史料批判
[Wikipedia|▼Menu]
実際、それまで知られていなかった一次史料の発見によって、従来の歴史解釈が大きく変わることもしばしばみられることである。

一方、当事者であるがゆえに、かえって自分に都合のいいように記述したり、都合の悪い点を隠す場合も多い[注釈 5]。そのため、一次史料を別の立場から書かれた史料と比較検討することも必要である。

古い記録の場合、筆者がどういう人物か不明である場合も多いが、できるだけ筆者の人物像を明らかにすることが必要である。筆者の立場や教養主義思想などによって史料の信頼性は大きく左右される。また、ひとまとまりの史料群については、史料群全体の性格を理解することが重要である。史料を総合的に検討することで、正確な内容が多く信頼できる史料と、不確かな記述が多く信頼しがたい史料などの区別も付いてくる。例えば、ある宣教師の書いた報告書は、事実関係については相当正確であるが、宗教的な偏見から誤った解釈がされていることが多い、などといった史料の性格を把握することが大切である。

言語で表現された史料には主観が伴う。したがって、その作者の人物を考慮することは、その史料の信頼性を考える上で、重要な標準となる。
錯誤と虚偽

史料の信頼性が損ねられる例は多々ある。その原因には、大きく分けて「錯誤」と「虚偽」がある[4]
錯誤の例

感覚的な錯誤[注釈 6]

総合判断の際の先入観感情による錯誤

記憶を再現する際に感情的要素が働いて誇大美化(もしくは、その逆の場合)が起きるような例

言語表現が不適切で証言がそのまま他人に理解されない例[注釈 7]
直接の観察者でも、錯誤が入ることはよくある。ましてや証言者がその事件を伝聞した人である場合、誤解・補足・独自の解釈等によって、さらに錯誤が入る機会は多い。ことに噂話のように非常に多数の人を経由する証言は、その間にさらに群集心理が働いて、感情的になり、錯誤はますます増える[7]
虚偽の例

自分あるいは自分の団体の利害に基づく虚偽

憎悪心嫉妬心虚栄心好奇心から出る虚偽

公然あるいは暗黙の強制に屈服したための虚偽

倫理的・美的感情から、事実を教訓的にまたは芸術的に述べる虚偽

病的変態的な虚偽

沈黙が一種の虚偽であることもある

言語史料の特性

上述のように、言語史料には錯誤虚偽が入る機会が少なくない。言語史料を「音声」と「文字」に大別し、それぞれの史料特性を以下に記す。
「音声」史料の場合
時間的人間的に、間接の度が増して、広がるほど遠くなるほど、信頼性が落ちる。伝説はその典型である。一般に、長く伝わる間に、1.誇大・美化・理想化、2.集中、3.混合、などが起きる傾向がある。現在文献化している音声史料でも、かつて相当の期間口承されたものは、こういう性質を持つ[8]
「文字」史料の場合
公私の往復文書、宣言書、演説新聞雑誌の記事、日記覚書回想録系図歴史書年代記伝記その他、種々の種類に分類して、大体その性質を考察した上で、さらにその史料の一つ一つを吟味する。特に、利害関係を持つ内容、宣伝的性質を持つ内容、道徳的・芸術的効果を目的とする内容等については、事実の歪曲を予想するべきである[9]。歴史の叙述にあたっては、それぞれの史料特性を考慮において、言語史料を扱う必要がある[10]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ ランケ以前の歴史研究者を「歴史家」、以降の歴史研究者を「歴史学者」と呼ぶように、ランケの学績は史学史における大きな画期となった。
^ 『ローマ的・ゲルマン的諸民族の歴史』の付録として1824年に刊行された。
^ 一般に、同時代の人間による生の史料を一次史料と呼び、後世の編纂物などを二次史料と呼ぶことが多い。詳細は本項「オリジナルの史料かどうか」。また、国立国会図書館では「いつ」、「どこで」、「だれが」叙述したのかの3要素について、「そのとき」「その場で」「その人が」を満たすものを一次史料と定義している。#外部リンク参照。
^ 偽書とされるものがそうであり、考古資料に関しては2000年に旧石器捏造事件があった。
^ 公表を意図して書いたものかどうか、など史料が成立した経緯も信頼性に影響する。
^ 個人体験を過大に報告しているなど。
^ 同じ言葉を使っていても違う意味で使っているなど。

出典^ 今井(1953, p. 21)
^ 今井(1953, p. 36-37)
^ 今井(1953, p. 37-40)
^ a b 今井(1953, p. 53-61)
^ 今井(1953, p. 44-49)
^ 今井(1953, p. 49-53)
^ 今井(1953, p. 55-57)
^ 今井(1953, p. 59)


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:26 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef