the principle of good faith) と「衡平原則(原理)」(the principle of equity) は、国際法の解釈及び適用の際に、常に働く[20]

信義誠実原則は、正直、真摯という主体的(subjective)な意味と、相手側を尊重する、という客体的(objective)な意味に分かれる[21]。それは主として、国際法の解釈において作用する。ウィーン条約法条約31条は、条約は誠実に解釈されなければならないと規定する。これは、自国の表明した意思に正直、真摯に、かつ相手国の利益や立場を合理的に考慮して条文を解釈しなければならない、という意味と解される。また、履行についても、国際義務は誠実に履行しなければならないとされている(国連憲章2条1項、条約法条約26条)。これも、自国が表明した意思に正直、真摯に、かつ相手国の利益や立場を合理的に考慮して義務を履行しなければならない、という意味と解される。

衡平原則は、関連するあらゆる事情を考慮して、法を適用することを意味する(cf.「北海大陸棚事件」国際司法裁判所判決、I.C.J.Reports 1969, p.47.)。それは三つに分解される。「実定法規内の衡平」(equity infra legem)、「実定法規に反する衡平」(equity contra legem) 、「実定法規の外にある衡平」(equity praeter legem) である(「北海大陸棚事件」国際司法裁判所判決アムーン判事個別意見、C.I.J.Recueil 1969, p.138; 「国境紛争事件」(ブルキナファソ/マリ)国際司法裁判所判決、C.I.J.Recueil 1986, pp.567-568, pars.27-28)。すなわち、「実定法規内の衡平」とは、適用可能な複数の法原則、法規則のうちから(「チュニジア・リビア大陸棚事件」国際司法裁判所判決、I.C.J.Reports 1982, p.59, para.70)あるいは可能な複数の法解釈のうちから[22]各当事国が納得がいく(当事国の利益の釣り合いによる; balancing of the interests of the parties[23])結果を導き出す選択をする、ということであり、「実定法規に反する衡平」は、国際司法裁判所規程38条2項にいう「衡平と善」(ex aequo et bono) もこの一種で、実定法規の適用が衡平な結果をもたらさない場合、関係当事国の合意の下、それらを除外してでも釣り合いのとれた解決を目指すものであり[24]、「実定法規の外にある衡平」とは、法の論理的欠缺を埋める補助的なものであり、一般原則を用いて[25]その欠缺を埋め(「コルフ海峡事件」国際司法裁判所判決、I.C.J.Reports 1949, p.22.)、具体的な解決をもたらすものである[26]

1968年「北海大陸棚事件」(ドイツ連邦共和国/デンマーク、ドイツ連邦共和国/オランダ)において、小田滋ドイツ連邦共和国弁護人は、本件では適用可能な慣習法規が存在しないので、法の一般諸原則が適用されるとし、そして、実在的正義(substantial justice)とは、紛争の各当事者が、あるちょうどよく衡平な分け前(a just and equitable share)を受け入れる状況を意味すると主張した。そしてそれゆえ、等距離線のような抽象的に思いついた技術的境界画定ではなく、石油資源の分配や「沿岸地帯」(facade)で表される基線の考えに基づく、善意(goodwill)と弾力性(flexibility)のある真に衡平な解決を提示した[27]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:191 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef