オクシデンタリズムは、資本主義(capitalism)、マルクス主義(Marxism)、その他の諸々の主義(ism)と同じく、ヨーロッパで生まれ、その後に非西洋世界へと移動していった[13]。西洋は啓蒙主義の源であり、世俗的・リベラルな思想を生み出していったが、同時に反動的で有害な思想をも生み出してきた[13][注釈 2]。思想史的・歴史的には、オクシデンタリズムはヨーロッパの反宗教改革や反啓蒙主義
から始まっており、以降は東西のファシズム(結束主義)やナチズム(国家社会主義)、反資本主義や反グローバル化運動となり、今日の様々な場所での宗教的過激主義に至っている[19]。西洋に対する国家主義的・土着主義的反抗は、近代化の社会経済的諸力に対する東洋世界の反応を繰り返している。しかし、その起源は西洋文化にある。つまり資本主義・自由主義・世俗主義を、社会や文化に破滅をもたらす力と見なす理想主義的過激派や保守的国家主義者から起こっている[20]。近代西洋に対する反応は、初期は純然たる異文化との出会いだった。しかし後に現れた「オクシデンタリズム」の多くは、近代西洋思想を反転させ、民族国家の覇権・合理性に対するロマン主義的な拒絶・自由民主主義の一般市民の精神(心霊)的困窮、等といった思想へと変えた。
ブルマとマルガリートが突き止めたところでは、そうした反抗の由来はドイツロマン主義にある。また、19世紀ロシア帝国での西洋化主義者とスラヴ主義者との論争や、シオン主義(シオニズム)・毛沢東思想・イスラム主義(イスラム教)・帝国的日本国家主義のイデオロギーに現れている論も同根である[21]。
オクシデンタリズムにおける「西洋」イメージ「資本主義社会(市民社会)」、「自由主義(リベラリズム)」、「近代化」、「ブルジョア革命(市民革命)」、「啓蒙主義」、「合理主義」、「世俗主義」、「人権宣言」、「フランス革命」、および「アメリカ独立革命」も参照
オクシデンタリズムの敵意が向けられる矛先は、次のようになっている[22]。
敵意が向けられる対象対象のイメージ
「都市」「尊大、貪欲、軽薄で退廃的な根無しのコスモポリタニズム(世界主義)に彩られた」都市
「ブルジョア階級」「自らを犠牲にする英雄とは正反対に、自己保身に走る」階級
「西洋的考え」「科学と理性に裏付けられた」考え
「不信心者たち」「純粋な信仰世界のために倒されなければならない」者たち
オクシデンタリズムの土台
ドイツロマン主義「反合理主義」、「反機械論(反メカニズム/生気論)」、「反啓蒙主義」、「反知性主義(反主知主義)」、「感情主義(主情主義)」、「意志主義(主意主義)」、および「反近代主義(英語版)」も参照
かつて非西洋世界では、ドイツロマン主義は魅力的と認識されていただけでなく、崇敬の対象だった[23]。ロマン的なドイツ思想家(たとえばフリードリッヒ・ヴィルヘルム・シェリング)の胸像が運び込まれ、拝まれることさえあった[23]。『反西洋思想』は次の通り論じている[24]。
ドイツロマン主義は、他の西ヨーロッパのロマン主義と異なり、単なる文学・芸術運動ではない。非常に強い政治的、社会的意味合いを帯びていた。
シェリングは著書『自然哲学』で、宇宙を有機体として描き、一定のゴールを目指して動いていくものとした。これはアイザック・ニュートンが提唱した「力と原因によって動くメカニズムとしての自然」、つまりゴールを持たない自然という考え方とは正反対だった。