国家社会主義ドイツ労働者党
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邦訳は、「Nationalsozialismus」の「National」の解釈の違いにより「国民社会主義ドイツ労働者党[41][注釈 2]」のほか、「国家社会主義[42]」、「国粋社会主義[43]」なども使用される。日本の高校歴史教科書では「国民- 」とするのが主流となっている[44]。同様に、同党が掲げた主義思想も「国民- 」[45]、「民族- 」などの訳語が使用されている。

略称の日本語訳は、「ナチス」の他、戦前・戦中は「国粋社会党[46]」「国民社会党[47]」なども使用された。

また「Arbeiterpartei」の部分について「労働者党」ではなく「労働党」と訳す例もある[48]

教育史学者の小峰総一郎によると、「?nationalsozialistisch“?の訳語として『民族社会主義の』『国家社会主義の』も誤りではないが、近年では『国民社会主義党(ナチ党)の』『ナチズムの』『ナチスの』のように、ヒトラーの『ナチ党』(=『国民社会主義ドイツ労働者党』 Nationalsozialistische Deutsche Arbeiter Partei <NSDAP>)を表す簡明な表現が一般的となっている。」と形容詞表現の用法について述べた[49]

なお中国語では「民族社會主義コ意志工人黨」[注釈 3]や「國家社會主義コ意志工人黨」[注釈 4]や「國家社會主義コ國工人黨」[注釈 5]など。略称は「納粹黨」[注釈 6]。最初「Nazi」は上海語の発音に基づいて「南尖」([no t?i])と訳していたが、後に当時駐在ドイツ武官を務めていた国民革命軍少将の?悌が「納粹」と訳した。「納粹」([n?̂ ts?wê?])は「Nazi」([?na?tsi])という音を表すとともに、「精粋を納める」という意味を表す。肯定的な意味を持つ「納粹」という単語は「Nazi」を訳すときに使われていたが、現在では「納粹」が固有名詞として使われるようになり、肯定的な意味を持っていない。[要検証ノート]
「国家社会主義」は誤訳か否か

ナチス・ドイツ時代のメディアなどを研究する佐藤卓己は、「国民社会主義」と訳すべきと主張する[44]。佐藤は、「National」を「国家-」とするのは誤訳であり[44]、現代ドイツ史の専門家でこのように訳す者はいないと主張する[50]。佐藤はさらに、「国家- 」と誤訳され続ける背景には「国家の責任のみ追及して国民の責任を問おうとしない心性」があると主張する[44]
「国民社会主義ドイツ労働者党」とする主張とその理由

ドイツ近現代史専門の石田勇治によると「National」は「国家(Staat)ではなく、国民あるいは民族という意味で用いられている」という[51]。石田は、「ナチズムは国家ではなく、国民・民族を優先する思想」であり、党名を「国家- 」と訳すとそのナチズムの本質を見誤ってしまうため、日本語訳は「国民- 」とすべきと主張する[51]。石田によれば、国民社会主義における「国民主義」とは「民族を軸に国民を統合する」という考え方であり、「社会主義」とは「マルクス主義・階級意識を克服して国民を束ねる共同体主義」を意味した[52]。両者についてヒトラーは、しばしば「同一である」と主張していたという[52]

田野大輔は「ヒトラーは社会主義者だ」とする主張に反論するうえで、党名の訳語についても触れ、「『国家(Staat)』と『国民(Nation)』の混同を避ける目的から、近年では『国民社会主義』という訳語が一般的になっている」としている[53]

小野寺拓也は、高校世界史教科書での具体的な採用状況を挙げたうえで(「国民社会主義ドイツ労働者党」(東京書籍帝国書院実教出版)、「国民(国家)社会主義」(山川出版社))、上記の2つの主張を踏まえて「国民社会主義」との訳語の方が適切である旨述べている[54]
「民族社会主義ドイツ労働者党」とする主張とその理由

田村栄一郎は「国家を民族の生存のための単なる手段とみなしている点では、これを『民族』社会主義として差支えなかろう。しかしこの場合も、ある人はこれを『国家』社会主義、他の人はこれを『国民』社会主義と訳している―大きな困難を伴うことが予想される。」と述べた[55]

伊集院立がエバーハルト・イェッケル(ドイツ語版)の『ヒトラー 全記録 1905-1924 (シュツットガルト、1980年)』に基づいて、ナチ党の名称はヒトラーの考えでは『国民社会主義ドイツ労働者党』ではなく『民族社会主義ドイツ労働者党』であったと主張した際、西川正雄との間に緊張が生じたといい、西川は「できれば国民社会主義にしてはどうだろうか」と述べたという[56]

山本秀行は「教科書などでは『国民』の訳が定着しているが、1935年以降については『民族』とした方が、ぴったりくるようにも思われる。」と述べた[57]

経済学者の瀬戸岡紘は、「ファシズムにとって『階級』ならぬ『民族』を意識させ『民族』意識をテコとすることは決定的に重要だった」との理由から、「国家- 」ではなく「民族- 」の訳語を用いている[58]

マルクス経済学研究者の岩田弘は、ナチスの民族主義優生思想に即している「民族社会主義[59]」の訳語が適切と主張している[60]

飯島滋明は「民族社会主義ドイツ労働者党」と訳し、「ヒトラー・ナチスが目指したのは優秀かつ健康な『アーリア人』による国づくりである。ユダヤ人などが含まれた『国民』『国家』を目指すものではない。そうである以上、『国家社会主義ドイツ労働者党』『国民社会主義ドイツ労働者党』と訳すのはナチスの意図をあいまいにし、適切でないように思われる。」と述べた[61]

山本孝二・大木毅はリチャード・J・エヴァンズ(英語版)の『第三帝国の歴史』において「『ナチズム』の原語であるNationalsozialismusは『国民社会主義』、『民族社会主義』など、様々に訳し得る。体制期に展開された、いわゆるゲルマン系の他国民に対する政策などに鑑み、『民族社会主義』もしくは『ナチズム』とした。」と記し[62]、大木は『戦車将軍グデーリアン』において「民族社会主義ドイツ労働者党 (NSDAP) 」と訳した[63]


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