国王大権_(イギリス)
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勅令の制定

また立法のうち、勅令を制定する国王大権は、前述の1610年のコークの判例によって制限されている(国法上重大な犯罪を防止する場合を除いて、勅令によって新たな犯罪を創設することはできない)[16]
議会の解散・停会

議会を解散する国王大権は、2011年議会任期固定法によって一旦廃止された。その際においても、同法第6条第(1)項は、議会を停会する君主の権能は同法によって妨げられないことを特に言明していた[21]。2022年3月には議会解散・召集法が成立することで、議会任期固定法は廃止され、解散に関わる国王大権は「議会任期固定法の制定がなかったように」復活し、議会解散に関係する手続きは従来通りとなった。

議会の解散は君主が歴史的に有する大権の1つであるが、これは「おそらく君主により属人的に行使される最も重要な残余大権であり、最大の論争の可能性をはらむものである。」[22]と指摘されている。近年は、通常、議会及び首相の要請に応じて行使されていたが、これは首相の裁量による場合か、または不信任決議があった場合のいずれかであった。最後に君主が一方的に議会を解散したのは1835年であり、グレイ伯爵が首相を辞した際である。グレイ伯爵の内閣は完全に機能しており、彼なしでもなお存続可能であったが、ウィリアム4世は解散を強いることを選んだ。憲法学者の間では、これが近年においても可能であったかについて見解が分かれている。アイヴァー・ジェニングス(英語版)の著述によれば、解散は「大臣らの受諾」(the acquiescence of ministers)を伴うものであり、したがって、君主は大臣の承諾なくして議会を解散し得ない。「もし大臣らがかかる助言を行うことを拒めば、女王は彼らを解任する以上のことはできない。」しかしながら、A.V.ダイシーの考えによれば、ある極限的な状況においては、君主は独力で議会を解散し得る。その条件は、「当該議院の意見が選挙人の意見ではないと考える公正な理由がある事由が生じたこと」である。「立法府の望みが、国民の望みと異なるものであり、またはそのように公正に推定される場合であれば、解散は、許容され、または必要である。」[23]
行政
任官

首相・大臣・公務員・軍人・裁判官の任免権は国王大権である[24]

技術的には君主は任命したいと欲する者を首相に任命することができるが、実際に任命を受ける者は常に下院において過半数の支持を得る者である。通常、これは総選挙後に過半数の席を得た政党の党首である。困難が生じるのは、いわゆる「宙吊り議会」(ハング・パーラメント)である。そこではいずれの政党も過半数の支持を得ていない。この状況では、憲法上の慣習により、前任の現職者が、連合政権を形成し首相任命を求める優先的権利を有する[25]。首相が会期の半ばに退陣を決定した場合(1957年にアンソニー・エデンがしたように。)は、君主には裁量はない。通常は、下院の過半数の支持を有する「待機中の首相」(prime minister-in-waiting)が存在し、その者がほぼ自動的に任命される[26]
軍隊

君主は軍隊の最高司令官であり、軍人は国王大権によって規制される。ほとんどの制定法は軍隊には適用されないが、軍の組織、規律、統制、給与などは制定法で定められている。1947年国王手続法の下では、君主は軍隊に対する権限を独占しており、その組織、配置および指揮は、裁判所によって妨げられない[27]。大権を行使することで、国王は、軍人を募集し、士官を任官し、外国政府とその領土における自国軍駐留について協定を結ぶ[28]
緊急時

緊急時における臣民の土地の立入や収用の権利、臣民の財産の徴発権なども国王大権である[24]。女王対内務大臣(ノーサンブリア警察代理)(R v Secretary of State for the Home Department, ex parte Northumbria Police Authority)裁判では、国王大権には、「女王の平和を保全するために全ての合理的手段をとる」権能が含まれるとされ、バーマ・オイル社対法務長官(Burmah Oil Co Ltd v Lord Advocate)裁判では、上院はこの見解を採用し、「第二次世界大戦の遂行のため必要な、緊急時における全てのものごとを行う」ことまで拡張した[29]
国教会

君主は国教会の首長であり、国教会の大主教および主教の任免権[30]、宗教会議の招集・解散権などは国王大権に属する[24]欽定訳聖書の印刷および免許に対する規制もまた国王大権に属する[31]
王室財産

王室財産の処分権は国王大権である。17世紀までは王庫と国庫が分離していなかったが、18世紀中に両者が分離し、御料地からの収入はまず行政府に収められ、政府から王室に王室費が給付される形式になった(現在では議会も関与)。これとは別に君主の個人財産からの収入がある(この収入は非課税だったが、1993年からエリザベス2世の同意を得て税金が課されている。ただし君主はこの同意を撤回する権利を留保している)[32]。個人財産の処分については、今でも君主の個人裁量権は広い。エリザベス2世は、火災のあったウィンザー城の再建費用捻出のためにバッキンガム宮殿を一般に開放して入場料を徴収するという事業を営んだことがある[24]
栄誉・栄典

貴族創設、ナイト授与、各種勲章授与など栄誉・栄典の授与は国王大権である。多くの場合は他の大権と同様に執行府の助言に基づくが、ガーター勲章シッスル勲章メリット勲章ロイヤル・ヴィクトリア勲章およびロイヤル・ヴィクトリア頸飾については、君主が完全な裁量を有する[33][24]
恩赦・起訴取下げ

慈悲大権(the prerogative of mercy)には2つのものがある。恩赦(pardon)と起訴取下げ(nolle prosequi)である。恩赦は、有罪判決から「罰(pains, penalties and punishments)」を消滅させるが、有罪判決そのものを失わせるわけではない。この権能は、通常、内務省担当大臣の助言によって行使される。君主がこれに直接に関与することはない。この権能の行使は、減刑(commutation)という形をとることもある。これは恩赦の一種で、一定の条件の下で宣告刑が減じられるのである。恩赦は司法審査に服さないことは、国家公務員労働組合評議会対行政機構担当大臣(Council of Civil Service Unions v Minister for the Civil Service)裁判によって確認されたが[34]、女王対内務大臣(ベントリー代理)(R v Secretary of State for the Home Department, ex parte Bentley)裁判のように、裁判所はその適用の有無について非難することがある[35][36]。起訴取下げは、イングランドおよびウェールズ法務総裁(またはスコットランドもしくは北アイルランドのこれに相当する者)により王の名において行われ、これにより個人に対する法的手続が停止される。これが司法審査に服さないことは女王対特許庁長官(R v Comptroller of Patents)裁判で確認されたが、無罪とされるわけではなく、被告人は後日、同一の嫌疑で起訴されることはあり得る[37]
その他

それ以外の国王大権として、通貨鋳造権、未成年・精神障害者の後見権、イギリスに埋蔵されている金属鉱山や文化財の所有権、遺失物の収用権、相続人の無い財産の収用権(日本では民法959条により相続人の無い財産は最終的には国庫に属するが、イギリスでは同様に国王に属する。)などがある[38]
司法

司法は国王大権である。君主は「正義の源泉」とされており、臣民に正義実現システム(裁判制度)を提供することが王の責務とされている。イギリスの裁判はすべて君主の名のもとに行われる[17]
外交

国王大権は外交関係において多く用いられる。広い裁量権が必要という外交の性質上、国王大権に法的根拠を求めると便利なためである。ただ近時には外交面でも法的根拠を制定法に移行しようという動きも見られる[16]

君主は、外国の国家承認を行い(ただし、いくつかの制定法により、国家元首および外交官の享有する免除が規定されている。)、宣戦と講和を行い、条約を締結する。

君主はまた、領土を併合する権能を有しており、これは1955年にロッコール島について行使された。ひとたび領土が併合されれば、君主は、政府が前政府の責任を引き受ける限度について完全な裁量を有しており、これはウェスト・ランド・セントラル・ゴールド・マイニング・カンパニー対王(West Rand Central Gold Mining Company v The King)裁判で確認された。


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