著作権侵害の非親告罪化も、同人誌関係者にとっては中長期的な懸念材料の一つである。
著作権侵害(著作権法第119条)の刑事罰は原則としては親告罪とされており、著作権者(漫画家・出版社・アニメ制作会社など)が告訴しない限り刑事責任を問うことができない[注 1](ただし後述の、改正著作権法の非親告罪化規定は2018年(平成30年)12月30日に施行済である)。
なお、現状でも刑事責任とは別に、損害賠償の請求や、発行の中止、または回収・廃棄させるなどの民事責任も問うことができる。この場合も著作権者の訴えの提起を必要とする。
『朝日新聞』2007年(平成19年)5月26日号「著作権が「脅威」になる日 被害者の告訴なしに起訴、共謀罪でも」(丹治吉順)によると、日本は「模倣品・海賊版拡散防止条約」の制定を提案している。しかし、アメリカ合衆国から「海賊版摘発を容易にするため、非親告罪化を盛り込んで欲しい」という要望[注 2]があり、条約提唱国としては国内の著作権法も条約に合わせて改正するのが望ましいとされた。そこで、文化庁文化審議会著作権分科会法制問題小委員会で3月から審議が始まった。
また、同記事によると、文化庁の審議とは別に国会で審議が進んでいる共謀罪法案には、自民党の修正案3案のうち2案で、著作権法を共謀罪の対象としている。自民党案をとりまとめた衆議院議員早川忠孝は、「犯罪組織が海賊版を資金源にすることを防ぐのが目的」と述べている。
編集者の竹熊健太郎は、「非親告罪化によって警察・司法が独自の判断で逮捕することが可能になれば、商業的な出版・放送・上演・演奏のみならず、コミケの二次創作・パロディ同人誌などにも深刻なダメージが加わる可能性がある」と指摘。「俺を含めて多くの作家・マンガ家・同人誌作家・ブロガーは何か書く場合でも無意識のパクリがないかどうかおっかなびっくり書くことになり、ひいては表現の萎縮につながりつまらん作品ばかりになるかもしれないので俺は反対だ」[19]と主張している。
また、クリエイターの小寺信良
は「行使する側が「模倣」と「創作」の違いがわからない場合、クリエイターの活動を萎縮させかねない」とコメントした[20]。赤松健の漫画作品UQ HOLDER!のタイトルロゴの左下に配置された同人マーク。本作が初の採用例非親告罪化への対策の一つとして、2013年(平成25年)に、二次創作同人誌作成や同人誌即売会での無断配布を有償・無償問わず原作者が許可する意思を示すための同人マークという新たなライセンスがコモンスフィアによって公開された[21]。これは環太平洋戦略的経済連携協定 (TPP) 交渉で非親告罪化される可能性が言及され[22]、実際に非親告罪化された場合に第三者による告発などで権利者が黙認したいケースでも訴訟に発展するなどの事態を防ぐことを目的に漫画家の赤松健が発案したライセンスであり[23]、赤松自身の漫画作品で『週刊少年マガジン』2013年39号(同年8月28日発売)より連載開始のUQ HOLDER!で採用されている[24]。「日本の著作権法における非親告罪化」も参照
2016年(平成28年)3月9日に第190回国会に提出されたTPPの締結に伴う関係法律の整備法案では、著作権法の改正が定められ、財産上の利益を受ける目的又は著作権者等(原作者や出版社)の得ることの見込まれる利益を害する目的で、以下のいずれかの行為を行い、著作権侵害の罪を犯した場合には、親告罪の規定を適用しない(=非親告罪)ことに改めることとされた[注 3]。
原作のままの複製物を譲渡し、又は原作のまま公衆送信[注 4]を行うこと(当該有償著作物等の種類及び用途、当該譲渡の部数、当該譲渡又は公衆送信の態様その他の事情に照らして、当該有償著作物等の提供又は提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限る。)。
原作のままの複製物を譲渡し、又は原作のまま公衆送信[注 4]を行うため、当該有償著作物等を複製すること(当該有償著作物等の種類及び用途、当該譲渡の部数、当該譲渡又は公衆送信の態様その他の事情に照らして、当該有償著作物等の提供又は提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限る。)。
2016年(平成28年)4月8日のTPP特別委員会において、丸山穂高への答弁として安倍晋三首相は「同人誌は市場で原作と競合せず、権利者の利益を不当に害するものではないから非親告罪とはならない」と答え、同人誌は非親告罪の対象とならないという認識を示した[25]。
なお、改正著作権法の非親告罪化規定は、TPP11協定発効日である2018年(平成30年)12月30日から施行された[26]。