バッグバルブマスク換気では、舌などの軟組織が気道をふさぐのを防ぐため、口咽頭エアウェイまたは経鼻エアウェイが使用される。口咽頭エアウェイを使用すると、えづきや嘔吐の原因となることがある。したがって、口咽頭エアウェイは適切な大きさのものを選択する必要がある。不適切なサイズのエアウェイを使用すると、気道閉塞を悪化させることがある。患者の口角から顎または耳たぶの角までを測定した距離がエアウェイの大きさと一致する[21]。ラリンジアルマスク ラリンジアルマスクは、膨張式カフを備えたチューブである。ラリンジアルマスクエアウェイを口咽頭下部に装着することで、軟部組織による気道閉塞を防ぎ、換気のための安全な流路を確保することができる。気管挿管が不可能な場合、ラリンジアルマスクエアウェイは標準的な緊急代替換気手段となる。ラリンジアルマスクを患者に挿入するには、脱気したマスクを硬口蓋に押し当て、舌の付け根を越えて回転させ、咽頭部に到達させる必要がある。マスクが正しい位置に留置されたら、マスクを膨らませてよい。ラリンジアルマスクの利点には、胃への送気を最小限に抑え、逆流を防ぐことがある。ラリンジアルマスクエアウェイの潜在的な問題点として、膨らませすぎるとマスクが硬くなり、患者の解剖学的構造に適合しなくなるため、舌を圧迫して舌浮腫を引き起こすことが挙げられる。その場合は、マスク圧を下げるか、より大きなサイズのマスクを使用する必要がある。昏睡状態でない患者に、ラリンジアルマスク挿入前に筋弛緩剤を投与すると、薬剤が切れたときに嚥下や誤嚥を起こすことがある。このような場合、ラリンジアルマスクを直ちに抜去して咽頭反応をなくし、新しい代替の挿管法を開始する時間を稼ぐ必要がある[要出典]。気管挿管 気管チューブは、口または鼻から気管に挿入される。気管チューブには、空気の漏れや誤嚥のリスクを最小限に抑えるため、高容量・低圧のバルーンカフが入っている。カフ付きチューブはもともと大人と8歳以上の小児用に作られたものであるが、空気の漏れを防ぐために、乳幼児にもカフ付きチューブが使われるようになった。カフ付きチューブは、空気の漏れを防ぐために必要な程度に膨らませることができる。気管チューブは、昏睡状態の患者に対して、気道確保、誤嚥の抑制、機械換気の導入のための確実な機構である。気管内チューブは、昏睡状態の患者、気道が閉塞している患者、機械的換気が必要な患者に最適な方法である。気管チューブは、内腔から下気道を吸引することも可能である。心停止時に気管チューブから薬剤を投与することは現代では推奨されない。気管挿管の前は、患者の体位は正しくとり、100%酸素で換気する必要がある。100%酸素による換気の目的は、患者を脱窒素し、気管挿管時に生じる無呼吸時間を十分安全な程度に延長することである。内径8 mm以上のチューブは、ほとんどの成人に使用可能である。挿入方法としては、喉頭蓋、喉頭後部の構造を確認し、気管への挿入が確実でない場合はチューブを進めない[24]。 外科的気道確保(英語版
ラリンジアルマスク
気管挿管
外科的気道確保
挿管時に用いる薬剤詳細は「迅速導入」を参照
呼吸停止の患者は、薬物を使用しなくても挿管は可能である。しかし、患者に鎮静剤や筋弛緩剤を投与することで、不快感を最小限に抑え、挿管も容易になる。前処置として、100%酸素、リドカイン、アトロピンを投与する。100%酸素は3?5分間投与する。酸素投与の時間は脈拍、肺機能、赤血球数、その他の代謝因子によって異なる。リドカインは、鎮静・筋弛緩の数分前に1.5 mg/kgを静脈内投与してもよい。リドカイン投与の目的は、喉頭鏡操作による心拍数、血圧、頭蓋内圧の上昇という交感神経反応を緩和することである[注釈 2]。アトロピンは、小児の挿管時に生じる迷走神経反射、すなわち徐脈に対して投与して良い。脱分極性筋弛緩剤を投与すると、筋攣縮が起こり、覚醒時の筋肉痛をもたらす可能性がある。
