国家_(対話篇)
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概要

『国家』は全10巻で構成され、プラトン中期の作品と考えられている。その構成・形式は、ソクラテスがアテナイの外港ペイライエウスにある、富裕居留民ケパロス: Cephalus)の家で行った議論を記録する対話篇の体裁を採っている。

本書は、後期の作品と考えられる『法律』(全12巻)と共に、他の対話篇と較べ際立って長く、「に配慮し、善く生きる」というソクラテス・プラトン的な道徳哲学倫理学)・政治哲学政治学)思想が、プラトン中期思想に特徴的なイデア論を中核に語られる。特に、善的・神的・宇宙的な自然(ピュシス)の秩序を、小宇宙としての人間(の魂(プシュケー))、その集合体としての国家(ポリス)やその秩序を司る法(ノモス)にまで、国制・政体(ポリテイア)論、正義論、哲学(者)・哲人統治(哲人政治)論などを通じて浸透・貫徹させようとする、壮大かつ創造性豊かな哲学体系が提示される。そのため、プラトンの政治哲学神学存在論認識論を代表する著作の1つとされ、古代西洋哲学史において最も論議される作品の1つと位置づけできる。ゆえに本書で展開されている理想国家の発想は、後世のユートピア文学や共産主義にも多大な影響を与えた。

具体的な内容については、ケパロスとの会話が発端となって提起された正義が何なのかという問題から始まる。まずソクラテスは、トラシュマコスによって主張された「強者の利益」としての正義という説を論駁したが、正義それ自体の特定にまでは至らずアポリアに陥ってしまう。しかし、プラトンの2人の兄であるグラウコンアデイマントスが、正義の議論を引き継ぎ、世間に蔓延する正義の存在を否定する立場(道徳否定論・正義否定論)を代理に主張しつつ、ソクラテスに対して正義の実在を証明するように求めたために、ソクラテスは個人の延長として国家を観察することで応答しようとする。国家を観察するためにソクラテスは理論的に理想国家を構築しており、その仕組みを明らかにした。そして理想国家を実現する条件として、ソクラテスは独自のイデア論に基づいて哲人統治者(哲人王)の必要を主張する。この哲人統治者(哲人王)にとって不可欠なものとして(善のイデアに到達するための数学諸学科と弁証術ディアレクティケー)から成る)教育の理念が論じられており、そうして養われた知の徳性(知性)を頂点とする「善き政体」の獲得/確立/守護/維持という意味での正義が、(国家全体の水準でも、一個人の内面の水準でも)人間を幸福にするものと主張される。

(しかし、ここで注意すべきなのは、プラトンは本書で述べているような「何でも見通す知性を持った、善良で節制した哲人統治者(哲人王)が、頂点に立って支配し、皆がそれに服従する理想的政体(優秀者支配制)」について、少なくとも国家(理想国家)に関しては、最初からそれをあまり実現可能なものとしては考えておらず、「模範・手本・目標とすべきだが、人間には(ほぼ)実現不可能な理想」として考えており、そのことを本編の中でも、また政治論・法律論についての続編である後期対話篇『政治家』『法律』の中でも、明確に断っているという点である[6][7][8]。『政治家』『法律』では、「クロノス黄金時代における、神やその配下の神霊(ダイモーン)による支配」に喩えられるその「理想的政体」は[9][10]、あくまでも「天上の神的・理想的なもの」として、個人の魂における「内なる政体」を整え維持したり、現実国家をなるべくそれに近い「次善の政体」へと導いていこうとする際に、参照・参考されるべきものとして、主張・提唱されている[11][12][8]。そして、最後の対話篇『法律』では、現実国家に関して、「混合政体」「法治主義」「共有を背景とした人口数管理と貧富格差防止」「投票選挙」「夜の会議」等の組み合わせによって、「次善の政体」を実現すべきであると主張されている[13]。このように、プラトンの政治論は、中期の対話篇『国家』で「実現不可能な理想国家 (最善国家)」を提示し、後期(最後)の対話篇『法律』で「(その理想になるべく近い) 実現可能な次善国家」を提示する、という2段構成になっている点に、注意を要する。)

ちなみに、哲人統治者(哲人王)を説明していく第6巻の途中で、ソクラテスが哲学の評判を貶める(「職業的技術」によって魂まで不具となりながらも、「哲学」に憧れてそれを自称している不適格な)「似非哲学者」の存在を、非難するくだりがあるが[14]、これはプラトンが『エウテュデモス』『パイドロス』『テアイテトス』でも非難を加えている、(プラトン・アカデメイア派とライバル関係にあり、その営みを「哲学」と自称することもあった)イソクラテスをはじめとする法廷弁論作家(ロゴグラポス)や彼の弁論術学校の生徒のことであると、一般的には考えられている[15]
構成アテナイと外港ペイライエウス
登場人物

ソクラテス - 39歳-48歳頃[16]、もしくは57歳頃[17]

ケパロス - シケリアシュラクサイ出身の富豪。


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