国際法
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しかし現代では、国際人権法、国際人道法に見られるように、個人も国際法上の権利、義務の主体として位置づけられるようになった。また、国際環境法における「人類の共通の関心事」(common concern of humankind)あるいは「人類の共通利益」(common interests of humankind)概念のように、「人類」(: l'humanite)概念も登場するに至った。このように、今日では、従来の「国際社会」とは異なる、諸国家の相互依存性[7]から自然発生的に形成された[8]「国際共同体」(: the international community、: la communaute internationale)という概念が、学説においてもまた実定法においても、徐々に浸透してきている。特に、フランスの国際法学者であるルネ=ジャン・デュピュイからは、「国際共同体」とは「国際社会」と「人類」の弁証法(la dialectique)であるとの主張がなされている[9]。様々なとらえ方のある概念ではあるが、現代国際法は、そのような「国際共同体」を規律する法であると今日では言うことができる(cf.「核兵器の威嚇または使用の合法性」国際司法裁判所勧告的意見ベジャウィ裁判長宣言、C.I.J.Recueil 1996 (I), pp.270-271, par.13)。
法源

「国際法の法源」には、一般的に二つの意味がある。第一に、「形式的法源」(les sources formelles)であり、これは、国際法という法の存在のあり方をいう。「国際法の法源」と言った場合、通常、この意味が当てはまる[10]。すなわち、国際法は、「条約」及び「国際慣習」という形で存在し、後述するように現代では「法の一般原則」も国際法の法源に含まれるとされている。また、「判例」や「学説」は、これら条約、慣習法、法の一般原則の内容を確定させるための補助的法源とされている[2]。これらのことは、以下のように国際司法裁判所規程38条1項に規定されている。(a)一般又は特別の国際条約で係争国が明らかに認めた規則を確立しているもの(b)法として認められた一般慣行の証拠としての国際慣習(c)文明国が認めた法の一般原則(d)法則決定の補助手段としての裁判上の判例及び諸国の最も優秀な国際法学者の学説 ? 国際司法裁判所規程38条1項

さらに国際組織による決議などの国際法上の法源性についても論じられることがある[11][2]

最新の議論によれば、大沼保昭によって、「裁判規範」と「行為規範」の区別が主張されている。すなわち、国際司法裁判所規程38条に列挙された、条約、慣習法、法の一般原則は、あくまで裁判を行う時に適用される法源であり、国家が国際社会で行動するときに拘束される国際法は、これらに加えて他にもあり、例えば、全会一致またはコンセンサスで決められた国連総会決議も行為規範として、国家を拘束すると主張される[12]。国際司法裁判所の確立した判例によれば、国連総会決議は、たとえ拘束的ではなくとも、法的確信(opinio juris)の発現を立証する重要な証拠を提供する、とされる(「核兵器の威嚇または使用の合法性」勧告的意見、I.C.J.Reports 1996, Vol.I, pp.254-255, para.70. 「ニカラグアにおける及びニカラグアに対する軍事的、準軍事的行動事件」判決、I.C.J.Reports 1986, pp.100-104.)。

第二に、「実質的法源」(les sources materielles)を指す場合がある。これは、上記、「形式的法源」(特に、条約と慣習法)が成立するに至った原因である、歴史的、政治的、道徳的要素や事実を指す。このように、「実質的法源」は、法的拘束力を有する法そのものではなく、国際法成立の要因であり、特に、法社会学の対象分野であるといえる。国家による一方的行為/一方的措置は、慣習国際法を形成する要因として、実質的法源になりうる。
条約詳細は「条約」を参照

条約とは、一定の国際法主体(国家、国際組織等)がその同意をもとに形成する、加盟当事者間において拘束力を有する規範をいう。二国間条約と多数国間条約があり、ともに当事者の合意によって成立するが、後者はその成立に批准手続が取られることが多く、また特に多数の国が参加する場合には条約を管理する機関が置かれる場合がある。条約そのものの規律を対象とする国際法については1969年に国連国際法委員会によって法典化された条約法に関するウィーン条約がある。(条約法の項を参照。)
慣習国際法詳細は「慣習国際法」を参照

慣習国際法は、不文ではあるが、条約と同等の効力を有する法源である。もっとも、不文であるため、それぞれの慣習国際法がいつ成立したのかを一般的にいうことは難しいが、もはや慣習国際法として成立したとされれば、国際法として国家を拘束する。

その成立には、「法的確信: opinio juris)」を伴う「一般慣行」が必要である。「一般慣行」が必要とされるため、長い年月をかけて多くの国が実践するようになったことによって成立したものがある一方、「大陸棚への国家の権利」のように発表からわずか20年足らずで成立したとされるものなど、その成立は様々である。国際司法裁判所は1969年の「北海大陸棚事件判決において、ある条約の規則が一般法になっているための必要な要素について、「たとえ相当な期間の経過がなくとも」(even without the passage of any considerable period of time)、「非常に広範で代表的な参加」(a very widespread and representative participation)があれば十分であるとし、また、「たとえ短くとも、当該期間内において、特別の影響を受ける利害関係をもつ国々を含む、国家の慣行(State practice)が、広範でかつ実質上一様で(both extensive and virtually uniform)あったこと」を挙げた(I.C.J.Reports 1969, pp.42-43, paras.73-74; 皆川洸『国際法判例集』391頁)。

