固有色名
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ある色がどの基本色名で呼ばれるかは文化によって大きく異なる。例えば、英語の「yellow」は「ochre」(黄土色、或いは茶色に近い色)を含んでおり、日本語の「」よりも範囲が広い。又、漢字文化圏(古代中国朝鮮半島日本ベトナム)やマヤ文明では、「green」と「blue」を区別せずに「」と呼ぶ。

上述のバーリンとケイは大学院のセミナーの研究で98種の言語を比較し、言語によって基本色の数は異なること、基本色が対応する色の範囲が異なること、言語の進化によって次第に基本色が分化し増えてゆくことなどを見出した。

彼らは色名は全ての言語において、以下の順序で進化するという法則があると報告している[3]
白(white)と黒(black)は全ての言語にある。

色名が3つなら赤(red)がある。

色名が4つなら緑(green)または黄(yellow)がある。

色名が5つなら緑と黄がある。

色名が6つなら青(blue)がある。

色名が7つなら茶色(brown)がある

色名が8つ以上なら、紫(purple)、桃(pink)、橙(orange)、灰(gray)か、それらのうちどれかを組み合わせた色がある。

日本語の色名とその語源

上述のバーリンとケイによる定義に従えば、現代の日本語において基本色名と言える色は「赤」「青」「白」「黒」の4色であり、これらは古代から用いられている。他の色は、鉱物植物名などからの借用が多い。

古代からある色が上記4色である事実は現代日本語においても、その使い方の中に見られる。この4色は形容詞があり、「赤い」「青い」「白い」「黒い」という。また、「アカアカと」、「シラジラと」、「クログロと」、「アオアオと」のように副詞的用法を持つ色もこの4色のみである[4]

黄は「黄色い」、茶は「茶色い」というように「色」を含めないと形容詞として使えない。この「黄色い」「茶色い」という形容詞は江戸時代後期から定着したものと思われる。

他の色名は、漢語・外来語も含めて、例えば名詞が後続する場合、「緑の」「紫の」「紺の」「ピンクの」あるいは「緑色の」「紫色の」「紺色の」「ピンク色の」というような形容詞の代わりとなるような表現はあっても、形容詞そのものとしては使えない。

また、日本語の「青」は「緑」より遥かに古い時代に遡り、緑を含む場合がある。これについて日本語学者の小松英雄は、日本語を反証と見なさざるを得ないが、法則に違背しない解釈も可能としている[5]

それぞれの語源は、以下の通りとされる。
アカ(赤)
「アケ(朱)」「ア(明)ける」「アカ(明)るい」と同源で、夜が明けて明るくなるという意味から色の赤に転用されたもの。
クロ(黒)
古くは玄の字が多く使われた。「ク(暮)レる」「クラ(暗)い」と同源で、日が暮れて暗くなるという意味から色の黒に転用されたもの。その際、母音交替(a→o甲)を起こしただけでなく、アクセントまでも高起式から低起式に変化しているのは後述のシロと共通している。染料のクリ(涅。水底の黒土。クロと同様低起式)は意義分化に伴ってアクセント変化を遂げた後にクロから生じたもの。
アヲ(青)
植物名で染料名でもある「アヰ()」と同源。後述する「シル(顕)し」の対語で、はっきりしないという意味から色の青に転用されたもの。
シロ(白)
「シル(知)」「シルシ(印)」と同源で、はっきりした様を表す「シル(顕)し」が、色の白に転用されたもの。その際、u→o甲(詳しくは上代特殊仮名遣参照)に母音交替したのみならず、アクセントまでも高起式から低起式に変化しているのは注目される。

古代日本語では、明るい色はアカ、暗い色はクロ、はっきりせず曖昧な色はアヲ、はっきりした色はシロと呼ばれていたと思われる。これらはマンセル色体系等における明度、彩度の概念を想起させる。原始日本語においてはクロの対義語はシロではなくむしろアカであったと思われる。しかし、現代において「赤」と呼ばれる色ははっきりした(彩度が高い)色であり、「白」と呼ばれている色は明るい(明度が高い)色であることから、赤と白の間で言語の逆転が起こったと思われる。語源からも分かるように、奈良時代には既にシロ甲/クロ甲のようにロの母音が同じロ甲類音になっており、シロとクロが対義語として捉えられるようになっていたようである。

「白黒はっきりさせる」などのように、或いは警察関係の隠語でシロ・クロというように、シロがクロに対置されるようになった経緯については様々な意見が見られるが、「クラさ」に対する「アカるさ」が、「事物を明瞭にシルことができること」として意味が移り変わっていったことや、中国から入ってきた五行思想の色彩観の影響が理由として挙げられている。

「ミドリ(緑)」の語源ははっきりしない。「みどりの黒髪」という言い回しがあるが、『みずみずしさを感じさせる艶のある黒髪』を意味である。

日本文化の四原色の中で「ミドリ」は「アヲ」に含まれる。現代でも、greenを青の一部とする用法は方言などに広く残っている。進行を表す信号は法令により「緑色信号」と定められており、実際、緑色に分類される色が用いられているにもかかわらず、「青信号」という呼び方が定着している。現在では法令の方が『実情に合わせて』改正され、「青信号」となった。

「キ(黄)」は葱(キ)の食べる部分の色という説が有力で、萌葱が由来の萌黄という色名も古くからある[6]

「ムラサキ(紫)」「チャ(茶)」は、染料の名前に由来する。

「ハイ(灰)」はの色に由来する。
脚注^ 『色名辞典』清野、島森
^ ベティ・エドワーズ 『色彩・配色・混色』 高橋早苗訳 河出書房新社 2013年 ISBN 978-4-309-27429-4 pp.150-152.
^ Berlin & Kay 1969
^ 小松英雄 2001, p. 175
^ 小松英雄 2001, p. 171
^ 小松英雄 2001, p. 198

参考文献

Berlin, Brent; Kay, Paul (1969), Basic Color Terms: Their Universality and Evolution, University of California Press, .mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISBN 1575861623 

小松英雄 (2001), 『日本語の歴史―青信号はなぜアオなのか』, 笠間書院, ISBN 4305702347 

佐竹昭広 (1980), 『万葉集抜書』, 岩波書店, ISBN 4006000340 

福田邦夫 (1999), 『色の名前はどこからきたか―その意味と文化』, 青娥書房, ISBN 4790601803 

関連項目

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