『史通』は「内篇」と「外篇」から構成される。内篇は一つの体系的な構想の下に書かれ、「序文」から「自叙」までで完結している。一方外篇は、「古今正史」「史官建置」が通史的記述であるほかは、著述目的が異なる雑多なものが収められている[19]。内篇・外篇の成立順については諸説あり、『四庫提要』では内篇において外篇に対する言及が現れていることから、外篇が先に書かれてのちに内篇が完成したという説を立てている[19]。一方、稲葉 (2006, p. 272)は、逆に外篇にも内篇に言及する場合があることから、外篇は内篇を前提にして書かれた補完論文であり、内篇を短期間にまとめて書き上げたのちに個々に書いた札記を集成したものが外篇であろうと推測している。
以下、川勝 (1973, pp. 160?163)をもとに、各篇の概要を示す。内篇(10巻39篇) 劉知幾は『史通』において、正史はどのように書かれるべきかというテーマを追求したのであり[14]、まずこの点について以下に述べる。
自序
巻一
六家第一 : 古来の史書を六つの流派に分けて(尚書・春秋・左伝・国語・史記・漢書)、それぞれの特色を論じる。
巻二
二体第二 : 編年体・紀伝体の比較論。
載言第三 : 詔勅・上奏・議論といった長大な言説を史書の中でいかに採録するべきか論じる。
本紀第四 : 紀伝体の歴史書のうち「本紀」の正しいあり方を論じる。
世家第五 : 同じく、「世家」の正しいあり方を論じる。
列伝第六 : 同じく、「列伝」の正しいあり方を論じる。
巻三
表暦第七 : 正史の一部をなす「表」について論じる。
書志第八 : 同じく正史の一部をなす「書」または「志」について論じる。
巻四
論賛第九 : 正史の各篇の末尾に附す「論」と「賛」について論じる。
序例第十 : 正史の諸篇の冒頭にときおり付けられる「序」について論じる。
題目第十一 : 書名・篇名の命名方法を論じる。
断限第十二 : 正史は一つの王朝を基準として、記述の対象とする時代を明確に限定すべきことを説く。
編次第十三 : 正史の各篇の順序をいかに並べるべきか考察する。
称謂第十四 : 正史における尊称・蔑称の使い分け方を説く。
巻五
採撰第十五 : 史料収集とその際に必要とされる態度について論じる。
載文第十六 : 過去の名文を採用する際の態度について論じる。
補注第十七 : 前書の欠点を補い、異説を採録する「補注」について論じる。。
因習第十八 : 時代の変化を考慮せずに、前代の記事を孫引きすることの弊害を述べる。
邑里第十九 : 人物の本籍地が時代によって異なることを無視することの弊害を述べる。
巻六
言語第二十 : 時代による言語の変化や方言の相違を考慮せず、むやみに古雅な文章を用いることの弊害を述べる。
浮詞第二十一 : 無用の粉飾的表現を用いることの弊害を述べる。
叙事第二十二 : 古来の史書の叙事の優劣を論じるとともに、叙事は完結を尊ぶべきことを説く。
巻七
品藻第二十三 : 人物の評価を厳正に行うべきことを論じる。
直書第二十四 : 善悪を直書して世の戒めとすることが史官の任務であることを論じる。
曲筆第二十五 : 権力に阿ったり、私情をさしはさんだりして筆を曲げることの悪について論じる。
鑑識第二十六 : 史書の価値を見分ける見識のある人が少ないことを論じる。
探?第二十七 : 史書を作った著者の真意を探ることについて論じる。
巻八
摸擬第二十八 : 史書を著す際に、古書を模範とする場合に取るべき態度を説く。
書事第二十九 : 史官が書くべきことは何か論じる。
人物第三十 : 史官が書くべき人物について論じる。
巻九
覈才第三十一 : 真に歴史家たる才能が得難いものであることを論じる。
序伝第三十二 : 自序の書き方を論じる。
煩省第三十三 : 歴史記述における煩雑さと簡略さについて論じる。
巻十
雜述第三十四 : 以上の篇での議論が正史に関わるものであったのに対し、ここでは正史以外の種々の歴史書を論じる。
弁職第三十五 : 史官の職にあるものの正しいあり方を論じる。
自叙第三十六 : 本書を書くに至った経緯と、自身の真意を示す。
体統・紕繆・弛張 : この三篇は失われて伝わらない。
外篇(10巻13篇)
巻十一
史官建置第一 : 古来の史官制度の変遷と、各代の代表的な史官について論じる。
巻十二
古今正史第二 : 古来の正史(編年体の記述を含む)について論じる。
巻十三
疑古第三 : 『尚書』『論語』などに記される、『春秋』以前の記事に関する疑問の10カ条。
巻十四
惑経第四 : 『春秋』の記事に関する問題点、合計17カ条。
申左第五 : 『春秋左氏伝』が『春秋公羊伝』『春秋穀梁伝』よりもすぐれることを説く。
巻十五
点繁第六 : 古来の史書に見られる無駄な文章を実際に例示しながら添削する。
巻十六
雑説上第七 : 『春秋』以後、最近に至るまでの歴史書全般に関する問題点。上・中・下で合計66カ条。
巻十七
雑説中第八 : 同上。
巻十八
雑説下第九 : 同上。
巻十九
漢書五行志錯誤第十 : 『漢書』五行志の錯誤と問題点。
漢書五行志雑駁第十一 : 同上。
巻二十
暗惑第十二 : 『史記』以後の正史の誤った記述14カ条を引き、論難を加える。
忤時第十三 : 国史編纂の監修官に対して提出した劉知幾自身の辞職願と、その前後の事情について。
内容
正史について
歴史叙述の六家