リスボン条約50条に基づくEU離脱の意思の表明については、英国政府は国王大権に属するため議会の承認を要しないとの立場であったが、2017年1月24日、連合王国最高裁判所は議会の承認を要するとの判決を下した。 今日、君主による国王大権の行使はほぼ全て政府の助言どおりに行われる。レイランドによれば以下のとおりである。今日の女王は…首相による週次の謁見において統治事項について全て概説を受けるという方法により、統治権の行使と極めて近接に触れ合っておられる…。[しかし、]強調されるべきことは、首相は、王意を考慮するいかなる義務の下にもないということである。」[43] 要するに、国王大権は、王の名において王国を統治するために用いられるものであり、君主は「相談を受ける権利、激励する権利、および警告する権利」を有するものの、その役割は指図を伴うものではない[44]。 今日においても、大権に属するいくつかの権能は大臣らによって議会の同意なく行使される。宣戦および講和、パスポートの発給、栄典の授与などである[45]。大権に属する権能の行使は名目上は君主によるものであるが、首相および内閣の助言に基づいている[46]。英国政府の主要な機能は今なお国王大権に基づいて執行されているが、一般論として、徐々に制定法に基礎が置かれるようになるにつれ、大権の利用は減少している[47]。 上院によるいくつもの決定により、大権の利用は大きく制約されてきた。1915年、上院は「権利の請願について」(Re Petition of Right)において、戦時における軍事目的による商業用空港の英国陸軍による差押えについて判断を示した。政府は、侵攻に対する防衛のための手段である、と主張したが、裁判所の判断は、大権が行使されるためには政府は侵攻のおそれが存在することを立証しなければならない、というものであった。同様に、ザ・ザモラ(The Zamora)裁判において枢密院司法委員会 さらなる制限をもたらしたのは、司法長官対ド・キーザーズ・ロイヤル・ホテル社(Attorney-General v De Keyser's Royal Hotel Ltd
国王大権の利用
制約
この制定法優位の原則は、レイカー・エアウェイズ社対通商省(Laker Airways Ltd v Department of Trade)裁判[52]において拡張され、同事件においては大権に属する権能は制定法の規定に矛盾して利用することはできないことが確認され、当該権能および当該制定法の双方が適用される状況においては、当該権能は専ら当該制定法の目的の範囲内において利用し得ることを確認した[53]。さらなる拡張をもたらした女王対内務大臣(消防士労働組合代理)(R v Secretary of State for the Home Department, ex parte Fire Brigades Union)裁判[54]においては、控訴院は、制定法がまた施行されていなくとも、当該制定法を「議会の望みに反する」ものに変更するために大権を利用することはできないとした[55]。 裁判所は伝統的に大権に属する権能を司法審査に服せしめることを差し控えていた。裁判官らは、専ら権能が存在したか否かを言明し、これが適切に利用されたか否かについては言明を控えた[55]。すなわち、彼らは専らウェンズベリ基準(Wednesbury tests
司法審査
1960年代および70年代において、この態度が変わり始めた。女王対犯罪被害補償局(レイン代理)(R v Criminal Injuries Compensation Board, ex parte Lain)裁判において裁判所は、大権に属する権能は、これが「司法的」任務の遂行のために利用された場合には司法審査に服するとした。眼前の問題は裁判所にとって容易に判断することができたのである。レイカー・エアウェイズ事件により、大権に属する権能はより強力な司法審査に服するべきとの考えがより強まった。デニング男爵は、次のように述べる。「大権は公益のために行使されるべき裁量的権能であることに鑑みると、当然、その行使は、執行府に属する他の裁量的権能と全く同様に、裁判所によって審査され得ることとなる。」この問題について最も権威のある事件は国家公務員労働組合評議会対行政機構担当大臣(Council of Civil Service Unions v Minister for the Civil Service)裁判(いわゆるGCHQ裁判)である。上院は、司法審査の適用は政府の権能の性質に従うのであってその淵源に従うのではないことを確認した。外交政策と国防に関する権能は司法審査の対象外と考えられているが、慈悲大権は女王対内務大臣(ベントリー代理)(R v Secretary of State for the Home Department, ex parte Bentley)裁判により司法審査の対象とされている[57]。
解散に関わる国王大権の行使や関連する決定などについては、議会解散・召集法の規定で、全て司法判断の対象外とされている。 国王大権の廃止がごく近いわけではないし、君主および国王大権の役割の廃止に向けた政府内の近時の動きも不成功であった[58]。法務省は2009年10月に「執行的国王大権権能の見直し」を開始した[59]。前労働党議員トニー・ベンは、1990年代に連合王国内における国王大権の廃止に向けたキャンペーンを行ったが不成功に終わった。彼の主張は、首相および内閣の助言に基づいて行使される有効な統治権限は全て議会の審査に服すべきであり、かつ、議会の承諾を得るべき、というものであった。その後の政府の主張は、もし国王大権の対象となる事項の幅がそのようであったら、大権が現在利用されている各事例ごとに議会の承諾を求めることで、議会の時間が圧倒されてしまい、立法が遅延してしまう、というものであった[60]。
改革
脚注[脚注の使い方]^ Select Committee on Public Administration (2004年3月16日). “ ⇒Select Committee on Public Administration Fourth Report”. Parliament of the United Kingdom. 2010年5月7日閲覧。
^ a b c Carroll (2007) p. 246
^ Loveland (2009) p. 92
^ a b Holdsworth (1921) p. 554
^ Keen, Maurice Hugh England in the later middle ages: a political history Methuen & Co (1973) p281
^ Chrimes, S. B. Richard II's questions to the judges 1387 in Law Quarterly Review lxxii: 365?90 (1956)
^ 1 Parl. Hist. 555
^ Holdsworth (1921) p. 555
^ Holdsworth (1921) p. 556
^ Holdsworth (1921) p. 561
^ Loveland (2009) p. 87
^ Loveland (2009) p. 91
^ バーレント(2004) p.140
^ バーレント(2004) p.140-141
^ バーレント(2004) p.141
^ a b c d 神戸(2005) p.162