1920年版のオリンピック憲章により、オリンピック大会における金メダル受賞者に対しての国歌の演奏が規定された。これ以降、国際スポーツ大会において国歌が演奏される機会が増加していくこととなり、それまで国歌を持たなかった国々が国歌を制定する大きな動機づけとなった。1931年には、1776年の独立以来公式な国歌を持たなかったアメリカが「星条旗」を国歌として初めて法的に制定した。これに続いてメキシコ(1943年)、スイス(1961年)などの国が国歌の採用もしくは法制化を行なっている。第二次世界大戦期以降、とりわけ1960年代の植民地解体期以降に独立した国においては、独立と同時に国歌を制定することが一般的となった。 国歌の法的な位置付けは国によって大きく異なる。憲法において規定されている国(フランス、中国など)、法律で規定されている国(アメリカ、日本、ロシア、カナダなど)、大統領令や政令で規定されている国(韓国など)、慣習的に国歌とされているものの、何らの法的な裏付けが存在しない国(イギリス、ドイツ、スウェーデンなど)がある。 9割以上の国が長調の曲を採用している。その中でももっとも一般的なのはヘ長調であり、変ロ長調、ハ長調がこれに次ぐ。比較的珍しいのは嬰ハ長調、変ニ長調、ニ短調などである。使われている調別に国を色分けした地図 国歌のスタイルは行進曲形式、賛美歌形式のほか、アジアやアフリカ諸国のものでは民族音楽形式のものも多い。ラテンアメリカ、旧ソ連、一部ヨーロッパ諸国の国歌は比較的長いものが多く、ウルグアイ国歌は通しで演奏すると(演奏速度により)4分半ないし6分かかる。ギリシャ国歌(キプロス国歌も同じ)は非公式ながら158番までの詞がつけられている。一方でアジア、アフリカ、オセアニアでは比較的短いものが多く、日本国歌、ウガンダ国歌、ケニア国歌、サウジアラビア国歌などの演奏時間はいずれも30秒程度である。 国歌の中には世界的に著名な人物によって作詞・作曲がなされたものがある。例として、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンによって作曲されたドイツ国歌、ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトによって作曲されたオーストリア国歌、アラム・ハチャトゥリアンの作曲によるアルメニア・ソビエト社会主義共和国の国歌、ノーベル文学賞受賞者であるラビンドラナート・タゴールにより作詞作曲されたインドの国歌、バングラデシュの国歌などが挙げられる。しかし国外では有名でない人物により作詞・作曲された国歌の方が圧倒的に多く、また近代以前に作られた歌の中には作詞・作曲者が不明なものも存在する。このような例としては、作詞・作曲者ともに不明なイギリス国歌、作曲者が不明なスペイン国歌やオランダ国歌、古今和歌集の詠み人知らずの和歌から歌詞を取った日本国歌「君が代」などがある。また特に20世紀以降に作詞・作曲されたものの中には、個人としての作詞作曲者をあえて明示せず、「合作」としているものも存在する(南スーダン国歌の詞曲、トルクメニスタン国歌の歌詞、文化大革命期の中国国歌の歌詞など)。 国歌の作詞作曲はその国の国民によってなされたものが多いが、例外も存在する。イギリスのジョン・スタフォード・スミスにより作曲された「天国のアナクレオンへ」のメロディを流用したアメリカ国歌、フィンランド人のフレドリック・パシウスによる作曲のエストニア国歌などが例としてある。作曲が外国人による場合でも作詞は自国民によるケースがほとんどだが、パラグアイ国歌はウルグアイ人のフランシスコ・アクーニャ・デ・フィゲロア(ウルグアイ国歌の作詞者でもある)の作詞、イタリア人のフランチェスコ・カッサーレの作曲によるものであり、作詞作曲の双方が外国人によってなされている点で特異である。 自国の自然風土を賛美するもの、国家の安寧を祈願するものは国家の政体を問わず普遍的である。その他、君主国においては君主への賛美、忠誠などを表現したものが多い。フランスおよびその影響を受けたラテンアメリカ、アフリカ諸国では、自由の価値を讃えるものや外敵との抗争を歌ったものが多い。中東諸国においてはイスラム教およびアラーを讃える国歌が一般的である。一方、キリスト教の神に言及する国歌はイギリスおよびその旧植民地諸国に多く、それ以外では少ない。 スペインやボスニア・ヘルツェゴビナなどの国においては、主として歴史的・民族的要因により、国歌に公式な歌詞が存在しない(器楽曲)。 公用語が複数ある国家では、国歌の歌詞も各言語のものがすべて正式なものとして認められている場合が多い。例としてスイス国歌は公用語である4つの言語(ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語)すべてで歌詞が作られている。一方でシンガポール国歌のように、人口的には少数派の言語であるマレー語での歌唱が義務付けられているものも存在する[2]。複数言語でそれぞれ独立した歌詞が存在するものの、それらを部分的に織り交ぜて歌唱することが通例となっているもの(カナダ国歌、ニュージーランド国歌など)、さらには公式の歌詞そのものが複数言語で書かれ、常に多言語で歌われるもの(南アフリカ国歌)もある。 国歌は、国内向けには愛国心の涵養および表現のため、また国外向けには国旗などと同様に、国家の象徴として他国との区別を行うために用いられる。 国旗掲揚式では、国旗の掲揚と降下時に国歌が演奏されることが多い。多くの国では学校で教育の一環として国歌の演奏・歌唱が行われるほか、毎日始業時などに国歌斉唱を行う国もある(タンザニアなど)。ほとんどの国営テレビ局やラジオ局は、放送開始前の早朝と放送終了後の夜間に国歌を流している。外交の場では、歓迎式典でホスト国とゲスト国双方の国歌が演奏されることが多い。 国歌斉唱や演奏の際には、国により、またシチュエーションにより、敬礼、起立、脱帽など、特定の礼儀作法が求められることがある。 スポーツイベントの試合前にも国歌演奏・歌唱が行われることがある。サッカーやラグビーなど、スポーツの主要な国際大会では試合を行う両国の国歌が演奏され、開催国の国歌が後に演奏される。オリンピックや世界選手権の表彰式でメダルが授与される際には、金メダルを獲得した選手の国歌が演奏される。アメリカのメジャーリーグベースボールや日本のプロ野球をはじめ、国内のチーム同士の対戦の際にも国歌の歌唱が行われる場合がある。
法的地位
様式
作詞作曲
歌詞
国歌の使用機会
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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