回生ブレーキ
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気動車でもハイブリッド方式であるJR東日本キハE200形気動車は回生ブレーキを採用している。下記の「自動車」と同様に、回生負荷を自車の蓄電池としているが、余剰分のブレーキ力も一旦電力として回収し、エンジンと繋がった発電機をモーターとして作動させ、エンジンを排気ブレーキモードで逆に回す(抗力をより大きくする)ことにより余剰電力を消費している[注釈 10]
鉄道の電気車における回生失効

回生失効とは、回生ブレーキにおいて回生出力に対する負荷が確保できず、制動能力が低下または無効となる現象である。時に鉄道の電気車(常に架線から集電するもの)においては、集電装置の離線や返却先である架線の電圧が極端に高い場合、また返却した電力を消費する列車がない場合に発生する。これが起きるとほぼ完全にブレーキが利かなくなる。[注釈 11]

この現象は特に直流電化されている路線で発生しやすい。これは交流電化に比べて直流電化では「饋電(きでん)」区間が短い[注釈 12]という要因にもよるが、直流変電所において交流から直流への変換にダイオードブリッジ(シリコン整流器)が用いられていることに起因する。ダイオードブリッジは電流の流れる方向を規制するその機器の特性上、交流から直流へ変換することはできても、直流から交流へ逆変換することはできない。そのため回生ブレーキによって発電した電力は、変電所を通じて直流→交流となることはなく、特に対策を施さない場合は同じ変電所の同じき電区間内に電力を消費する他の「負荷」がなければ回生ブレーキは作動せず、「回生失効」となる。

また、交流電化区間であっても、離線やデッドセクションを通過する場合には回生失効が発生する可能性がある。

この回生失効現象が発生した場合、回生ブレーキ性能が大幅に低下、または無効化する。また、回生ブレーキを使用しない車両と併結している場合に、車両間で制動力に大きな差が生じ、いわゆる「ドン突き衝動」が起こる。このため、以下のような対策がとられている。
車両側

発電ブレーキを併設する。抵抗器を装備し、回生失効時には発生電力の返却先を架線から抵抗器に切り替えることにより、発電ブレーキとして機能させる。

回生ブレーキを完全に切り、空気ブレーキ摩擦ブレーキ)のみに切り替える。失効してすぐ空気ブレーキを立ち上げたり、増力させる、またこれらの現象を考慮し、運転士が任意に回生ブレーキを止めることができるスイッチ(回生開放スイッチ)を設けるなど。圧力計が振れるので切り替えが分かりやすい。

集電装置を複数搭載、あるいは母線引き通しにより複数車両間で共通回路とする。

発電ブレーキの併設は、近鉄大阪線のように山間で急勾配が長距離に渡って続く区間を擁し、回生失効によるブレーキ力低下が重大事故につながる危険性のある路線で使用される車両を中心として、フェイルセーフ性を確保する目的で行われている[注釈 13]。抵抗制御をベースとした制御方式(直巻他励界磁制御、界磁チョッパ制御、界磁添加励磁制御)では元々電圧制御段が抵抗制御であるため、従来通りこれを発電ブレーキの抵抗として使用できるが、電機子チョッパ制御、サイリスタ連続位相制御、VVVFインバータ制御、及び日本では主流に至らなかった回転式位相変換器を用いた交流電動車の場合は、専用に抵抗器を搭載する必要がある。また、抵抗制御を使用している車両であっても通常よりも大容量の抵抗器を搭載するケースが少なくない[注釈 14]。集電装置の離線による回路切断で発生する回生失効は、集電装置を複数搭載とすることである程度抑止が可能である。このため、回生ブレーキ非搭載の車両ではパンタグラフ1基搭載を原則とする路線であっても、回生ブレーキ搭載車に限ってはパンタグラフ2基搭載とするケースが少なくない。また、各車のパンタグラフ搭載数が各1基であっても、各車間の集電装置と制御器の間の母線を連結し1つの給電系統にまとめることで、同様の効果を得ることができる。ただし、この母線引き通しは編成両端の集電装置間の距離がき電区間の境界となるデッドセクションの長さを超えることはできない[注釈 15]
周辺設備

変電所に回生電力を吸収する装置を設置する。

具体的な機器としては、古くは変電に用いられる回転変流機に交流・直流間の電力相互変換が可能な性質があるため、これが用いられていた[注釈 16]。しかし、静止形の変換器のうち、現在主流のシリコン整流器(シリコンダイオード)は電流を一方向にのみ流すというダイオードの性質を利用した整流方法からも明らかなように、この性質は備わっていない[注釈 17]。このため、発生する電力を抵抗器で熱エネルギーのかたちで放出させるか、インバータなどを使用して給電側に電力を帰す回生電力吸収装置を別途設置している(南海高野線や近鉄大阪線など)。また、かつての京阪京津線のように高頻度運転を実施する他線区(京阪本線)のき電系統へ供給し、そちらを走行する列車に消費させることで発生電力を吸収するケースも存在した。このほか、京浜急行電鉄のように、回生電力の有効活用を目的にフライホイール式電力貯蔵装置を設置したり、近年では、キャパシタや蓄電池[1]を利用したりする事例も存在する。