「一貫した反対国」(persistent objector) 、すなわち、ある慣習法が生成過程にあるときに常にそれに反対していた国家、への当該慣習法の拘束力については、学説上、議論がある。国際司法裁判所は、1951年の「漁業事件」(イギリス対ノルウェー)判決において、領海10マイル規則に対して、ノルウェーがその沿岸においてその規則を適用するあらゆる試みに反対の表明を常に行っていた([la Norvege] s'etant toujours elevee contre toute tentative de l'appliquer)ので、10マイル規則はノルウェーに対抗できない (inopposable) と判示した (C.J.I.Recueil 1951, p.131) 。

慣習法のみが一般国際法 (general international law) を形成する、という従来の理論に関して、小森光夫は疑問を提示し、慣習法の一般国際法化の際のその形成と適用について、それぞれ問題点を示している。すなわち、形成に関しては、慣習の一般化において、全ての国家の参加が必要とされずに、欧米諸国など影響力のある限られた数の国家の事実上の慣行のみでそれが認定されてきた点を挙げる。また、適用に関して、すでに一般化したとされる慣習法に、新独立国が自動的に拘束されるとする理論について、それが一貫した反対国と比べて差別的である点を挙げる。そうして、一般国際法の存在を慣習法に集約させて論じることを止め、別個に一般法秩序の条件の理論化を確立すべきだと主張する[13]
法の一般原則

法の一般原則とは、国際司法裁判所規程第38条第1項(c)にあるように「文明国が認めた法の一般原則」であり、主要法系に属する世界の国々の国内法に共通して認められる原則の中で、国際法秩序にも適用可能と判断できるものを指す[14]。19世紀には国際法の法源は条約と慣習国際法であるとされてきたが、これらに加えて1921年の常設国際司法裁判所規程は法の一般原則を裁判基準として認め、国際司法裁判所規程も上記国際司法裁判所規程38条1項(c)のようにこの立場を踏襲した[15][16]。さらに現代では二国間の仲裁裁判条約や、多数国間条約に定められた裁判条項においても裁判基準として挙げられていることから、法の一般原則は国際司法裁判所の裁判基準であることを超えて「法の一般原則」も国際法秩序における独立した法源であるとする考えが、今日では広く認められている[15][2]
基本原理

国際法秩序は、その根底に、一般原則(general principles; les principes generaux)を有する。これら一般原則を基盤として、またその内容を具現するために、各種条約及び慣習法規が存在しているといえる。一般諸原則の一部は、国際司法裁判所規程38条(c)の「文明国が認めた法の一般原則」(les principes generaux de droit reconnus par les nations civilisees; general principles of law recognized by civilized nations)として発現していると考えることができる。「法の一般原則」は、各国の国内法に共通に見られる法原則のうち国際関係に適用可能なもの、あるいは、あらゆる法体系に固有の法原則として、一般的にとらえられている[17]

国際裁判において適用された「法の一般原則」の例としては、信義誠実の原則(1974年「核実験事件(本案)」(オーストラリア対フランス、ニュージーランド対フランス)国際司法裁判所判決、I.C.J.Reports 1974, p.268, para.46)、衡平原則(1986年「国境紛争事件」(ブルキナファソ/マリ)国際司法裁判所判決、C.I.J.Recueil 1986, p.567, par.27; 1984年「メイン湾における海洋境界画定事件」(カナダ/米国)国際司法裁判所・小法廷判決、C.I.J.Recueil 1984, p.292, par.89; 前記「北海大陸棚事件」国際司法裁判所判決、I.C.J.Reports 1969, p.46, para.83ほか)、義務違反は責任を伴うの原則(1928年「ホルジョウ工場事件(本案)」常設国際司法裁判所判決)、「既判力」の法理(1954年「賠償を与える国連行政裁判所の判決の効力」国際司法裁判所勧告的意見、C.I.J.Recueil 1954, p.53)などが挙げられ、禁反言の法理(estoppel)のような英米法の概念も適用されるとされた場合もある(前記「北海大陸棚事件」国際司法裁判所判決、I.C.J.Reports 1969, p.26, para.30)。ただ、裁判所が、明示的に「法の一般原則」として援用することはまれである(一方が他方の義務履行を妨げた場合に、その義務違反を主張することはできないということを、「国際仲裁判例によって、また国内諸裁判所によって、一般的に認められる原則」とした例として、「ホルジョウ工場事件(管轄権)」常設国際司法裁判所判決、C.P.J.I., serie A, 1927, n°9, p.31)。「国際法上の犯罪」(les crimes du droit des gens) において、第二次大戦中当時、「平和に対する罪」が必ずしも明確に犯罪行為として定まっていなかった[18]にもかかわらず、「極東国際軍事裁判所」(極東国際軍事裁判)において、それが適用され処罰された事例があり、これが法の不遡及の原則に反するという批判がある。しかし、法の不遡及(non-retroactivite; non-retroactivity)原則が、国際法、国内法共通の原則となり、特に刑事法の分野で確立されたのは、東京裁判が終了した1948年11月以降(1948年12月の「世界人権宣言」11条2項、1950年11月の欧州人権条約7条1項ほか、1966年12月の市民的及び政治的権利に関する国際規約15条1項)の事であった。


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