古代ギリシャ語
[Wikipedia|▼Menu]
各方言群はまた、植民市によって独特に表現されることもあった。それら植民市は、時には開拓移民や近隣住民が話す異なる方言の影響を受けて、独自の発展を遂げた。

紀元前4世紀のアレクサンドロス大王の征服ののち、コイネーもしくは共通ギリシア語として知られる国際的な方言が発達した。コイネーは大部分でアッティカ方言が原型となっていたが、ほかの方言の影響も受けていた。古代の方言のほとんどは徐々にコイネーに入れ替わっていったが、ドーリス方言は現代ギリシア語のツァコニア方言として生き残っているほか、デモティキの動詞にもアオリストの形を残している。紀元後6世紀頃までに、コイネーは中世ギリシア語に変異していった。
古典ギリシア語

日本語では「古典ギリシア語」という名称が広く知られているが、これは「古代ギリシア語」と同一の概念ではない。古典ギリシア語は、古代ギリシアの諸方言の中で最も代表的なものとなった古典期のアッティカ方言を指す呼称である。

紀元前5世紀頃までは散文の中心がイオニア地方であったため、イオニア方言が主に用いられていた(ヘーロドトスなど)。しかし、前5世紀後半からはアテーナイに優れた弁論家・文筆家(プラトーントゥーキューディデースなど)が多く現れ、さらに政治的にもアテーナイがギリシアの中心となったため、前4世紀頃にはアッティカ方言がギリシア世界の標準語となった。この頃[注 2]に用いられていたアテナイの言語を指して「古典ギリシア語」と呼ぶ。
音韻の変化

ギリシア祖語以来、以下の音韻の変化はほぼすべての古代ギリシア語方言に見られる。

音節主音的子音 /r/, /l/ は、ミケーネ語とアイオリス方言で /ro/, /lo/ に、それ以外の方言では /ra/, /la/ に変化した。ただし、共鳴音の前では /ar/, /al/ と発音された。例) インド・ヨーロッパ祖語の *str?-to- は、アイオリス方言では στρ?το? となり、他の方言では στρατ?? となった(どちらも「軍隊」の意)。

/s/に由来する/h/は、語頭を除き脱落した。また/j/ も脱落した。例) ドーリス方言 nikaas < *nikahas < *nikasas「征服した」、 τρε?? < *trees < *treyes 「3」

/h/, /j/ の脱落ののち、多くの方言で、 /w/ が脱落した。例) ?το?(etos) < ??το?(wetos)「年」

両唇軟口蓋音の多くが両唇音に変化した。一部は歯音軟口蓋音にもなった。

/h/ と /j/ の脱落の結果(比較的影響は小さいが/w/ でも)、隣り合う母音の間で融合が起きるようになった。これはアッティカ方言で最も顕著な現象である。

融合などの影響で特殊なサーカムフレックス(曲アクセント)が作られた。

上記の制約とともに、アクセントを最後の3音節のいずれかに付すという規則が誕生した。

/s/ の前で /n/ が脱落し(ただしクレタ方言では不完全)、直前の母音で代償延長が起きた。

/w/, /j/ は脱落する傾向が強かったが、完全に消失していたわけではない。初期には母音の後ろにあるとき、その母音と結合して二重母音の形をとっていた。子音の後ろでの /h/ と /w/ の脱落は、直前の母音の代償延長に伴って起こった。一方、子音の後の /j/ の脱落には、直前の母音の二重母音化、口蓋化、子音のほかの変化など、多くの複雑な変化が絡んでいた。以下はその例である。

/pj/, /bj/, /phj/ → /pt/

/lj/ → /ll/

/tj/, /thj/, /kj/, /khj/ → /s/ - 子音の直後のとき。それ以外の場合は /ss/ か /tt/(アッティカ方言)。

/gj/, /dj/ → /zd/

/mj/, /nj/, /rj/ → /j/ - このときの /j/ は子音の前で置換され、直後の母音とともに二重母音をなす。

/wj/, /sj/ → /j/ - 同時に直後の母音を二重母音化する。

母音融合の結果は方言ごとに複雑であった。多数の異なる種類の名詞や動詞の屈折語尾に起こる融合は、古代ギリシア語文法の最も難解な面を体現している。母音融合した動詞の分類、名詞から作られた動詞、母音の屈折語尾において、このような融合は非常に重要になってくる。実際、現代ギリシア語では母音融合動詞の発達形(たとえば、古代ギリシア語の母音融合動詞を受け継いだ動詞の組み合わせ)が、動詞の主要な2つの分類を象徴している。
音韻論古代からヘレニズム時代にかけての変化については「コイネー」を参照

正書法は古い時代の特徴を残していたが、後古典ギリシア語の発音は古代ギリシア語から大きく変異した。古代の発音を完全に再建することはできないが、ギリシア語は特にこの時代からかなりの記録が残されており、音価の一般的な性質に関しても言語学者の間に見解の相違はほとんど見られない。

以下の例では、紀元前5世紀のアッティカ方言を代表として取りあげている。
母音

母音のいくつかは長短の区別があった。また二重母音があった。

前舌母音後舌母音
非円唇母音円唇母音非円唇母音円唇母音
狭母音/i/ /i?//y/ /y?/
半狭母音/e/ /e?//o/ /o?/
半広母音/??//??/
広母音/a/ /a?/

/o?/ はおそらく紀元前4世紀までに [u?] に変化した。
代償延長

代償延長に関しては、どの位置で発生したかで異なる見解がある。/a/ が [a?] と [??] のどちらになるのか、/e/, /o/ は半狭の [e?], [o?] と半広の [??], [??] のどちらになるのか、というのがその争点である。
子音

古代文字(現代文字)

国際音声記号両唇音歯茎音軟口蓋音声門音
破裂音無声無気音(π)

/p/ (τ)

/t/ (κ)

/k/
有気音(φ)

/p?/(θ)


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:50 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef