その適用例として、「クプレスキッチ他事件」において旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所(ICTY)第一審は、「人道の基本的(初等的)考慮」原則は、あいまいな(玉虫色の)国際法規則の解釈、適用においてめいいっぱい使われるべきであり、より特定的には、「マルテンス条項」は、今や慣習国際法の一部になっており、「独立した」国際法の法源の地位に到達しているとはいえなくとも、これに訴えなければならない場合があるだろうと述べた。そして、この条項がいかなる時も、ある国際人道法規則が十分に厳格で明確ではない場合には人道の諸原則に言及することを要請すると認め、そして、それゆえ、軍事目標物に対する「繰り返しの攻撃」は、たとえジュネーブ諸条約第一追加議定書57、58条において争いのある不明瞭な領域に属するとしても、そのような行為が「累積的効果」により文民の生命及び財産を害したときには、国際法に一致しない場合があると示した(IT-95-16-T, 14 January 2000, paras.524-526)。 ジュネーブ諸条約は、その遵守を確保するために、「重大な違反行為」の処罰のための国内法(普遍主義)の整備を締約国に義務づけている。これに基づき、各国は、国際人道法違反行為を処罰する国内法を置き、近年、ユーゴスラビア紛争やルワンダでのジェノサイドに関する訴追が行われている。最近では、「1993/1999年ベルギー法」、いわゆる「ベルギー人道法
遵守確保
日本でも2004年に、普遍主義を規定した「国際人道法の重大な違反行為の処罰に関する法律」(平成16年法律第122号)が制定された[7]。国際裁判所としては、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所(ICTY)、ルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)が国連安保理の決議によって設置され、上記二つの事件に関してそれぞれ活動している。普遍的なものとしては、1998年に初めて常設の国際的な刑事裁判所である「国際刑事裁判所」(ICC)のための「ローマ規程」が成立し、2003年に同裁判所が設置され、現在、コンゴの事件などで活動中である。 1996年「核兵器の威嚇または使用の合法性」国際司法裁判所勧告的意見で、裁判所は、国際人道法の核となる原則が、第一に文民の保護、第二に戦闘員に不必要な苦痛を与えないこと、にあることを確認した。しかし一方、ある国々が、自衛権の行使として低エネルギー放射の戦略的核の使用は文民の被害を比較的出さないから必ずしも禁止されないと主張し、また他方、ある国々が、核兵器への訴えはあらゆる状況下で決して国際人道法の諸原則、諸規則に合致しないと主張したことについて、いかなる国も、そのような「きれいな」使用を正当化する正確な諸状況が何なのか、また逆に、その限られた使用が高エネルギー放射の核兵器の使用にエスカレートするのかどうか、示さなかったとする。そして、それゆえ、各国家が生存する根本的権利とその自衛への訴え、及び、核抑止力の政策に言及する実践に鑑みると、そのような国家の存亡をかけた自衛の究極の状況では、裁判所は核兵器の使用の合法性、違法性について決定的な結論に至れなかったと述べた(I.C.J.Reports 1996 (I), pp.257-263.)。 裁判所は、同勧告的意見の最後に、核拡散防止条約6条の下の、厳格で実効的な国際管理の下の核軍縮への誠実かつ完結をもたらす話し合いをする義務が、今日の国際共同体全体にとって死活的に重要な目標であり続けているのは疑いない、と念を押している(Ibid., pp.265, 267.)。 人道法の諸目的は、その発展のみならず、軍縮の実現なくしては達しえないものだといえる[8]。 以下の特殊標章を掲げる施設などへの攻撃は禁止される。また、これらの標章を乱用してはならない[9]。
核兵器の使用と国際人道法
特殊標章詳細は「en:Protective sign」を参照
赤十字国際委員会
赤十字社
赤新月社
Red Crystal
国民保護計画用特殊標章
安全地帯・病院を示す標章
白旗
国際連合の旗
ワシントン条約(レーリッヒ条約
ブルーシールド
ブルーシールド
ダム・原子力施設など破壊すると危険な場所を示す標章
脚注^ “国際人道法のいろは 国際赤十字委員会”. 2023年12月13日閲覧。
^ 竹本正幸「国際人道法」、国際法学会(編)『国際法辞典』(鹿島出版会、1975年)210頁。
^ 竹本、同上。
^ Cf. Meron,Th., The Humanization of International Law, Leiden/Boston, Martinus Nijhoff, 2006, pp.16-29.
^ 江藤淳一「マルテンス条項―百年の軌跡」、村瀬信也/真山全(編)『武力紛争の国際法』(東信堂、2004年)58-84頁; 酒井啓亘/寺谷広司/西村弓/M本正太郎『国際法』(有斐閣、2011年)164-166頁も参照。
^ d'Argent,P., ≪L'experience belge de la competence universelle≫, R.G.D.I.P., t.108, 2004, pp.597-631; David,E., Principes de droit des conflits armes, Bruxelles, Bruylant, 2002, pp.810-823; 森下忠「ベルギーのいわゆる世界的裁判権法」『判例時報』1848号(2004年)23-24頁; 最上敏樹『いま平和とは』(岩波新書、2006年)77-81頁。