国家安全保障
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概念第24次西成暴動で出動した大阪府警察機動隊(2008年)ギリシャ沖でのシリアイラク難民(2016年)

現代において確固とした安全保障の定義は存在せず、そのことは多くの専門家によって指摘されてきた。

安全保障は古代ローマにおいて精神的な心の平穏を意味するSecuritasを語源とし、英語ではSecurityやフランス語ではSecurite、ドイツ語ではSicherheit、イタリア語ではSicurezza、スペイン語ではSeguridadと表記され、こうした欧州の概念を日本などが輸入した結果、漢字表記としての安全保障という概念が成立することとなった。古代ローマにおけるsecuritasという概念はストア哲学の基本概念のひとつであり、政治的社会的な意味を帯びた結果、ローマ帝国時代における「ローマによる平和」即ちパクス・ロマーナ(Pax Romana)という概念に結び付けられるようになった。

伝統的な安全保障概念とは、軍事的な意味での国家の平和と独立或いは国家間の関係の中でとらえられてきたが、今日では人間の安全保障をはじめとして非国家的・非軍事的な概念が派生しており、その概念は時代によって変化し、また文脈や使用者、学派、価値観によってもその意味が異なることがある。このため、正確に安全保障という概念をとらえる上で、使用には注意を要する。

近現代では理論上、安全保障と防衛は厳密に区別される。安全保障とは『脅威が及ばないようにすることで安全な状態を保障すること』を目的としているのに対し、防衛は『及んできた脅威に対抗し何らかの強制力によってそれを排除する』ことが目的である。

以下では、ここでは伝統的安全保障をはじめ、新たな安全保障概念を含めて今日、国際政治上、論議される代表的な安全保障の概念について解説する。
伝統的安全保障

伝統的安全保障とは国家の領土や政治的独立、外部からの脅威を軍事的手段による牽制によって守ることを主眼においた、最も基本的な安全保障の概念である。国防がこれに該当する。今日においても軍事力を用いて国家の生存と独立、国民の財産、安全を保証することは極めて重要な国家の役割の一つとされている。今日では国家総力戦核兵器の登場により戦争が割に合わないものになったため十分な抑止力を整備すれば、先進国同士の戦争は起きにくくなっている。
人間の安全保障

人間の安全保障とは国際社会の秩序を人間社会の延長として認識し、国家よりもむしろその最小構成単位である人間に注目し、武力行使を防ぐためのシステムを確立し、その基本的な人権平等民主主義の発展をグローバルな市民社会の協力によって目指し、平和を創出するグローバリズム学派の安全保障の概念である。またエイズや環境問題などを研究対象に含める場合もあるため、非常にさまざまな要素を包括する概念である。
総合安全保障

総合安全保障とは脅威に対する手段を軍事的なものに限らず、非軍事的なものも最大限に取り入れ、同時に対象となる脅威も国外だけでなく、国内や自然の脅威をも対象とする安全保障の概念である。1980年に内閣総理大臣大平正芳の総合安全保障問題研究の政策研究会報告書において理論化された。
集団安全保障

集団安全保障とは国家連合において、正当性のない一方的な軍事力の行使を原則禁止し、またその原則に違反して武力行使に至った国家に対しては構成諸国が連合して軍事的手段も含む集団的制裁をかける安全保障の概念である。国際連盟において初めて採用され、現在では国際連合がこの集団安全保障を機能させる国際機関であるが、いまだ実現しておらず、国連憲章に定められた体制は整っていない。
共通の安全保障

戦争回避が共通の利益であるとの認識に基づいて、敵とも協力して戦争回避を目指す安全保障の概念である。冷戦期、ヨーロッパにおいて生まれた概念であり、従来の競争的・対立的な安全保障を否定し、敵対勢力との相互依存的な協力を重視する。この具体例として1975年の全欧安全保障協力会議(現在の欧州安全保障協力機構)が挙げられる。
協調安全保障

敵・味方が流動的な不安定地域の国家が体制に加わり、各国の協調主義的な外交や貿易によって危険や脅威を制御し、戦争を抑止し、戦争が勃発した場合もその拡大を抑制することを目的とする安全保障の概念である。非軍事的な側面が重視されているものの、体制に潜在的適性国を含めてその地域の全ての主要国が参加する必要があること、さらに潜在的適性国を含めて域内の全主要国が共同行動に参加する意思を持つこと、また顕在的敵性国が体制内に存在しないことなどが体制が機能する前提条件となる。

以上から分かるように、安全保障の概念は時代、世界観、思想、政策などによって変化しているため、注意が必要な包括的な概念であることが分かる。
安全保障の歴史

古来から人類にとって生存は最重要課題であり、そのために歴史上の為政者たちは自国の安全を確保するために多大な労力を費やしてきた。

19世紀までの国際社会においては、対立する国家(同盟)間の力の均衡によって秩序が安定するという国際社会において、軍事力の造成と同盟の強化によってのみ自国の安全を保障するという個別安全保障の考え方が支配的であった。


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