和紙
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また、最古の写経である西本願寺蔵の『諸仏要集教』は、立派な写経料紙に書かれており、西晋元康6年3月18日296年5月7日)の銘記がある。
紙の国産化 -奈良時代-
図書寮の設置

製紙技術の伝来から100年程経過してから、本格的な紙の国産化が始まった。『正倉院文書』によれば、天平9年(737年)には、美作出雲播磨、美濃、越前などで紙漉が始まった。

大宝律令』によって国史(『古事記』『日本書紀』)や各地の『風土記』の編纂のために図書寮が設置され、紙の製造と紙の調達も管掌した。

図書寮では34人の定員の内、写書手は20人、紙漉きを行う造紙手は4人いた。更に図書寮の下に、山城国に「紙屋院」と「紙戸」と呼ばれる50戸の紙漉き専業者を置き、年間の造紙量を2万張と規定し、租税を免除して官用の紙を漉かせた。この他にも各地で紙を漉かせ、これを「調」として徴収した。

天平11年(739年)には、写経司が設置され、写経事業のために紙の需要が拡大した。『図書寮解』の宝亀5年(774年)の項によると、紙の産地として、美作、播磨、出雲、筑紫伊賀上総武蔵、美濃、信濃上野下野越前越中越後佐渡丹後長門紀伊近江が挙げられている。

しかし、この時代には、紙はまだまだ数が少ない高級品で、日常的に使用されることはなく、一般的な用途には安価で丈夫な木簡が使用されていた。また、一度使われた紙の中にはその裏面を再利用して別の筆記に用いる例も存在した(紙背文書)。
原材料別による紙の種類
麻紙
麻紙は、最も古くから漉かれた紙である。原料は大麻(Hemp)や苧麻(Ramie)の繊維で、麻布のボロや古漁網などからパルプを作った。麻は繊維が強靱で、多くは麻布を細かく刻み、煮熟するか織布を臼で擦り潰してから漉いた。漉き上がった麻紙を平滑にするため、槌で打ったり(紙砧)、石塊、巻貝、動物のなどで磨いたりしていた。また、石膏石灰、陶土などの鉱物性白色粉末を塗布することでのにじみ(遊水現象)を防ぐ技術も用いられた。また、澱粉の粉を塗布するなどの加工も行われた。しかし次第に取り扱いが容易で、増産に適した穀紙と呼ばれるを原料とした紙が普及した。
穀紙
穀とは(楮)の木のことで、若い枝の樹皮繊維を原料とした。麻紙と同様に煮熟して漉いた。表面の肌理がやや荒いが、繊維が長いため丈夫な紙となり、写経用紙や官庁の記録用紙、更には建築材料として、染色されずにそのまま使用された。
斐紙雁皮紙
雁皮を原料とした紙で、肌理の細かいツヤがある。「雁皮」は繊維が短くて光沢があり、その風格から後の時代に「鳥の子紙」とも呼ばれる。
檀紙陸奥紙
檀紙は、厚手で美しい白色が特徴である。原料の(真弓)は、主に弓を作る材料であったニシキギ科の落葉亜喬木で、その若いの樹皮繊維を原料として使う。「みちのくのまゆみ紙」とも言われ、厚手で美しい白色が特徴である。
用途別による紙の種類

正倉院文書』には、彩色紙として植物で染色した五色紙・彩色紙・浅黄紙など10数種類が、加工紙として金銀をあしらった金薄紫紙・金薄敷緑紙・銀薄敷紅紙など10数種類が、加工法の違いとして打紙・継紙(端継紙)が、形と性質の違いとして長紙・短紙・半紙・上紙・中紙が、用途の違いとして料紙・写紙・表紙・障子料紙(間仕切り用)の名が見え、日本での製造を確立出来たことが窺える。
奈良時代の紙文化

この時代の紙を利用した文化としては、国家が仏教を信仰していたこともあり、主として仏教文化への関わりが深く、紙や布、を原料とした紙胎仏や数多くの経典が作成されている。中でも宝亀元年(770年)に作成された百万塔陀羅尼は、現存する世界最古の印刷物である。
紙屋院と流し漉きの確立 -平安前期-
「紙漉き」呼称の定着

奈良時代には、製紙のことを「造紙」と称していたが、平安時代になると、『延喜式』で簀を「紙を漉く料」と注記しているように、「紙を漉く」と表現するようになり、『源氏物語』には、の紙よりも上質な紙が漉かれていたことが記されている。
紙屋院の設立

平安京遷都直後の大同年間(805年 - 809年)、山城国にあった紙戸が廃止され、代わりに官立の製紙工場として紙屋院(かんやいん、しおくいん)が設置され、日本独特の製紙法である「流し漉き」の技術が確立された。
流し漉きとは

流し漉きとは、紙漉きの際に、紙料(抄けるように処理された紙の原料)を濾水性のを動かして、紙料を簀に汲み込んだり紙料を簀から捨て戻したりして、簀や網の上に紙層を作る漉き方。日本、中国など東アジアで発達した漉き方で、日本の流し漉きと中国の流し漉きの方法は異なる。
中国(安徽省)の流し漉き
まず中国(安徽省)の流し漉きは、紙料を汲み込む動作と紙料を捨て戻す動作を漉き簀を振り子のように揺らす一連の動作で行い、所定の紙厚が得られるまで漉き簀を往復させて抄紙する。中国(安徽省)の流し漉きは比較的薄い抄紙用粘剤でも漉くことが可能である。
日本の流し漉き
次に日本の流し漉きについて述べると、中国(安徽省)の流し漉きに類似する部分と日本独特な漉き方の部分で構成されているのが特徴である。紙の表面と裏面の紙層を作る時には、中国(安徽省)の流し漉きと同様に、紙料を汲み込む動作と紙料を捨て戻す動作を一連の動作で行い「化粧水」(紙表面)と「捨て水」(紙裏面)の薄い紙層を作るが、表と裏の中間の紙層(紙の厚みの部分)を作る技術は日本独特で、汲み込んだ紙料をしっかりと粘剤を利かせて繊維同士を絡ませるために、紙を均一にするように簀を十分に振って紙層を作ってから不用な紙料を捨て、また次の紙料を汲み込んで必要な紙厚が得られるまで繰り返す。


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