普通名称は、前節に列挙したもののような、大昔から一般的名称として用いられてきたものに限られない。当初は、特定の業務を営む者による商品または役務を指称する商標としての機能を発揮していたが、その後普通名称となることがある。この現象が商標の普通名称化である。
普通名称化した商標の例詳細は「普通名称化した商標一覧」を参照
普通名称化した商標の例としては、以下のようなものがある。
日本語
エスカレーター
正露丸
メカトロニクス
魔法瓶 - (サーモスのブランド名)
ういろう[3]
プリクラ - アトラスが開発と発売を、セガ・エンタープライゼスが製造と販売を受託するプリントシール機である「プリント倶楽部」の略語を由来とする。「プリクラ」も含めてアトラスによって出願されており、株式会社セガが商標権を保有している。
英語
Escalator(「エスカレーター」)
Videotape(「ビデオテープ」、アンペックスのブランド名)[4]
heroin(「ヘロイン」、バイエルのブランド名)[5]
Floor tom(ドラム
階段式昇降機を表す「エスカレーター」は、当初は米国オーチス・エレベータ・カンパニーが製造販売する当該種類の商品を表示する商標として需要者に認識されていた。しかし、現在は階段式昇降機を表す一般的名称として認識され、他社が製造販売する階段式昇降機にも「エスカレーター」の名称が使用されている。階段式昇降機に「エスカレーター」の名称を付して販売しても、それがオーチス社の商品であると意識されることはない。
日局クレオソートを主成分とした整腸剤を表す「正露丸」は、1954年(昭和29年)10月にいったんは商標登録された。しかし、その後無効審判の請求を受けて、当該商標が既に普通名称化したことを理由として商標登録を無効とする審決が出された。商標権者はそれを不服として審決取消訴訟を提起するが、最高裁判所において審決が維持された(最高裁判所判決昭和49年(1974年)3月5日)。「正露丸」なる名称は、既にクレオソートを主成分とした整腸剤を表す普通名称となっていたことが認定された。
機械工学と電子工学が融合した学問・技術分野を示す「メカトロニクス」は、1969年に安川電機の技術者・森徹郎によって発表された概念で、1972年に同社の登録商標として登録された。現在ではこのような学問分野を示す一般的名称となっている。
保温性の高い容器のことを指す「魔法瓶」は、元々1911年に国産品第1号を開発した日本電球の商標だったが、同社が登録商標としなかったため、現在は一般名称となっている。JISの一覧にも、「規格番号『JIS S 2053』・名称『ステンレス鋼製まほうびん』」という区分がある。
ちなみに一部の国で多いものとして、日本におけるセスナ(軽飛行機の代名詞)や東南アジアにおけるHonda(バイク)の例もある。