古典派(18世紀後半から19世紀初頭)の時代になると、カデンツの法則に則った和音の連結が至上のものとされるようになった。 前期ロマン派(19世紀中盤)、つまりフレデリック・ショパン、フランツ・リスト、ロベルト・シューマン等が活躍した時代には、遠隔調への頻繁な内部転調が好んで用いられるようになった。減七の和音や、ポピュラー音楽でいうところのテンション・ノートが多く用いられるようになった。 後期ロマン派(19世紀末期)、つまりトリスタン和音を媒介したリヒャルト・ワーグナーやその後継者であるアントン・ブルックナー、グスタフ・マーラー、リヒャルト・シュトラウス等が活躍した時代には、内部転調が頻繁となって調性感が希薄となり、音の跳躍進行が頻繁になり、リズム感が薄れ、ついには調性を感じられなくなった。16世紀ヨーロッパに端を発した調性はこうして崩壊に向かった。 印象派(19世紀末期?20世紀初頭)になると、クロード・ドビュッシーが旋法(モード)の手法を導入した。教会旋法をより発展した形で用いたり、全音音階といったある法則性に基づく音階を創作し、旋律や和音をその音階を用いて構成するという手法を用いた。俗に色彩和声
近代の和声
近代音楽の和声に古典派で厳密に制御された規則は存在しないが、独自に教程に組み込んだ理論家は存在する[6]。 現代(ここでは20世紀初頭?現在21世紀)においては、20世紀初頭に調性が崩壊し、新ウィーン楽派による無調の音楽が出現した。これに対しバルトークは「中心軸システム」、ヒンデミットは独自の理論による「拡大された調性」を使い、中心音の調的支配力の中で12音の半音階を駆使した。オリヴィエ・メシアンは旋法と色彩を対応させた独自の和声法を展開した。そのほか手法の面において様々な試みがなされていて、例えば、複調、多調、多旋法
現代の和声
それぞれの手法・楽曲にはその場その場の和声法が存在しており、その理論を統一して語ることは極めて困難である。またこれらを総合して音響作曲法とも言われる。その直接の始まりは調性崩壊からと言われ、また電子音楽の影響を多分に受けている。現代の音楽の和声は一人一派であることを証明した教本はある[注釈 6]。 世界のほとんどの和声の教科書[注釈 7]では、「ローマ数字による和声分析」と「パリ音楽院方式和声教程」と「機能和声理論」の三つを折衷させて和声を説明することがよく行われている。 音階の主音を根音とする三和音(主和音、和音記号で I)の機能をトニカ(またはトニック)、 主音の5度上の属音を根音とする三和音(属和音、V)の機能をドミナント、主音の5度下(4度上)の下属音を根音とする三和音(下属和音、IV) の機能をサブドミナントという[7]。 (英: tonic
和音の機能と進行
和音の機能譜例:和音記号(和音の下) 和音の上はコードネーム(参考[注釈 8])である。
トニカ(トニック)
和声の中心となる機能である。この和音が鳴らされるとき、「落ち着き」「解放」「解決」「弛緩」といった印象を与える。楽曲の最後はトニカで終わる。 I のほか、 VI も I の代理の時、トニカの機能を持つ(ドミナントから VI に終止する終止形は偽終止という)。 III もトニカの機能を持つことがある。代理和音とは、ある和音の代わりに使われる和音で、似た響きを持ち、ほぼ同じ機能を持つ和音のことである。代理和音は、元の和音の3度上、または3度下の和音がよく使われる。なぜなら、3度関係にある和音は三和音の構成音3音の内2音が同じだからである(3度関係にある2和音の、下の和音の第3音は上の和音の根音に、第5音は第3音に一致するのである)[8]。譜例:各機能の和音と代理和音
ドミナント
(英: dominant, 伊: dominante f, 独: Dominante f, 仏: dominante f)
トニックの5度上の和音であり、トニックとは対照的に、「緊張」した印象を与える。トニックに移行しようとする力が強い(トニックに移行するように緊張が解ける方向で移行することを解決と呼ぶ)。 V に第7音を加えて V7の和音で現れることが多く、 V9の和音もよく用いられる。また、 III や VII も V の代理の時、ドミナントの機能を持つ。
サブドミナント
(英: subdominant, 伊: sottodominante f, 独: Subdominante f, 仏: sous-dominante f)
トニックの5度下、すなわち4度上の和音である。ドミナントほど強くないが、トニックに比べれば「緊張」した印象を与える。「発展」「外向的」な印象が強い。ドミナントに移行するか、トニックに解決する。 II や II7は、 IV とともに非常によく使われるサブドミナントである(ただし、 II はトニカには移行しない)。また、 VI が IV の代理和音としてサブドミナントの機能を持つことがある。トニックの5度下であるので、ドミナントとは逆方向の和音であると考えられる。いいかえると、サブドミナントのドミナントはトニックであるという考えが成り立つ。また、教会音楽などではいったんトニカに解決した後、再び IV に移行し I に戻るという技法が良く使われる(変終止、アーメン終止などと呼ばれる)。また、ドミナントに行かず、トニックに行くような和音をサブドミナントと分け、プラガルと呼ぶ場合もある。各機能の関係
ドッペルドミナント
(独: Doppel + 英: dominant(日本ではこの読み方がある); 英: double dominant, 伊: doppiodominante f, 独: Doppeldominante f, 仏: double-dominante f)
ドッペル(独: Doppel)とはドイツ語で“二重”を意味し(英: doubleと同語源)、ドミナントのドミナントである。 V の V であって、音階の ii 度音を根音とする長三和音、または属七、属九の和音であり、 II の第三音(ハ長調ならファの音)を半音あげたものである[9]。このことから、ドミナントに移行する II の和音をドミナントへのドミナントと考えることもできる。同様に、ドミナントに移行する IV を II の代理和音とする理論書もある。一般にはドッペルドミナントの機能とサブドミナントとは同一視される。このように、サブドミナントのドミナントはトニックであり、ドミナントのドミナントがサブドミナントであるので、トニック、ドミナント、サブドミナントは正三角形を成すことになる。 (英: cadence
カデンツ
機能和声においては、Tに戻ることで一段落となる。言い換えると、和音の移り変わりは、Tから他の機能に移行して、またTに戻るまでがひとまとまりである。このひとまとまりをカデンツという。
機能和声においてDは、Tへ移行する力が強いので、Sには移行しないのが原則である。