呼吸停止
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早期発見、介入、治療のためには、適切な患者モニタリングと治療戦略が必要である[5]
原因

気道閉塞: 閉塞は上気道でも下気道でも起こりえる。

上気道:生後3ヶ月未満の乳児は鼻呼吸のため、上気道の閉塞がよくみられる。鼻が詰まると、乳幼児では上気道閉塞になりやすい。その他の年齢では、咽頭喉頭気管異物浮腫により上気道閉塞が起こることがある。意識が低下したり完全に喪失した場合、舌の筋緊張が失われ、上気道を閉塞することがある[2]。その他の閉塞の原因としては、上気道(口腔、咽頭、喉頭)の腫瘍、体液(血液、粘液、嘔吐物)、上気道の外傷などが考えられる[2]。上気道の腫瘍で最も多いのは扁平上皮癌で、その最大の危険因子はアルコールとタバコの使用であり、ヒトパピローマウイルス(遺伝子型16)も重要な危険因子である[6]。米国で救急外来を受診した頭頸部外傷の500万例以上を対象とした疫学調査によると、大半は転倒や鈍的外力によるもので、小児では異物損傷が多い[7]

下気道:下気道閉塞は気管支痙攣溺水、肺胞充満障害(肺炎肺水腫、肺出血(英語版)など)から生じることがある[8]。重症の喘息慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、下気道の閉塞状態も呼吸停止を生じることがある。増悪"exacerbations"と呼ばれるこれらのエピソードでは、肺の炎症性変化により気道抵抗が増加する。その結果、呼吸仕事量が増え、組織への酸素供給が減少する。喘息では細気管支が収縮し、COPDでは呼気時に小気道が虚脱し、呼気を吐ききれなくなる(air trapping)[9]。このような呼吸需要の増加を補おうとする身体の働きのひとつに呼吸数の増加があるが、これは横隔膜の呼吸筋疲労を悪化させ、時宜を得た医療介入がなければ最終的に呼吸停止に至り死亡する可能性がある[9]


呼吸努力の低下:中枢神経系の障害は、呼吸努力の低下を招来する。脳の呼吸中枢は延髄にあり、主に血中の二酸化炭素濃度の上昇(高炭酸ガス血症(英語版))により強く刺激され、酸素濃度の低下(低酸素血症)により、弱い刺激を受ける[10]。つまり、「息苦しい」感覚は主として低酸素血症よりもむしろ高炭酸ガス血症による。脳卒中脳腫瘍などの中枢神経系疾患は、低換気を引き起こす可能性がある。また、オピオイド、鎮静剤、アルコールなどの薬物も呼吸努力を低下させることがある。これらの薬物は、脳の呼吸中枢の高炭酸ガス血症に対する反応を鈍らせることにより、呼吸衝動を低下させる[11]代謝障害も呼吸努力を低下させる可能性がある。低血糖低血圧は中枢神経系を抑制し、呼吸器系を損なう[12]

呼吸筋力低下:脊髄損傷、神経筋疾患(英語版)、神経筋遮断薬などによる神経筋障害は、呼吸筋力低下を引き起こす可能性がある。また、最大随意換気量の70%以上の呼吸が続くと、呼吸筋の疲労が呼吸筋力低下につながることがある。努力の限界に近い呼吸を長時間続けると、代謝性アシドーシスや低酸素血症を引き起こし、最終的に呼吸筋の衰弱につながることがある[13]

診断

診断には、以下のような臨床的評価が必要である。胸骨擦過(sternal rub)。胸骨を握りこぶしでグリグリして痛み刺激を与え、意識の有無を確認している
初期評価

現場が安全であると判断した後、患者に近づき、会話を試みる。患者が言葉で応答すれば、少なくとも気道は不完全ながらも確保されており、患者は呼吸している(したがって、現在呼吸停止状態ではない)ことが確認される。患者が無反応の場合は、呼吸が機能していることを示す胸郭の上下動を確認する。胸骨擦過(写真参照)は、反応性をさらに評価するために行われることもある。初期評価では、頚動脈(英語版)、橈骨動脈大腿動脈に2本の指を当てて脈を確認し、心肺停止ではなく、純粋に呼吸停止であることを確認することもある。しかし、反応しない患者に出会ってから脈を確認することは、医学的な訓練を受けた者以外には、もはや推奨されない[14]。患者が呼吸停止状態であることを確認したら、以下の手順で呼吸停止の原因をさらに特定することができる。下顎挙上(Jaw thrust)
上気道を清掃し、開存させる(気道確保)マギル鉗子

