吹き替え
[Wikipedia|▼Menu]
二ヶ国語以上の言語が飛び交うシーンの場合は、(アメリカ映画 / 英語作品の場合)英語の台詞部分を日本語に吹き替え、それ以外の言語(中国語アラビア語ロシア語など)は吹き替えず原音+字幕スーパーのまま[注釈 1]や、あえて英語以外の言語の台詞をそのまま吹替声優が行なうこともある。この時、一部台詞を変えることもある(訳「英語はわかるか?」→吹き替え「俺たちの言うことがわかるか?」)。日本語台詞の場合、日本人俳優の場合は後述の通りだが、日系人を含むアジア系俳優が日本語を話すシーンのみの場合でも原音のままだったり、特に英語訛りが強すぎる場合などは吹き替えられることもある。

ミュージカル映画など、歌うシーンは原音にする場合やオリジナル歌詞または日本語に訳した歌詞を吹き替え声優が歌う場合もある。

また一部の報道が規制されている国や地域では、ニュース番組の市民のインタビューでも吹き替えが行われる場合がある。かつて旧社会主義国では常套手段であり、現在でもこの手法が使用されている国もある。また外国人のインタビューでは、翻訳された字幕が本人の発言の趣旨と一致しない場合もある。
声優の配役

日本語吹き替えの配役は、アニメとは異なりオーディションはほとんど行われず、プロデューサーやディレクターなどが声優を指名して決めることがほとんどである。ただし、ディズニー作品、スティーヴン・スピルバーグ作品、ジョージ・ルーカス作品などでは指名ではなく、アニメ同様オーディションが行われる。

草創期の吹き替えの声優は、放送局の放送劇団と並んで、新劇系の劇団から起用することが多く、七曜会、三期会、新人会といった劇団がユニット出演契約を結んでいた。その後も新劇系の劇団員はキャスティングの中心となっており、文学座テアトル・エコー劇団青年座演劇集団 円劇団昴が代表的である。声優プロダクション所属の声優もキャスティングされるが、アニメゲームと比較すると新劇系の劇団員の比率が高い。劇団員が重用されるのは歴史的経緯に加え、実写の演技に精通しているからである。2000年頃、新劇系の俳優は日本俳優連合のランクを登録していない者も多く、制作側としては演技力がありギャラが安い俳優を起用できるメリットがある[5]

文学座の 梅田濠二郎によれば、過去に劇団員の吹き替え進出に声優業を本職している側から「我々は舞台はやらないのに舞台や映像の役者が吹き替えをやるのはひどいじゃないか」と意見が上がったこともあるとされる[5]

日本人俳優・女優が出演した外国映画作品では、吹き替え版の収録においても演じた本人が外国語台詞部分を吹き替える場合もあるが、演じた本人ではなく別の声優が吹き替えているケースもある。これは主に俳優のスケジュールやギャランティーの都合、吹き替え版収録時にはすでに引退または死亡したといった理由からである。その際バランスを考え、日本語の台詞を含めすべて吹き替える場合や、日本語の台詞がほとんどで外国語の台詞がわずかな場合はカットする(地上波テレビ放送)場合もある。

アメリカにおいては、吹き替えの際に元の声と声質が似ている声優をあてるのが通例となっている。俳優一人ごとに吹き替え専用の声優がいるほどである。なお、アメリカでは親子や兄弟の配役にも似たような顔立ちの俳優を選ぶことが多い。

また、未公開シーンの修復例として『スパルタカス』では、ローレンス・オリヴィエにゆかりのあるアンソニー・ホプキンスが台詞の吹き替えを担当している。
収録

翻訳家はビデオと台本を元に、原音の声に合うように、長すぎもせず短すぎもしないように日本語に台詞を翻訳する。音響監督の誤訳や長さのチェックを経て、台本が完成すると、事前に声優にビデオと台本が渡され、声優はあらかじめ役柄を掴んでおく。録音日にはプロデューサー、音響監督、声優がスタジオに集合し、音響監督の指示を受けて、まず最初のリハーサル。このときに問題があれば、台詞を直したり、演技に駄目出しをして、ラステスと呼ばれる次のリハーサルとなる。そして最後に本番である。声優は3つから4つのマイクを何人かで共同で使い、ヘッドフォンで原版の台詞を聞きながら、画面と台本を交互に見て、自分の役が来たら台詞を発する。プロデューサーや音響監督などスタッフは、声優たちのいる防音された録音ブースとは区切られて、金魚鉢と呼ばれる録音機材に囲まれたブースから指示を出す。声優が台詞をとちってNGを出すと、抜き録りをして、声優は出番を終える。その後は、ミキサーや音響効果といったスタッフが、音響監督の指示の下、日本語の台詞と原音の音楽と効果音を合わせるダビングを行なう。マイクで録音したままの台詞は使えないため、電話の声ならそれらしくエフェクトをかけ、近づいて来る人物の声なら映像に合わせて音声のレベルを調整するといった具合である。