喉頭展開や挿管は不快な処置なので、エトミデートを投与することがある(日本では未販売)。エトミデートは鎮静鎮痛作用のある短時間作用型の静脈注射薬である。この薬剤はよく効き、心血管系の抑制を引き起こしにくい。ケタミンも同様に使用できる麻酔薬だが、覚醒時に幻覚や異常行動を起こすことがある。チオペンタール[27]やプロポフォールも鎮静作用があるので使用することがあるが、低血圧を引き起こしやすい。
容量サイクル式換気詳細は「機械換気 (医学)」および「機械換気のモード」を参照
人工呼吸器による機械換気の目的は、呼吸ごとに一定の換気量、一定の圧力、またはその両方を組み合わせて呼吸ガス(英語版)を供給することである。圧力-容積曲線上では、任意の容積が特定の圧力に対応し、その逆もまた然りである。各機械式人工呼吸器における設定には、呼吸数、一回換気量、トリガー感度、流量、波形、吸気/呼気比が含まれる場合がある。容量サイクル式換気は、換気量を制御、すなわち設定された一回換気量を送気する。気道内圧は固定された数値ではなく、呼吸器系の抵抗や肺コンプライアンスによって変化する。容量サイクル式人工呼吸は、他の機械換気方法と比較して、患者の気道に換気を提供する上で最も単純な方法である。設定された感度閾値を超える各吸気努力に対して、固定量の一回換気量が供給される。患者の呼吸が十分でない場合、容量サイクル式人工呼吸は、設定された最小呼吸数まで呼吸数を上げるために、強制換気を継続する。同期式間欠強制換気(SIMV)も同様の機械換気法で、患者の呼吸に対応した一定の速度と量で呼吸を行う。従量式換気とは異なり、SIMVでは、設定換気回数以上の患者の吸気努力は補助されない[28]。
圧サイクル式換気詳細は「機械換気 (医学)」および「機械換気のモード」を参照
この換気方式には、従圧式換気とプレッシャーサポート換気がある。どちらも吸気圧を設定する方法である。一回換気量(英語版)は、呼吸器系の抵抗やエラスタンスに応じて変化する。従圧式換気は、肺の膨張圧を制限することにより、急性呼吸窮迫症候群の患者の呼吸管理に向いている。従圧式換気は、具体的にはアシスト・コントロール(A/C)式換気の圧サイクル型である。アシストコントロール換気方式は、患者が自発呼吸を開始するか否かにかかわらず、最小呼吸数を維持する人工呼吸器のモードの一種である。感度閾値を超える各吸気努力に対しては、一定の吸気時間の間、完全な加圧補助を受ける。最小呼吸数は維持される。プレッシャーサポート換気では、最小呼吸数は設定されない。代わりに、すべての呼吸は患者によってトリガーされる。プレッシャーサポート換気の仕組みは、患者の吸気流量が閾値を下回るまで、一定の圧力で患者を換気補助するものである。患者の吸気流量が長く、深くなると、一回換気量が大きくなる。この機械的換気の方法は、患者がより多くの呼吸仕事がなされるのを補助することになる[29]。密着式のマスクとNIPPV専用小型人工呼吸器
非侵襲的陽圧換気 (NIPPV)「睡眠時無呼吸症候群#持続陽圧呼吸療法」も参照
非侵襲的陽圧換気 (Noninvasive positive pressure ventilation: NIPPV)とは、鼻と口を覆うぴったりとしたマスクを通して陽圧換気を行うことである。自発呼吸が可能な患者の呼吸を補助する。非侵襲的陽圧換気では、呼気終末圧と従量式換気を設定することができる。非侵襲的陽圧換気には、持続気道陽圧(英語版)(CPAP)と二相性気道陽圧(BPAP)の2つのモードがある。