国語国字問題
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また1942年には国語審議会が、各省庁および一般社会で使用する漢字の標準を示した合計2528字の「標準漢字表」を答申している[11]
戦後の国語改革

第二次世界大戦後の一時期には、漢字使用を制限し、日本語表記を単純化しようとする動きが強まった。

1946年(昭和21年)3月、連合国軍総司令部 (GHQ/SCAP) が招いた第一次アメリカ教育使節団が3月31日に第一次アメリカ教育使節団報告書を提出、学校教育における漢字の弊害とローマ字の便を指摘した(ローマ字論も参照)。

同年4月、志賀直哉は雑誌『改造』に「国語問題」を発表し、「日本語を廃止し、世界で一番美しい言語であるフランス語を採用することにしたらどうか」という趣旨の提案をした。また1945年11月12日、読売報知(今の読売新聞)は「漢字を廃止せよ」と題した社説を掲載した[12]

当時の国語審議会委員にも、日本語改革論者が多数就任し、漢字廃止やローマ字化など極論は見送られたものの、彼らが関与した「国語改革」が戦後日本語に与えた影響は大きい。こうした動きを背景として、戦前から温められてきた常用漢字や仮名遣改定案を流用・修正した上で当用漢字現代かなづかいが制定された[13]

なお、同様の漢字簡略化の動きは、識字率の向上に取り組んでいた中国においても見られ、中華人民共和国成立後全ての文字表記をピン音とする動きもあったが、最終的には簡体字が導入された。
当用漢字表詳細は「当用漢字」を参照

当用漢字とは、狭義には1946年(昭和21年)11月16日に内閣から告示された「当用漢字表」に掲載された1850字の漢字を指し、広義にはそれに関連したいくつかの告示を総称する[14]。当用漢字表においては、日常使用しないとされた漢字は使用が制限され、公用文書や一般社会で使用する漢字の範囲が示された[14]

従来は複雑かつ多様であった字体の簡素化も一部の文字で行われ、新字新かなが制定された。新字体(新字)制定においては、漢字の構成要素ごとに体系的に変更を行う方式は採らず、慣用を参考に個別の文字を部分的に簡略化するのみにとどめた。

なお、当用漢字表では漢字の読みも制限したが、当初の当用漢字音訓表は「魚」の読みを「ギョ」と「うお」に制限し「さかな」の読みが認められなくなるなどの不合理が散見されたことで、1972年(昭和47年)6月28日に改定されている。
熟語の交ぜ書き・書き換え

熟語を漢字と平仮名で表記する「交ぜ書き」の問題も、当用漢字表に端を発する。同表によれば、当用漢字で書けない言葉は言い換えて表現することになっていたが、実際には漢字を仮名で書いただけで元の言葉が使われ続け、漢字と仮名の「交ぜ書き」が多数生ずることとなった。顕著な例としては「改ざん」「けん引」「ばい煙」「漏えい」などがある(「交ぜ書き」せずに全て漢字で表記した場合はそれぞれ「改竄」「牽引」「煤煙」「漏洩」〈ろうせつ=漏泄〉となる)。

なお、交ぜ書きは「けん引免許」など官公庁の用語として残っている場合もある[15]

国語審議会1956年(昭和31年)7月5日、当用漢字の適用を円滑にするためとして、当用漢字表にない漢字を含む漢語を同音の別字(異体字関係にあるものを含む)に書き換えてもよいとして「同音の漢字による書きかえ」として報告した。

従来は複数の表記が存在した熟語を一本化する方向で例示したものには、次のようなものがある(括弧内が当用漢字表にない漢字を含む書き方)。

注文(註文)

遺跡(遺蹟) - 「本跡」のように、迹から跡に書き換えるものもある。

更生(甦生: 本来の読みは「そせい」→蘇生)- 表記の似た同音異義語に「更正」がある。

知恵(智慧)

略奪(掠奪)

妨害(妨碍、妨礙)- 「障害」も類似例であるが、近年は逆に「害」の文字が差別的であるなどとして「障碍者」の表記が復活する例もある。

意向(意嚮)

講和(媾和)

格闘(挌闘)

書簡(書翰)

一般には複数の書き方があったものの、専門用語として当用漢字表にない漢字を含む書き方をしていたものについて、当用漢字表内の漢字に書き換えることを認めたものには、次のようなものがある(括弧内が当用漢字表実施以前の書き方)。

骨格(骨骼) :医学用語

奇形(畸形) :医学用語

本来その語においては使われることのなかった当用漢字表内の漢字に書き換えることを認めたものには、次のようなものがある(括弧内が当用漢字表実施以前の書き方)。

防御(防禦)

扇動(煽動)

英知(叡智)

混交(混淆)

激高(激昂)

これらの「交ぜ書き」「書き換え」には、熟語本来の意味が不明瞭になるという問題点がある。漢字は「音」と「意」で成り立っており、熟語はそれを組み合わせて意味を表したものである。例えば「破綻」を「破たん」と交ぜ書きすると、本来は「破れ綻(ほころ)びる」という意味だが、平仮名の「たん」では意味が不明瞭になる。また「沈澱」から「沈殿」への書き換えでは、本来は「澱(おり)が沈む」という意味だが、「沈殿」では「殿が沈む」と意味が不明瞭になる。「煽動」から「扇動」への書き換えに至っては、「煽り動かす」から「扇を動かす」と全く異なる意味になってしまう。「書き換え」の中には支障の少ないものもあるが(「掩護」→「援護」など)、ただ単に漢字の音を仮借しただけのものも多々ある。

@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}こうしたことから、「交ぜ書き」「書き換え」は、「熟語の成り立ちを破棄し、日本語文化を破壊した」、「行き過ぎた合理主義により日本語の乱れを認めてしまった」などと批判されることがある。[誰によって?]
当用漢字別表と人名用漢字別表詳細は「教育漢字」および「人名用漢字」を参照

当用漢字のうち881字は、小学校教育期間中に習得すべき漢字として、1948年(昭和23年)2月16日に当用漢字別表という形でまとめられた。いわゆる「教育漢字」である。

人名については、同1948年(昭和23年)施行の戸籍法第50条には「子の名には、常用平易な文字を用いなければならない」とある。この範囲は当初は法務省令によって平仮名、片仮名、当用漢字であるとされており、当用漢字以外の漢字は新生児戸籍の届出の際に使用することができなかった。1951年(昭和26年)には人名用漢字別表として92字を内閣から告示され、当用漢字外の漢字も一部認められることになった。

この人名用漢字別表は、数度の改定を経て1997年(平成9年)には285字を含むものとなった。札幌高等裁判所において、「常用平易な文字」であるのに人名用漢字別表に含まれないために子供の名として使用できなかったことを不服とした裁判で訴えが認められた[16]ことも要因の一つか、2004年(平成16年)9月27日付で488文字が追加された。当初は578文字の追加が見込まれていたが、世論を受けて人名にふさわしくない漢字(怨・痔・屍など)が削除された。
漢字廃止批判と漢字仮名交じり前提論

当用漢字は、漢字全廃を目的としたものとしてしばしば批判されている。[誰によって?]

1958年(昭和33年)から雑誌『聲』に連載された『私の國語ヘ室』で福田恆存は、すでに漢字制限は不可能であることが明らかになっていると指摘した。1961年(昭和36年)には表音主義者が多数を占め、毎回同じ委員が選出される構造となっていた国語審議会の総会から、舟橋聖一塩田良平宇野精一山岸徳平ら、改革反対派の委員が退場する事件となった。

1962年(昭和37年)、国語審議会の委員に選出された吉田富三は、審議する立場を「国語は、漢字仮名交りを以て、その表記の正則とする。国語審議会は、この前提の下に、国語の改善を審議するものである」と規定することを提案した。

1965年(昭和40年)、森戸辰男・国語審議会会長は記者会見で、「漢字仮名交じり文が審議の前提。漢字全廃は考えられない」と述べた。

1966年(昭和41年)、総会の際中村梅吉文部大臣は「当然のことながら国語の表記は、漢字仮名交じり文によることを前提と」すると挨拶した。
現代かなづかい・現代仮名遣い詳細は「歴史的仮名遣」および「現代仮名遣い」を参照

歴史的仮名遣を基に、1946年(昭和21年)11月16日に告示され現代の音韻に基づいて改変したのが「現代かなづかい」である[13]


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