つくばエクスプレスではこのシステムを更に進め、PWM変換器を用いた高度な電力変換設備を利用して自社設備だけでなく商用電力系統への系統連系を行い逆潮流が可能となるシステムを運用している。[2]このシステムでは電力変換設備の容量が許す限り、回生電力の消費先は商用送電網(TXの場合は5,000万kWにも及ぶ東京電力管内そのもの)という莫大な許容量になる。

直流1,500Vき電システムの場合、上限電圧は1,850Vに定められているので、変電所ごとに電圧監視をして設定した電圧(1,700V前後)に達するとインバータ(直流→交流50/60Hz一定、電圧も一定)→変圧器→自社送電線信号機の電力として使う。抵抗器は設定値をオーバーした場合に抵抗を並列に入れて消費するために用いられる。この抵抗式は小規模な路面電車や通過する列車本数の少ない区間などで使われる。

なお自動車におけるハイブリッドカー・EVにおいても回生失効は存在しており、バッテリーが満充電状態となると回生ブレーキは失効する。特にバッテリー容量の小さいマイルドハイブリッドにおいては頻繁に起きる現象である。マイルドハイブリッドの草分であるホンダ・インサイトの発売当時はブレーキアシストの技術が未発達だったこともあり体感できるほどブレーキ力が落ちる事があったが、現在はブレーキアシスト技術の応用で回生失効時には油圧ブレーキを自動的に増圧するようになっており、ドライバーが回生失効を意識する必要はほぼなくなっている[注釈 18]
打ち切り

回生ブレーキには主電動機の逆起電力が有効な電圧を得られなくなり、制動を終了する「打ち切り」がある。これも「回生失効」の一部とされる場合があるが、「打ち切り」は単純に抵抗器で電力を消費させる発電ブレーキにも存在する。

通常、複巻電動機の方がこの「打ち切り」速度が高い。そのため、一般に直巻電動機を使用する電機子チョッパ制御に比べて、複巻電動機を使用する界磁チョッパ制御の方が、理論上は回生効率が低い。

しかし、複巻電動機の場合、界磁調整器によって逆起電力を積極的に上げていくことができるため、架線電圧が比較的高い状況でも有効電圧を架線に返していることが多い。それに対し、電機子チョッパ制御では、主電動機の状態によっては単に逆電圧をぶつけているだけの状態になってしまうことがあり、制動力は確保できても電力を架線に返していないことが多く、実際の運用では界磁チョッパ制御の方が回生効率が高いと言われている。また、これを直巻電動機に応用した磁気増幅器による直巻主電動機の界磁率調整制御(直巻他励界磁制御)や界磁添加励磁制御も多用されてきた。

「打ち切り」が発生すると、それまで効いていた電気ブレーキが切れ、他のブレーキに切り替わる(またはその分他のブレーキを強める)ため、その瞬間衝動が発生する。

インバータ制御技術が発達した近年では主電動機として三相誘導電動機が主に用いられるようになり、回生ブレーキ打ち切り後にモーターに入力する三相交流電流とモーターの回転子相互の位相回転量を調整して車両を停める純電気ブレーキに切り替え、機械ブレーキの動作頻度を極力抑えたり、滑らかに減速、停止できるようにした車両が増えている。また、原理的には近年採用の始まった永久磁石同期電動機(PMSM)においても純電気ブレーキを実現する事が可能である。
回生ブレーキと制御回路

回生ブレーキを利用するには、架線や蓄電池などの電源より高い電圧を発生させる必要があるため、単に電動機を電源に接続しただけでは安定した制動力を得ることはできない。そのため、鉄道車両では安定した制動力と大きな回生電力を得るために様々な改良が加えられてきた。ただし、直流電動機で発生する回生電力は直流であり、交流電源に回生するには回生用インバーターが必要なため、従来の交流形車両交直流車両で採用される例は少なかった。
抵抗制御
抵抗制御は「余分な電力として捨てる」という制御方式で、電気ブレーキが必要な車両では回生ブレーキでは無く、発生電力を抵抗器で消費する発電ブレーキとして、やはり「熱として捨てる」場合が多かった。直並列制御として主電動機を回生時に直列接続すれば架線電圧より高い電圧を確保できるが、これだけでは制動能力が不安定である。界磁調整器を搭載することで、理論上打ち切り速度は高いが安定した回生ブレーキを搭載することは可能である。界磁調整器としては主に磁気増幅器が使用されるが、これは同時に界磁接触器の代わりに界磁率を調整可能(直巻他励界磁制御)なため、制御器の接点数削減にも有効である。


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