古代ギリシアの演劇
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紀元前5世紀末のペロポネソス戦争のころまでに、スケーネは2階建てになった。その2階部分を episkenion と呼ぶ。劇場によってはオルケーストラに一段高くなっていて、そこで俳優らがしゃべるところがあり、これを logeion と呼ぶ。
大道具など

ギリシア劇場では一般に以下のような要素が使われていた。

マキナ (machina) - 役者を宙吊りにして登場させるための
クレーンデウス・エクス・マキナ参照)。

エクキュクレマ (ekkyklema) - 劇中で死亡した登場人物を観客の前に登場させるための車輪つきワゴン。

人々をステージ上に持ち上げるための床面の開口部。

ピナクス (pinakes) - スケーネに吊るされる絵。背景を描いている。

Thyromata - スケーネの2階部分(地面から見れば3階部分に相当)に置かれる背景の絵。ピナクスよりも複雑。

ファルス的支柱 - サテュロス劇で使用。ディオニューソス神の肥沃さの象徴。

仮面ハドリアヌス帝のヴィッラのモザイクに描かれた悲劇および喜劇用の仮面
仮面と儀式

ギリシア語では仮面を「ペルソナ (persona)」と呼び、アテナイでのディオニューソスの礼拝の重要な要素であり、儀礼や祝典で使われていたと思われる。証拠のほとんどはわずかに現存する紀元前5世紀の壷の絵柄によるもので、神の仮面が樹から吊り下げられ、その下に装飾されたローブが掛かっている絵柄や、サテュロス劇の準備をする役者らを描いた Pronomos の壷 ⇒[3]などがある[10]。仮面は有機素材で作られていて長持ちするものではなく、使い終わるとディオニューソスの祭壇に捧げられたため、現存していない。いずれにしてもアイスキュロスのころから仮面が使われており、古代ギリシア劇の特徴のひとつとなっている[11]。コロスは登場人物が考えていることを代弁して観客に伝える役目を持ち、12人全員が1人の登場人物に対応し、同じ仮面を付けていた。
仮面の詳細

演劇用の仮面が描かれた絵を見ると、顔面全体と頭を覆うヘルメット状の形であり、かつらと一体化していて目と口の部分に穴がある。興味深いことに、演劇の最中に役者が仮面を着けた状態を描いた絵はなく、劇の前か後で役者が仮面を手に持っている絵しかない。それらは、観客と舞台の境界、神話と現実の境界を描いたものである[10]。仮面が顔に溶け込むことで、役者はその役になりきると考えられていた[12]。実際、仮面はせりふを覚えるのと同程度に役者を変えた。古代ギリシア劇では、仮面をつけた役者とその劇の登場人物とを同一視していた。

仮面製作者は skeuopoios(小道具製作者)と呼ばれており、仮面だけを作っていたわけではないと思われる。仮面は軽い方がよいため、人毛または動物の毛をかつらに使い、亜麻布、革、木、コルクなどを使って作っていた[13]。仮面を着けると視界が限定されるため、役者は耳が聞こえないと演じられない。そのため、耳を隠すとしても仮面で耳を覆うことはなく、自分の髪の毛で隠していたと考えられている。仮面の口の部分の開口部は小さく、役者自身の口が見えるのを防いでいた。1960年代には仮面がメガホンの役割も持っていたという説があったが、Vervain と Wiles は開口部が小さいため、その説は成り立たないとしている[10]。ギリシャ人の仮面製作者 Thanos Vovolis は、仮面が共鳴装置のように働いて声の音響特性を強化するのではないかと示唆している。これによってエネルギーと存在感が増し、役者がその役になりきることをより完全にすると考えられる[14]
仮面の役割

アテナイディオニューソス劇場のような大規模な野外劇場では、仮面が顔の特徴を誇張するようになっているため、観衆は遠い席からでも登場人物を識別可能だった[14]。役者は舞台に出てくるたびに別の役を演じることがあったため、仮面をつけることで観客が混同することを避けるという意味もあった。また、性別、年齢、社会的地位などの識別にも役立ち、さらに同じ人物の見た目の変化も仮面で表すことができた(例えば、オイディプスが自らの目をつぶした後など)[15]。特定のイベントや劇でのみ使う仮面も作られた。例えばアイスキュロスの『エウメニデス』に登場するエリーニュスエウリピデスの『バッコスの信女』に登場するペンテウスカドモスである。コロスは同じ仮面を着けることで一体感と均一性を演出する。
仮面以外の衣装など

悲劇的運命の役を演じる役者は cothurnus と呼ばれるブーツを履き、他の役者より背が高い状態で演じた。喜劇的な役を演じる役者は sock と呼ばれる底の薄い靴を履いた。このため、演劇のことを“Sock and Buskin”と呼ぶことがある。

女性を演じるとき、男性の役者が“prosterneda”と呼ばれる木製の偽の胸を身につけ、腹部には“progastreda”と呼ばれるものを身につけた。

ムーサの一柱メルポメネーは悲劇を司り、悲劇用の仮面を持ち cothurnus を身につけた姿で描かれることが多い。喜劇を司るタレイアも、喜劇用の仮面や sock と共に描かれることが多い。
脚注^Merriam-Webster definition of tragedy
^ William Ridgeway, Origin of Tragedy with Special Reference to the Greek Tragedians, p.83
^ アリストテレス、『詩学
^ Brockett, Oscar G. "History of the Theatre". Allyn and Bacon, 1999. Pp. 16–17
^ Herodotus, Histories, 6/21


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