9世紀の学者・聖職者のフォティオスがその著書『Bibliotheca』の中で長大な叙事詩サイクルに解説し、そこには『ティタノマキア(Τιτανομαχ?α)』および「テーバイ圏」と呼ばれるサイクルも含まれる。
テーバイ圏は順に、以下の作品で構成される。
オイディポデイア(Ο?διπ?δεια)
テーバイド(Θηβα?δα)
エピゴノイ(Επ?γονοι, Epigonoi)
アルクメオーニス(?λκμεων??, Alkmeonis)
しかし、フォティオスの時代でもホメーロスを除く叙事詩は残っていなかったことは確かで、ピロクロスもフォティオスも正典となるサイクルについて言及していないようである。なお、現代の研究家たちは通常、テーバイ・サイクルを叙事詩環に含めない。 叙事詩環の中で現存するのは『イーリアス』と『オデュッセイア』のみである。他のものは断片が後世の作家に引用されるか、2、3行がぼろぼろの古代のパピルスの中に残っている程度である。 『ウェネトゥスA(Venetus A 『イーリアス』と『オデュッセイア』を除く残り6つの叙事詩は、この2つの叙事詩で語られていないトロイア戦争の部分を述べるために、ホメーロスより後に書かれたものと一般に言われているが、それを裏付ける証拠はない。 新分析の研究者の中には、逆にホメーロスのものが後で、他の叙事詩から内容を引いてきたという前提に立つ研究者や、声高にではないが、伝説の素材から引かれたホメーロスの叙事詩が後に叙事詩環として具体化したと主張する研究者もおり、この議論は続いている。 古代においては、叙事詩環の中でホメーロスの叙事詩が最高のものと考えられていた。ヘレニズム期の学者たちはホメーロス以外の叙事詩環の作者たちを「ネオテロイ(νε?τεροι, ne?teroi, 後の詩人たち)」あるいは「キュクリコス(κυκλικ??, kyklikos, 環の)」と表すのが一般的で、これは「型にはまった」と同義語だった。以降、現代においても、「劣っている」=「後に書かれた」とされている。 アリストテレースは『詩学』の中で、筋の統一の大事さを述べるための材料として『オデュッセイア』を取り上げ、全体として統一が取れるように筋が組み立てられていると賞賛している。その一方で、『キュプリア』と『小イーリアス』を次のように批判している。「しかし、他の詩人たちは1人の人物、1つの時、多くの部分からなる1つの筋について話を構成する。『キュプリア』や『小イーリアス』がそうである。結果として、『イーリアス』や『オデュッセイア』からは1つの悲劇だけしか作れないが、『キュプリア』からはたくさん、『小イーリアス』からは8つ以上のものから作られる……」[3]。 近年[いつ?]では、ホメーロス以外の作品に含まれる幻想的・魔術的内容をもって劣っているとする意見もある[4]が、『イーリアス』や『オデュッセイア』にも喋る馬や一つ目の巨人は登場する。 叙事詩環の中で語られた話は、後世の作家たちの題材となった。 いつどうして8つの叙事詩が1つに編纂され、「環(サイクル)」と呼ばれるようになったかについても諸説ある。19世紀後半、David Binning Monro ホメーロスと他の作品の関係についても問題がある。ホメーロス以外の6つの叙事詩は、ホメーロスの話の前後と隙間を重複なく埋めるよう作られたように見える。しかし、元々はそうでなかったことは確かである。例えば、現存する『小イーリアス』の断片では、トロイア陥落後、ネオプトレモスがどうやってアンドロマケーを捕虜として連れ去ったかが語られているのだが[6]、プロクロスのあらすじではトロイア陥落の前で終わっている。元々の『キュプリア』はプロクロスのあらすじから推測される以上に、トロイア戦争を描いていたという説もある[7][注 1]。一方で、『キュプリア』は『イーリアス』を受けた形で構想され、プロクロスのあらすじは元々の構想を反映しているという説もある[8]。 いずれにせよ、編纂するにあたって、叙事詩間で調整が行われたことは確かである。『イーリアス』の最後の行は、次のように、ヘクトールの葬儀で終わっている。?? ο? γ? ?μφ?επον τ?φον ?κτορο? ?πποδ?μοιο. そして、『アイティオピス』の冒頭は、続けて読めるように、同じ書き出しで始まっている。?? ο? γ' ?μφ?επον τ?φον ?κτορο? ・ ?λθε δ' ?μαζ?ν,(大意:ヘクトールの葬儀が営まれ、それからアマゾーンが到着した) 反対に、叙事詩の間には矛盾もある。たとえば、トロイア陥落の時、ヘクトールの子アステュアナクスを殺したギリシア兵は『小イーリアス』ではネオプトレモスだが、『イーリオスの攻略』ではオデュッセウスになっている。
証拠
評価と影響
ウェルギリウス『アエネーイス』 - トロイア側からのトロイアの陥落。
オウィディウス『変身物語』 - ギリシア軍のトロイ上陸(『キュプリア』から)。アキレウスの武具の審査(『小イーリアス』から)。
スミュルナのコイントス『トロイア戦記』 - アキレウスの死からトロイア戦争の終局まで。
アイスキュロス『オレステイア』三部作などのギリシア悲劇 - アガメムノーンの死とその息子オレステースの復讐(『ノストイ』から)。
環の編纂
参考文献
Online Medieval and Classical Library text (translated by H.G. Evelyn-White, 1914; public domain)
⇒Project Gutenberg text (translated by H.G. Evelyn-White, 1914)
⇒Proklos' summary of the Epic Cycle, omitting the Telegony (translated by Gregory Nagy)
Bernabe, A. 1987, Poetarum epicorum Graecorum testimonia et fragmenta pt. 1 (Leipzig). ISBN 3-322-00352-3
Davies, M. 1988, Epicorum Graecorum fragmenta (Gottingen). ISBN 3-525-25747-3
Hesiod & Evelyn-White, H.G., 1914, Hesiod: The Homeric Hymns and Homerica (Loeb Classical Library) ISBN 0-674-99063-3
West, M.L. 2003, Greek Epic Fragments (Cambridge, MA). ISBN 0-674-99605-4
Burgess, J.S. 2001, The Tradition of the Trojan War in Homer and the Epic Cycle (Baltimore). ISBN 0-8018-7890-X (pbk)
Davies, M. 1989, The Greek Epic Cycle (Bristol). ISBN 1-85399-039-6 (pbk)
Kullmann, W. 1960, Die Quellen der Ilias (troischer Sagenkreis) (Wiesbaden). ISBN 3-515-00235-9 (1998 reprint)
Michalopoulos, Dimitri, Homer's Odyssey beyond the myths, Piraeus: Institute of Hellenic Maritime History, 2016. ISBN 9786188059931
Monro, D.B. 1883, "On the Fragment of Proclus' Abstract of the Epic Cycle Contained in the Codex Venetus of the Iliad", Journal of Hellenic Studies 4: 305-334.
Monro, D.B. 1901, Homer's Odyssey, books XIII-XXIV (Oxford), pp. 340-84. (Out of print)
Severyns, A. 1928, Le cycle epique dans l'ecole d'Aristarque (Liege, Paris). (Out of print)
Severyns, A. 1938, 1938, 1953, 1963, Recherches sur la "Chrestomathie" de Proclos, 4 vols. (Bibliotheque de la faculte de philosophie et lettres de l'universite de Liege fascc. 78, 79, 132, 170; Paris). (Vols. 1 and 2 are on Photius, 3 and 4 on other MSS.)
Severyns, A. 1962, Texte et apparat, histoire critique d'une tradition imprimee (Brussels).