古東スラヴ語
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アラブ東ローマの文献に、キリスト教化以前のスラヴ人が何らかの形で文語を使用していたとの言及もある。いくつかの示唆的な考古学的証拠もあるが、実際のところキリスト教化以前に使用されていた文語体については不明である。

ノヴゴロドにおいて聖書の翻訳などのためグラゴル文字が導入されたものの、間もなくキリル文字に取って代わられた。ノヴゴロドで発掘された、カバノキの皮に記された資料(白樺文書)は、教会スラヴ語の影響がほとんどない北西部ロシアで10世紀に使用された言語(古ノヴゴロド方言)を示す重要な資料である。この時期、ギリシャ語からの借用語・借用語句が使われはじめたことも知られており、同時に東スラヴ諸語への発展の兆しも見ることができる。
原初年代記

1110年頃に書かれた原初年代記の冒頭部分を以下に引用する。( 1377年ラヴレンチー写本より)Се пов?сти врем?ньных л?т ? ?к?д? ?сть пошла р?ска? зем? ? кто въ ки?в? нача перв?? кн?жит ? и ?к?д? р?ска? земл? стала ?сть.これはルーシの国が何処から始まったか、誰がキエフに於いて最初に君臨し始めたか、しかしてルーシの国が如何にしてつくられたか、という過ぎし歳月の物語である[10]
イーゴリ遠征物語

1200年頃に書かれたイーゴリ遠征物語(Слово о пълк? Игорев?)の冒頭部分。(14世紀プスコフ写本から)Не л?по ли ны бяшетъ братые, начати старыми словесы тр?дныхъ пов?ст?й о полк? Игорев?, Игоря Святъ славича? Начатижеся тъ п?сни по былинамъ сего времени, а не по замышлен?ю Бояню. Боянъ бо в?щ?й, аще ком? хотяше п?сн? творити, то растекашется мыс?ю по древ?, с?рымъ волкомъ по земли, шизымъ орломъ подъ облакы.兄弟たちよ、スビャトスラフの子イーゴリの遠征の悲しい物語は、昔のことばで始めるのがふさわしくないだろうか。この歌は、ボヤンの思いつきによってではなく、いまの時代のやりかたで始められなければならない。ことばの魔術師ボヤンは、だれかに歌を作ろうとすると、考えが木を伝わってひろがる。地上では灰色のおおかみのように、雲のもとでは褐色のわしのように[11]
古東スラヴの文学

古東スラヴ語はいくつかの文学を独自に発展させた。しかしその多くは文体と語彙の面で教会スラヴ語の影響を受けている。現存する代表的な作品としては、ルーシ法典聖人伝と説教の集成、イーゴリ遠征物語、そして最も初期の資料である原初年代記ラヴレンチー写本(1377年)などがある。

ロシア内戦中に発見され第二次世界大戦中に失われたとされるヴェレスの書は、偽書でなければ、キリスト教化前の唯一の東スラヴの文字資料となっていた。発見時の説明とその後の経緯(写真が現存するとの説もある)のため、その信ぴょう性を疑う言語学者がほとんどである。最初期の古東スラヴ語の資料は、キエフの府主教イラリオンの律法と恩寵についての講話とされている。この講話には、東スラヴの英雄譚によく取り上げられるウラジーミル1世への賛辞も記載されている。オストロミールの福音書 11世紀中頃14世紀、ノヴゴロドの子供達が交わした樺皮写本

11世紀の著述家としてはキエフ・ペチェールシク大修道院の修道僧フェオドーシイと、ノヴゴロドの主教ルカ・ジジャータがいる。テオドシオスの著作からは当時依然として異教信仰が盛んであったことが窺い知れる。ジジャータは同時代の著作家達よりもよりその土地の言葉に近い文体を使用し、大仰な東ローマ式の著述を控えた。

また、初期東スラヴの文字資料として、多くの聖人伝、主教伝が存在する。例として11世紀後期の「ボリスとグレブ伝」などがある。

年代記者ネストルによる原初年代記の他に、15世紀に編纂されたノヴゴロド第一年代記[12]キエフ年代記ヴォルイニ年代記をはじめとした多くの年代記が存在する。
著名な文書

ブィリーナ - 口承叙事詩

原初年代記

イーゴリ遠征物語 - 古東スラヴ語による、もっとも傑出した作品。

ルーシ法典 - ルスカヤ・プラヴダ[13]ともいう。11世紀頃ヤロスラフ賢公によって編纂された法典集。

囚人ダニールの請願

三つの海の彼方への旅行 - 中期ロシア語の代表的資料。

脚注
注釈^ 英語表記では、英語: Old Ruthenian Language(便宜上の訳語: 古ルテニア語)と呼称されることもある。

出典^ ブリタニカ国際大百科事典 19 ティビーエス・ブリタニカ p.513 『ロシア語』の項
^ 中沢 (2011), pp17-18
^ 亀井『言語学大辞典』pp.529-530
^ a b c 中井「ウクライナ語小史」p.157
^ 国民史観にとらわれない中立的な呼称として用いられる。Henryk Paszkiewicz. The making of the Russian nation, 1977. p.138,158. Andri? Danylenko. Slavica et Islamica: Ukrainian in context, 2006. p.38.
^ 亀井『言語学辞典』 p.529
^ 東郷『研究社露和辞典』 Полногла?сие の項より
^ Иванова Т. А. Старославянский язык. М.: Высшая школа, 1997. ? с. 56.
^ 除村『ロシヤ年代記』856頁
^ 除村『ロシヤ年代記』3頁より引用
^ 森安『イーゴリ遠征物語』 165頁より引用
^ 和田『ロシア史』38頁
^ 除村『ロシヤ年代記』857頁

参考文献

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亀井孝・河野六郎・千野栄一 編著 『言語学大辞典セレクション ヨーロッパの言語』(1998年、三省堂) ISBN 4-385-15205-5

除村吉太郎 『ロシヤ年代記』(1946年、弘文堂書房)


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