国際捕鯨取締条約
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こうして捕獲枠の算出不能なNMPの失敗は、決定的となった[50]

こうした趨勢を受けて国際捕鯨委員会は、1982年に付表10 (e) の追加により、商業捕鯨の一時停止(モラトリアム)を決議した。この付表修正により、母船式捕鯨について1985/86年期から、沿岸捕鯨については1986年から、商業捕獲枠はすべて0頭と設定されるとともに、当該規定は最良の科学的助言のもとでの再評価が行われ、1990年までに当該措置の資源量への影響の包括的評価を行い、付表再修正と新たな捕獲枠設定を検討することが規定された ⇒(付表)。しかしIWCは1990年以降、毎年検討を行ったものの、商業捕鯨再開について合意を得ることができなかった[51]

新たな捕獲枠設定に関連しては、1994年に、条約5条1項 (c) にもとづき南極海をサンクチュアリ(捕獲対象外の保護区域)とする付表7 (b) の追加を決定している。日本は同修正が、根拠となる条約5条1項について条件を定めた同条2項の諸規定[52]に違反した非合法なものであるとして異議申立を行っている。また、この後ラテンアメリカ諸国は南大西洋を、オーストラリア並びにニュージーランド等は南太平洋についてサンクチュアリ設定を求めてきた経緯があるが、いずれも4分の3の多数を得られず、採択されていない。

1982年のモラトリアム決議に対しては、当初日本、ノルウェー、ペルー及びソ連が、その法的拘束力を免れるため異議申立(条約5条3項)を行った。しかし、日本とペルーはその後に異議を撤回[53]している。異議を維持しているノルウェーは、独自に捕獲枠を設定して商業捕鯨を行っている。また、アイスランドは、2002年の条約再加入に際し、異議申立ないし留保付きの加入をしたとしている。

なお、この1982年の付表修正以前に、1979年には付表10 (d) の追加により、ミンククジラを除く全てのヒゲクジラ、マッコウクジラ及びシャチを対象に、母船式捕鯨についてモラトリアムが採択されている。このほかIWC以外の場ではあるが、1972年に開かれた国際連合人間環境会議でも、10年間の商業捕鯨モラトリアムが決議されていた。ただし、同年にIWCでも行われた提案は否決されている[54]
監視・監督制度

当初IWCは、操業国の監督官が自国の捕鯨母船に乗船することなどを通じて履行を確保する手段としてきた。しかし操業国船団・船舶等による組織的な違法操業を防止することができなかった。特に旧ソ連に関しては、捕獲禁止鯨種のザトウクジラを大量に捕獲するなど、極めて悪質な違反を組織的に行っていたことが判明している[55]。このため国際監視員制度が1972年より設けられ、非操業国の国際監視員が操業国の違反の有無をチェックすることとなったが、やはり操業違反行為が度々行われていた[56]
RMS交渉

国際捕鯨委員会では「改訂管理方式 (Revised Management Procedure: RMP)」と呼ばれる商業捕鯨に関する捕獲枠算定方法が1994年に採択されたが、これに基づいた商業捕鯨の再開はされていない。「改訂管理制度 (Revised Management Scheme: RMS) ⇒[25]」と呼ばれる監視制度等に関して合意が成立していないためである。RMSに関する論点は、国際監視員制度、監視制度に関する費用分担、捕獲時の致死時間に関するデータの提供、操業船舶に対する衛星監視システムの導入などが含まれる。これらに加えて、条約第8条で認められている科学調査目的の捕殺に関する行為規範 (Code of Conduct) の制定などを含む交渉が14年間にわたり行われて来たが、日本など商業捕鯨推進国と反捕鯨国との間の溝は埋まらず、2006年にRMSに関する議論を無期限に延期することとなり、交渉は決裂した。

なお、IWCはRMSが完成するまで、RMP適用による実際の商業捕獲枠設定は行わないとしているが、商業捕鯨を継続中のノルウェーは、前述の通り自国の捕獲枠算出のため、独自にRMPを適用している。
条約第8条による特別科学許可 (scientific permit)

現在IWCにおいて最も意見が分かれるのが、日本が条約第8条に基づき発給している科学目的の特別許可書に基づくミンククジラを中心とする鯨類の捕獲(いわゆる調査捕鯨)についてである。これらの捕獲による科学調査事業は南極海と北太平洋で実施されており、南極海のものはJARPA(Japan's Whale Research Program under Special Permit in the Antarctic:「ジャルパ」と発音)、北太平洋のものはJARPN(Japan's Whale Research Program under Special Permit in the Western North Pacific:「ジャルパン」と発音)と呼ばれる。

これらの科学的調査事業の学術的有効性については、学術的価値に極めて乏しいという意見が国際学会内で支配的であり、日本国内で捕鯨推進を主張する研究者からも「その意義が見えてこない」[57]と批判されている一方、極めて学術的価値の高い優れた研究プログラムであるという反論も日本鯨類研究所所属及びこれに関連する科学者より強く主張されている。

学術的価値を疑問視する意見を掲載した最も有名なものとしては、自然科学雑誌『ネイチャー』に2005年に査読の上掲載された、日本の科学調査事業の策定計画にも携わった粕谷俊雄博士 ⇒[26]、オーストラリアのニコラス・ゲイルズ (Nicholas J. Gales) 博士、米国のフィリップ・クラパム (Phillip J. Clapham) 博士、同じく米国のロバート・ブラウネル (Robert L. Brownell) 博士 ⇒[27]による「Japan's whaling plan under scrutiny」という論文 ⇒[28]が挙げられる。同論文は、こうした致死的捕獲を必然的に伴う日本政府の科学研究プログラムから「生じた査読論文は極めて少数にとどまっているばかりか、(IWC科学委員会発行の)『Journal of Cetacean Research and Management』に掲載された論文本数はゼロであり、そればかりか種の管理のために用いられる科学的パラメーターに関連した査読論文は、たった1本(系群構造に関するもの)であるに過ぎない[58]」と論難している(同上論文883頁)。

これに対しては日本鯨類研究所ウェブサイトにも、上記主張は「科学者としての信憑性を疑わざるを得ない事実の歪曲や誤認が多く含まれ」たものであり、かつ「感情的な記述」を含んだ全く根拠を欠くものであると強く反駁する見解が掲載されており ⇒[29]、また国際捕鯨委員会科学委員会提出文書にも同趣旨の反論文書が提出されるとともに、日本政府代表よりこれら学術的側面からの批判に対して反論が加えられている。科学調査プログラムとして最大の争点となる学問的有用性についても、査読つきの科学雑誌(英文、和文)に投稿した捕獲調査関連の論文数は84編にものぼる(JARPAが18年であることから、年間4.6本)こと、非査読ではあれIWC科学委員会に提出した論文数は150編以上であること[59]、並びに査読雑誌投稿を試みたものの、査読により論文掲載が却下されたこと[60]を挙げている。

このうち南極海において18年間行われた第一期JARPAプログラムについて、IWC科学委員会は1997年に中間レビュー、2006年に最終レビューを実施した[61]

JARPAの主たる目的の一つは、南極海ミンククジラの自然死亡率と個体数増加率の推定、生態系における同鯨種の解明であったが、「収集されたデータはIWCで援用されている科学的管理には一切必要のないデータであること、それどころか自然死亡率や個体数増加率、生態系における役割に関してはほとんど何も解明できていない、という厳しい評価を受けた」[62]として、この科学を名目とする調査には科学的妥当性がほとんど全く認められないという極めて厳しい批判の声も日本国内の研究者からあがるに至っている[63]。こうした見方に対して水産庁は「100点満点で50-60点がIWCの見方」とIWC科学委員会の結論を捉える一方[64]、日本鯨類研究所は、12月ワークショップが「(JARPA)調査のデータセットは、海洋生態系における鯨類の役割のいくつかの側面を解明することを可能にし、十分な分析を行えば、科学小委員会の作業や南極の海洋生物資源の保存に関する条約など他の関連する機関の作業に重要な貢献をなす潜在性を有している」と結論した[65]ことを踏まえ、「日本の調査の目的は科学であり、商業捕鯨が再開したおり、その捕鯨を持続可能なものにするための科学なのである」としてJARPAの科学的妥当性を強く主張している[66]


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