古フランス語
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現代フランス語においても、ゲルマン系語彙は依然として15%ほど存在すると推定されている[3]。現代フランス語はラテン語やイタリア語から多数の借用を行っているため、この割合は古フランス語ではさらに大きかった。
フランス語最古のテキスト

813年の第3回トゥール教会会議(英語版)において、司祭はラテン語でなく現地語(ロマンス語かゲルマン語)で説教を行うよう定められた。これは一般人にはもはや正式なラテン語が理解できなくなっていたことを意味する。

フランス語で書かれたとされる最古の文章は、ライヒェナウ註解(英語版)[注釈 5]、カッセル註解(英語版)[注釈 6]を数えなければ、「ストラスブールの誓約」である。「ストラスブールの誓約」は、東フランク国王ルートヴィヒ2世西フランク国王シャルル2世が842年に結んだ相互協定であり、両者が協力して中フランク王国に対抗することを目指したものである。.mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}

Pro Deo amur et pro Christian poblo et nostro commun salvament, d’ist di en avant, in quant Deus savir et podir me dunat, si salvarai eo cist meon fradre Karlo, et in aiudha et in cadhuna cosa...

主の愛のため、またキリスト者たる民とあまねき救いとのために、今日より以後、主が知識と力とを余に授けたもう限り、余は余の弟シャルルを余の助けにより万事において守護せん(以下略)

「ストラスブールの誓約」に次ぐのが、『聖女ユラリーの続唱(英語版)』である。『聖女ユラリーの続唱』では文中のスペリングが一貫しており、古フランス語の音韻を再建するのに重要視される。

ユーグ・カペーの即位に始まるカペー朝フランス王国の成立(987年)をもって、イル=ド=フランスを中心とする北仏の文化的発展の嚆矢とする。北フランスの文化的優越はゆっくりとではあるが着実に南方、アキテーヌトゥールーズへと地歩を進めていった。とはいえ、カペー朝のオイル語とも言うべきイル=ド=フランス方言が、標準語としてフランス全土で用いられるようになるのは、1789年のフランス革命以後のことである。
中期フランス語へ

中世後期になると、古フランス語という方言連続体はさまざまなオイル語へと分化していった。そうしたオイル語のうち、中期フランス語と呼ばれるのはイル=ド=フランスのオイル語である。中期フランス語は近世には南仏オック語圏を含むフランス王国全域で公用語としての地位を確立することになる。なお、各地の民衆生活に標準的な古典フランス語が入り込むのは17世紀から18世紀にかけてで、青色叢書(雑誌や貸本のはしり)が好評を博したことが特に大きい。
文学詳細は「フランス文学」を参照

1100年頃、それまで営々と発展を続けてきた中世の西欧社会から、12世紀ルネサンスと呼ばれる運動が起こり、さまざまな文化的所産をもたらした。14世紀半ばになると古フランス語は中期フランス語となり、15世紀のフランス・ルネサンス期(英語版)の文学を用意した。

現存するフランス語最古のテキストは9世紀に遡るとはいえ、10世紀以前のテキストはほとんど残っていない。古フランス語で書かれた最初期の作品は聖人伝であり、9世紀後半の『聖女ユラリーの続唱』はその最初のものとされる。

13世紀のはじめに、詩人ジャン・ボデルは中世フランスに流通していた物語を主題別に3種類に分類している。

フランスもの:シャルルマーニュとその騎士たちの活躍。

ローマもの:古代ギリシアローマの題材。トロイア戦争ローマ建国アレクサンドロス大王の事績など。

ブルターニュもの:アーサー王物語。ここでいうブルターニュは、ブルターニュ半島大ブリテン島(仏:La Grande-Bretagne、英:Great Britain)のこと。

フランスものは武勲詩と呼ばれるジャンルに含まれる。武勲詩はもっぱら叙事詩であって、数行を1単位とする詩連 laisse を連ねて構成され、1行は10音節で母音韻を踏む。100作以上の武勲詩が300ほどの写本によって伝わっている。武勲詩のうちで最も古く、最も名高いものが『ロランの歌』(11世紀後半)である。

武勲詩もまた、同時代の詩人ベルトラン・ド・バール=シュル=オーブ(英語版)による分類以来、伝統的に3分されてきた。

シャルルマーニュ物語群:『ロランの歌』もここに含まれる。

ガラン・ド・モングラーヌ物語群:跡継以外の貴族の若者たちが、自らの所領を見つけるべく旅立ち、サラセン人との戦いを繰り広げる冒険活劇。こうした若者たちの共通の先祖としてガランが後付けで設定された。もっとも代表的な登場人物にギヨーム・ドランジュ(英語版)がいる。