呼吸停止の原因を特定するための最初のステップは、正しい頭頸部の位置で上気道を確保し、開放することである。救助者は、外耳道が胸骨と同じ平面にくるまで患者の頸部を伸ばし、高くする必要がある。顔は天井方向に向けている方が良い。下顎を持ち上げ、下顎骨を上方に押し上げることで、下顎を上方で保持する必要がある。これらのステップは、それぞれ頭部後屈、顎先挙上ないしは下顎挙上と呼ばれる[15]。頸部や脊椎の損傷が疑われる場合は、神経系にさらなる損傷が生じる可能性があるため、この操作を行ってはならない[15]。頸椎は、可能であれば、医療従事者によって頭部と頸部を用手的に、または頚椎カラーの装着によって安定化させる必要がある[16]。頚椎カラーを使用すると、気道確保が難しくなり、頭蓋内圧が上昇する可能性があるため、用手的な頚椎安定化のほうが望ましい[17]異物が検出された場合、施術者は口腔咽頭を指で掃引し、吸引することで異物を取り除くことができる。異物は、患者の体のさらに奥に留まらせないことが重要である。患者の体内により深く留まった異物は、マギル鉗子または吸引で取り除くことができる。また、ハイムリック法も異物を取り除くのに有効な場合がある。ハイムリック法は、気道が開通するまで上腹部を手で突き上げるものである。意識のある成人の場合、施術者は患者の背後に立ち、腕を患者の腹部に回す。片方の拳を握り、もう片方の手でその拳をつかむ。両手を合わせ、両腕で引き上げるようにして、内側から上に突き上げる[18]
治療

治療は、呼吸停止の原因によって異なる。多くの場合、代替気道の確保と人工呼吸が必要であり、人工呼吸器のモードも治療の内容に含まれる。気道の確保と呼吸補助には多くの方法がある。以下の一覧には、いくつかの選択肢が含まれている。
オピオイド過剰摂取

オピオイドの過剰摂取は、2016年から2017年にかけて米国で死亡率が12%増加し、依然として主要な死因となっている[19]。呼吸停止に至る過剰摂取の場合、2015年の米国心臓協会(AHA)のガイドラインによると、推奨される治療は、0.04?0.4 mgの初期用量で筋肉内または鼻腔内ナロキソンを投与することである。初回投与が効果的でない場合は、2 mgまで投与を繰り返すことができる。オピオイド依存症患者では、ナロキソンの投与が重度のオピオイド離脱を引き起こす可能性があるため、特別な配慮が必要であり、そのため、上記の開始用量が推奨されている[20]。ナロキソン治療の目標は、患者の自発呼吸を回復させることであるが、初期蘇生時には機械換気が必要な場合がある。バッグバルブマスク (AmbuTM)
バッグバルブマスク換気

バッグバルブマスク換気中の抵抗(換気圧上昇)は、気道を閉塞している異物の存在を示唆している可能性があり、呼吸停止の診断ツールや治療法として一般的に認識されている。バッグバルブマスクは、自己膨張式のバッグと、顔面に装着するソフトマスクを備えた装置である。バッグを酸素供給装置に接続すると、患者には60?100%の吸入酸素を投与できる。バッグバルブマスクの目的は、一時的に十分な換気を行い、自力の気道制御能力回復を待つことである。しかし、バッグバルブマスクを5分以上装着したままにしておくと、胃の中に空気が入ってしまうことがある。その時は、経鼻胃管を挿入して溜まった空気を抜く必要がある。その際、バッグバルブマスクの位置や操作に注意し、気道を確保することが必要である。バッグバルブマスクを使用して換気する際に十分な密閉性を確保するために、通常、「ECクランプ法」が用いられる。医療従事者は、親指と人差し指をマスクの上に「C」の形に置き、残りの3本の指でマスクの下の顎を掴んで「E」の形にする(本稿冒頭の写真参照)。親指と人差し指でマスクを下方向に押さえ、残りの指は頭を後傾させ、下顎を上方に引き上げる力を維持する。Cの指は下方向、Eの指は上方向に力をかけることになる。空いている方の手で、バッグを使った換気を行うことができる[21]。小児の場合、小児用バッグを使用する。小児用バッグには、最大気道内圧を35?40 cmH2O程度に制限するバルブがある。低換気過換気を避けるため、医師は患者一人ひとりを正確に判断してバルブの設定や換気の圧力を微調整する必要がある[22]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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