一方でプラトンと対立する点もあり、「理論志向」のプラトンに対する「実践志向」のキケロ、とも評される[11]。つまり例えば、『国家』の理想国が実現不可能とされるのに対し本書の理想国は実現可能とされること[11]、『国家』が普遍性を重視するのに対し[11]、本書は「父祖の遺風(英語版)」を背景に[12]、自国史などの個別性を重視すること[11]、などが挙げられる。キケロは哲学理論と政治実践の統合を目指していた[13]。
キケロ自身は、本書を「プラトン、アリストテレス、テオプラストス、そして全ペリパトス派によって研究されてきたテーマ」を扱う著作だと述べている[14][15]。 本書の登場人物である小スキピオを中心とする知識人サークル「スキピオ・サークル
スキピオ・サークル
執筆途中、登場人物をスキピオ・サークルでなく、キケロ本人とその弟クィントゥスに改めることも検討された[17](下記引用)。.mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}舞台を今の時代にしてしまうことで、誰かが気分を害するんじゃないか、そのことを私は心配したのだ。そうしたことがないよう配慮しつつ、私とお前とが対話する形にしようかと今は考えている。ローマ市に帰ったら初稿を送ろう。かなりの労作なことは、お前にも分かってもらえると思う。—キケロ、『弟クィントゥス宛書簡』3.5.2
しかし最終的にスキピオ・サークルのままになった[17]。ただし、続編の『法律について(英語版)』ではスキピオ・サークルに代わり、キケロ、クィントゥス、友人のアッティクスの3人の対話を描いている[18]。
対話篇の登場人物を過去の人物にするのはプラトンの対話篇に倣ったものであるのに対し、現代の自分たちにするのはアリストテレスの散佚した対話篇に倣ったもの、と推測される[19][20]。 前129年ラテン人の祭日
内容
場面・登場人物・序文
小スキピオ - 主人公。キケロの代弁者[22]。同年に暗殺される。
クイントゥス・アエリウス・トゥベロ(英語版)
ガイウス・ファンニウス
ルキウス・フリウス・ピルス
マニウス・マニリウス
クィントゥス・ムキウス・スカエウォラ (紀元前117年の執政官)
スプリウス・ムンミウス(英語版)
ガイウス・ラエリウス・サピエンス
プブリウス・ルティリウス・ルフス
対話は3日間にわたり、各日が2巻ずつに当たる[3]。
各日の初めに、キケロによる序文が付されている[3]。こうした序文はギリシアの対話篇にないキケロの独自要素[23]、あるいはアリストテレスの散佚した対話篇に倣ったものと推測される[19][24]。
前129年前後は、グラックス兄弟の改革をめぐって国家が分裂していた時期だった[25]。キケロは、これを執筆当時の第一回三頭政治による分裂に重ね、分裂の解決策を示そうとして本書を執筆した[25]。 序文の後、天の異兆である「幻日」(太陽が二つあること)の発生報告をめぐる、宇宙論的な議論から対話が始まる[25][26]。そこで、天に二つの太陽があることよりも、ローマが二つに分裂していることの方が喫緊の問題であるとして、そもそも「国家」とは何であるかに議論が移る[25]。 小スキピオは、「国家」(羅: res publica レス・プブリカ)とはすなわち「人民のもの」(羅: res populi)であるとした上で[27]、アリストテレス『政治学』における「ポリス的動物」と同様の国家起源論を説く[28]。国家が誕生すると必ず権力の委任者を必要とする[28]。その委任者の人数に応じて「王政」「貴族政」「民主政」の3種の政体がある[28]。
第1-2巻