今日では、台詞が録音されていない音楽と効果音のみのMEテープに、日本語の声を録音するアフレコで行なわれる。しかし録音機器などアフレコ技術が発達していない1950年代には生放送で吹き替えを行つていた[6]。生放送時代の吹き替えは狭いアナウンスブースに出演声優が全員入り、1本のマイクを取り合いながら台詞を喋っていたが、読み間違いなどのミスも多かったとされる[6]。やがて、16ミリ磁気フィルム録音装置が導入され[6]、日本語音声をテープで収録するアフレコは、1956年4月8日から日本テレビが放送した海外アニメ『テレビ坊やの冒険』から始まったが、この段階では映像と音声をシンクロさせるのが難しく、翻訳家の額田やえ子によれば生放送からアフレコに本格的に移行したのは1958年頃であるという。編集技術が未発達の初期の録音では台詞を失敗すると、再び最初からアフレコし直しとなり、声優の負担は大きかった[7][5]。NHKが音声のシンクロ用に2台の映写機を用いて作品の映像と台詞の音声波形を同時に投映する装置を開発し、台詞のタイミングを合わせやすくし、声優の負担が軽減された[8]。初期の録音スタジオは防音設備も整っておらず、スタジオの外にいた犬の鳴き声が原因でアフレコがやり直しなるほどであった[6]。録音用テープも高価であり、かつてアテレコ口調と言われた独特の平板な喋り方は、演技力よりも何よりも台詞を失敗しないことを最優先にして培われたものである[5]。MEテープが無い場合には効果音と音楽も効果スタッフや選曲家が原音に似た効果音や音楽を用意していた[6]。録音技術が発展したことで演技力に重点を向けることが可能になったとされる[5]

デジタル録音を用いた収録が行われるようになって収録の合理化が進み、制作費を安く抑えることが可能になったことから、予算の少ない専門チャンネルなどでも吹き替え版を制作して放送することが可能になったとされる[7]
日本語版制作会社

日本語版音声の制作は専門の音声制作会社が行なう。当初はテレビ局が行なっていたが、1960年代前半頃より外部のプロダクションに発注するようになった。日本語版制作会社には、太平洋テレビジョントランスグローバル東北新社[9]ブロードメディア・スタジオ(旧:ムービーテレビジョン)、グロービジョン[9]コスモプロモーション[9]ザック・プロモーションニュージャパンフィルム[9]ACクリエイトなどがある。

テレビ用の吹き替えの制作会社はテレビ局に指名権があり、配給権を持つ会社が吹替版制作を行っている業者であっても制作を担当できるとは限らないとされる[9]
吹き替えの種類

作品の公開状況や媒体によって異なる(以下は主に作られるものである)。権利元が制作した一種類に統一するなど一作品に一つとなることもあれば、一つの作品に複数の吹き替えが制作されることもある。
劇場公開版
劇場公開時に制作されるもの。かつては日本語
字幕のみの公開が多かったことから数は少なくアニメ映画[10]や後日公開[11]、再公開が中心だったが、1999年以降は大作[注釈 2]やメジャースタジオ配給の作品を中心に多く作られており、二次利用も想定されているためソフトや配信、テレビ放送時などに流用される場合が多い。基本的には原語に忠実である。本国から翻訳や演技面の監修が行われたり、作品に合わせてサラウンド制作されていることが多いのも特徴である。
ソフト版
メディアソフトに収録のため制作されるもの。レーザーディスクVHS発売のため制作されるようになった。当初は技術的な問題から原語音声との併録が困難だったため字幕(原語音声)のみ発売される作品も多かったが、字幕版と別に「吹替版」として単体発売するなど主にVHSでソフト版は数を増やし、複数の音声が収録可能になったDVD以降は多く作られるようになった。劇場公開版と同じく原語に忠実なものが多い。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:64 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef