古文書
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上記に掲げた分類は、上から下へ発給する文書である。下位の者が上位のものへ出す文書は時代を超えて上申文書と分類される。

なお、近世以降の古文書は様式が多様になったために体系的な分類は困難とされる[2]
公式様文書
詔書(しょうしょ)
天皇の勅命を下達する文書。臨時の大事に際して発せられる。中務省が出す。
勅旨(ちょくし) 勅書(ちょくしょ)
天皇の勅命を下達する文書。詔書より小時に発せられる。中務省が出す。
(ふ)
直接上下関係にある役所、間で上位の役所が下位の役所に下す文書。
(い)
ほぼ同等の役所間でやり取りされる文書。
(ちょう)
上下関係がはっきりしない役所間でやり取りされる文書。やがて、蔵人所や検非違使庁、記録所といった令外官が発給する文書様式となる。
(げ)
下位の役所が上位の役所に出す文書。やがて個人間でも下位身分のものが上位身分で出す文書も指す。
公家様文書
宣旨(せんじ)
詔書、勅書の手続きを簡略化した勅命文書。中務省に上げる前の段階で公式に発給された文書。
官宣旨(かんせんじ)
弁官が署名して発した勅命文書。宣旨より簡略化。
庁宣(ちょうせん)
平安中期以降、国司遙任が恒常化する。国司は任地に目代を派遣し任国を支配した。中央政府から発せられる命令は国司に伝えられる。在京の国司が任国に出す文書が庁宣である。正親町天皇綸旨/個人蔵
綸旨(りんじ)
弁官や蔵人が天皇の意思を受けて出す文書。内容は勅命だが、形式的には弁官や蔵人が発する文書形式を取る。同じように院の意思を受けて院の近臣が出す文書を院宣(いんぜん)、親王内親王女院などの近臣が出す文書を令旨(りょうじ)、三位以上の者の近臣が出す文書を御教書(みぎょうしょ)という。
武家様文書
下文(くだしぶみ)
将軍将軍家政所が発給する最も格式の高い文書。所領の安堵状に多い。
下知状(げちじょう)
下文と御教書の折衷様式。裁決文書に多い。
御教書(みぎょうしょ)・奉書(ほうしょ)
将軍が一般の政務などで出す伝達用の文書。政所や問注所など幕府の機関が出す同形式の文書を奉書と言った。どちらも公家様文書の御教書からきたもので、差出人は近臣や執事である。
直状(じきじょう)
発給者が直接出す文書。差出人が自署する。
印判状(いんばんじょう)
織田信長黒印状/高島町歴史民俗資料館蔵花押の代わりに判を押した文書。形式的には直状と同じだが、格式は下。
上申文書
解状(げじょう)・訴陳状(そちんじょう)
役所間だけのやり取りだった解状を個人間で行ったもの。下位者から上位へ意思を述べる文書。
紛失状(ふんしつじょう)
主に土地関係の権利書で、紛失した場合、その由来を書いて上申する。権利が認められるとその上申書の余白に権利を認める旨の書き込みが行われて上申者に返却された。これを紛失状と言う。
請文(うけぶみ)・請取状(うけとりじょう)
将来、権利、金品等を付与することを約束した文書。転じて命を請けたことを報告する文書。武家文書では後者の意味が強い。織田信長起講文/西山本願寺蔵
起請文(きしょうもん)
宣誓書。
着到状(ちゃくとうじょう)
軍勢催促に応じて参陣した際に提出する書類。受け手の指揮者は署名して内容が確かなことを証明し、提出者を「着到帳」に記載する。
軍忠状(ぐんちゅうじょう)
合戦での戦功を列記し、指揮者に提出する書類。受け手の指揮者は署名して内容が確かなことを証明する。
証文類
譲状(ゆずりじょう)
財産を譲渡する際、譲渡内容を記した文書。
売権(ばいけん)
財産を売買したことを認め、買主に権利を譲渡したことを売り手が認めた文書。
借用状(しゃくようじょう)
借主が貸主に確かに金品等を借りたことを認めた文書。債務が消滅すると借主に渡される。
古文書における敬意表現
候文

今日の「です・ます」調にあたる丁寧文。詳しくは候文を参照。
闕字

天皇や貴人・寺社に関する称号や言葉が文中に用いられるとき、敬意を払うため、その語の前に1字分もしくは2字分相当の空白をあけることを闕字(けつじ)という。大宝律令公式令に定めがあり、具体的には「大社」「○○陵」「乗輿」「車駕」「詔書」「勅旨」「明詔」「聖化」「天恩」「慈恩」「慈旨」「御(至尊)」「闕庭」「中宮」「朝廷」「春宮」「殿下」などの語に対して用いるべきとあったが、平安時代以降は必ずしもその範囲は厳格ではなく、近世末まで用いられた。文政元年に闕字の制が発せられたが、明治5年8月27日の令によって廃せられた。
平出

闕字よりもさらに敬意を表した書式。闕字と同様に公式令に定めがある。天皇や神仏に関わる語彙が文中に現れた場合に、たとえ行の途中であっても、あえて改行し行頭に語を置くことによって敬意を表すことを平出(へいしゅつ、びょうしゅつ)または平頭抄出という。「皇祖」「先帝」「天子」「天皇」「皇帝」「陛下」「至尊」「太上天皇」、天皇諡、三后(皇后皇太后太皇太后)などの語に対して用いたが、闕字と同様、時代が下るにつれてその適用範囲は曖昧となっていった。
擡頭

闕字・平出よりもさらに敬意を高めた表現。神仏・天皇などの語彙が文中に現れた場合、文を途中で改行するだけでなく、その語を他の行よりも上の位置から書き出すことを擡頭(たいとう)と呼ぶ。1字分上に書くことを一字擡頭、2字分上に書くことを二字擡頭といい、上に書くほどより敬意を表した(最大で五字擡頭まで)。
古文書の翻刻

史料集などにおける古文書の活字化のことを翻刻と言う。古文書の翻刻は可能な限り原本の再現を忠実に行われるが、印刷上の都合で原本通りの文字の使用や字配りを再現することが難しく、正字・常用漢字の選択や略字異体字の表記など翻刻の方針については凡例で明記される。特に年月日や差出人・宛名の位置関係は書札礼の観点から重要な要素であり、また文書の寸法や署判の形態、紙質などの情報も注記される。
西洋の古文書
学問

西洋古文書を扱う学問領域として、古書体学(palaeography)、文書形式学(diplomatic)、印章学(sigillography)がある[6]
古文書の様式

中世の西洋古文書(特に公文書)は、書き出しにあたる冒頭定式(protocol)、文書の主要な内容が書かれた主部(text)、発信に関する情報を記した終末定式(eschatocol)の三部からなっている[6]。主部はさらに、文章の正当性を示す前文(preamble,arenga)、内容の通知に関する定式文である通告文(notification)、文書発給の経緯を記した叙述部(narratio)、文書の内容となる法行為を示した措置部(dispositio,dispositive clause)、その法行為に関連する者の同意を記載した認証定式(corroboration)からなる[6]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ ただし、相田二郎(『日本の古文書』上・下 岩波書店、 1949年・1954年)や上島有は、発給者の階層と文書の様式を結びつける「公家様文書」や「武家様文書」という呼称を用いず、「公式様文書」と「書札式文書」、それ以外の文書(相田は「平安時代以来の公文書」、上島は「下文様文書」もしくは「令外様文書」と呼ぶ)と区別する。上島は公式様文書以後の流れを公家・武家の区別ではなく、下文系統(下知状を含む)と御教書系統に区別すべきであるとしている。

出典^ 佐藤進一『古文書学入門』(法政大学出版局、1971年)1頁
^ a b c d e 大橋 幸泰. “ ⇒12.史料論の現在(1)―古文書学からアーカイブズ学”. 早稲田大学. 2020年2月26日閲覧。
^ a b c d e f g 飯倉晴武 1993, pp. 11?14.
^ a b c 飯倉晴武 1993, pp. 24?27.


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