ドーン・ド・マイヤンス物語群:シャルルマーニュに反逆した封臣たちの活躍を描いた武勲詩。ドーンもまた後付けで共通の先祖として設定されたようである。オジェ・ル・ダノワルノー・ド・モントーバンジラール・ド・ルシヨンなど。

ベルトランは挙げていないが、第4の分類も設けられる。

十字軍物語群:第1回十字軍を扱ったもの。遠征の直後に成立した。

ボデルの分類による「ローマもの」と「ブルターニュもの」は騎士道物語と関連する。騎士道物語は1150年から1220年にかけて韻文で書かれたものが100篇ほど残っているが、1200年頃からは次第に散文で書かれることが一般化し、もともと詩として書かれた物語も少なからず散文に書き改められた。とはいえ14世紀末までは新規の物語詩も書き続けられている。このジャンルの白眉は13世紀の『薔薇物語』で、従来の冒険活劇とはかなり趣を異にしている。

中世フランスの抒情詩は南仏オック語圏の詩と文化に負うところが大きい。ただし、一方で南仏の詩はイベリアイスラム教世界の詩文の伝統に大きく影響されている。オック語詩人はトルバドゥールと呼ばれ、北仏の抒情詩人はトルヴェールと呼ばれた。

13世紀にはフランスの詩はトルバドゥールの詩とは内容のうえでも形式のうえでもはっきり違う方向へ発展しはじめた。中世の抒情詩は節をつけて器楽とともに歌われるのが常であったが、この時期、詩とともに古代のものとは異なる新しい音楽も誕生しつつあり、そのような新しい詩と曲の傾向はたとえば『フォーヴェル物語(英語版)』にみてとることができる。上下2巻(上巻1310年、下巻1314年)からなる『フォーヴェル物語』は、教会の悪習を風刺するもので、モテットレーロンドーなどの新しい形式で書かれた多数の詩からなる(作詞・作曲者は多くが不明だが、フィリップ・ド・ヴィトリー(英語版)作のものがいくつかある。ヴィトリーは新しい音楽をアルス・ノヴァ: ars nova, 新技法)と呼んで従来の音楽と区別しだした人物と考えられている)。中世フランスのアルス・ノヴァにおける詩人兼作曲家としてはギヨーム・ド・マショーがもっともよく知られている。

中世における世俗劇の起源がいずこにあるかという議論はいまだに決着を見ていない。しかしローマの悲喜劇に発する民衆劇が9世紀まで脈々と伝わったという見方はどうやら正しくないらしく、日曜日に教会で行われていた、聖書の題材を詠唱を交えて演じる対話形式の劇が起源であるというのが現在の定説である。教会におけるそうした神秘劇ははじめ修道教会で(もっぱら聖職者間で)、ついで参事会会議場で(世俗の権力者などを交え)、そして最終的に屋外で催されるようになっていき、ラテン語だった劇の言葉も現地語になっていった。12世紀には、聖ニコラウス(サンタクロースのモデルとは別人で学僧の守護聖人)や聖ステファヌスに題を採ったラテン語宗教劇にフランス語で書きこまれたリフレインがみられ、これはこのジャンルにおける最古のフランス語とみなすことができる。フランス語で書かれた初期の悲劇に1150年頃の『アダム劇』 Le Jeu d'Adam がある。『アダム劇』は1行8音節のカプレットで、ラテン語による舞台演出の書き込みがあることから、ラテン語のできる聖職者が平信徒のために書いたと推察される。

古フランス語の寓話は多数が残っている。寓話は多くの作品が作者不明であり、代表的存在と言えるのは、一大ジャンルを築いているトリックスタールナールぎつねであろう。また、マリー・ド・フランスイソップに倣った『寓話詩』 Ysopet を著している。寓話に関連するジャンルとして、より猥雑なファブリオーがあり、姦通や聖職者の堕落などを主題としている。ファブリオーはチョーサールネサンス期の短編にとって重要な水源となった。
音韻

フランス語の音韻は古フランス語期を通じて変化し続けたが、12世紀後半の音韻体系は、大量の詩に残されていることから、さしあたっての標準とすることができる。この時代の文字表記は後代とくらべて表音的であり、表記されている子音は原則としてすべて発音されていた。ただし、破裂音以外の子音の前の s、接続詞 et の t は発音されなかったほか、語末の e は [?] と発音されていた。
子音

古フランス語の子音唇音歯音硬口蓋音軟口蓋音声門音
鼻音mn?


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